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異世界の「魔法使い」は底辺職だけど、オレの魔力は最強説  作者: 延野正行
第2章 ~~勇者候補育成校入試編~~

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第3話(前編)

前編からです。

 ほへー、と口を開け、マリーは張り出された成績表を見つめていた。


 総合トップに掲げられているのは、自分の姉の名前。


 複合基礎能力試験は全ジョブ共通だが、筆記試験は違う。

 一概に総合トップといっても、ある程度の不公平性はあるため、参考程度の成績だが、それでも1位をとってしまう姉の凄さに改めて感服した。


 筆記は満点。

 基礎能力でも筋力や体力、瞬発力といった基礎体力では、他のジョブの受験生にトップを明け渡してはいるが、30項目中24項目で1位を取っている。

 伝え聞いたところによれば、今のところ過去最高得点なのだそうだ。


 聞きつけた新聞記者たちが、大挙して学校に押し寄せ、姉はインタビューを受けている最中だった。

 これで、ほぼ無名だった姉が一躍、時の人になることだろう。


 ――はあーあ……。どんどんお姉ちゃんが離れていっちゃうよ……。


 自分の成績を見て、ため息を漏らす。


 マリーは、筆記こそ上位10名に入る事はできたが、複合基礎がボロボロだった。特に基礎体力は壊滅的で、筋力と瞬発力、さらに信仰では最低をとってしまった。


 総合でも、受験者総数535人中167位。半分を超え、まずまずといったところだが、実技に自信がないため、安心はしていられない。


 何よりこんな成績では、いつか姉に愛想を尽かされる。

 そう思うだけで、憂鬱だった。


 無意識に、また息を漏らす。


「今さら落ち込んでいても、どうにもならないでしょ?」

「うわあ!」


 思わず飛び退いた。

 すぐ横に少女が立っていた。珍しい事に、自分よりも背丈が低い女の子だ。


 ――うわー。なんか天使みたい……。


 金髪に、つるつるとした白い肌。瑠璃色の瞳も綺麗で、吸い込まれそうだ。


 ――わ! ちっちゃいのに! 大きい!


 ついつい修道服から盛り上がった胸の部分に目がいってしまう。

 反射的に、姉よりもさらに慎ましい胸を隠した。


「何よ……。幽霊を見るような目で見ないでくれる」

「幽霊っていうより……。天使、かな?」


 マリーが言うと、少女の真っ白い頬がみるみる赤くなっていく。

 黄金の髪をさらりと掻き上げ。


「ま、まあ……。なかなか見る目があるじゃない」


 やや声を上擦らせながら、賞賛に応じる。


「あなた、魔法使い志望ね。名前は?」

「うぇ……! わ、私? ええっと、マリー。マリー・ワドナー」

「ワドナー……? もしかして――」


 少女は顔を上げ、成績表のトップを見つめた。


「エルナ・ワドナーって? あんたの親戚かなんか?」

「お、お姉……ちゃん、だよ……です」

「お姉ちゃん? 双子なの?」

「いや、そのぉ……。お母さんがちがう……くて……」

「ああ。異母きょ、姉妹ってヤツね。……ということは、どっちかが妾の子なんだ。ズバリ、あんたの方でしょ?」


 訊きにくいことをズバズバと尋ねてくる子だな……。

 マリーは苦笑を浮かべる。


「じゃあ、あんたたち貴族か何かなのね。……ますます気にくわないわ」

「ご、ごめなさい」


 爪を噛んで悔しそうに顔を歪める少女を見て、マリーはつい反射的に頭を下げてしまった。


「別にあんたじゃないわ。半分はあんただけど」

「どっちなの?!」

「半分は、あんたの姉が気にくわないの。ま、金持ち全部が嫌いなんだけど、私は」

「あの……。その……」

「なに? ムカついた? ごめん。あまり誤魔化して喋るのは好きじゃないの」


 マリーは「ううん」と頭を振り、ローブの端をギュッと握った。

 そして吐き出した。


「名前!!」


 あまりに声が大きくて、今度は少女がのけぞる。


「はあ?」

「名前を教えて下さい」

「ああ。名前ねぇ。なに? 名前を訊いて、あとで親経由で口の悪い修道女を叱ってもらうってわけ?」

「そ、そんなこと――!」


 ぷるぷると、マリーは首を振る。

 少女はニヤリと笑った。


「そうよね。あんたって、そんな事をする人間じゃないと思う。……でも、教えない」

「――――!」

「ふふ……。嘘よ。あんたってからかい甲斐があるわー。とても貴族のお嬢様って感じじゃないし」

「あの――!」

「わかってるわよ。私はリコ。リコ・モントーリネ。リコでいいわ」

「……モントーリネ?」

「やっぱそっちに反応するわよね。たいそうな名前だもん。……そうよ。私、修道院で育った孤児なの。聞いた事がない? 修道院で育った子供は、みんな天神モントーリネからの授かりもの。だから姓をモントーリネって名前で統一するの。16歳になれば、改名できるんだけどね。私はまだ誕生日が来てないから。まあ……まだまだあやかりたいとは思ってるんだけどね」


 リコはふっと鼻で笑う。


「ところで、あんた。私の名前、聞き覚えがない? “リコ”・モントーリネって名前に」


 自分の名前をことさら強調する。

 マリーは首を振った。

 リコは心底を悔しそうに額に手を当て、星が出始めた日暮れの空を仰ぐ。


「そっかぁ……。自分では結構有名人だと思ってたんだけどねぇ。さすがにこんな田舎の地方じゃ、まだ伝わってないのかしら」

「わ、私とお姉ちゃん。中央区から来たんだよ」

「え? そうなの?」

「うん。……近くの育成校を受けても良かったんだけど、ここのゼルデ=ディファス地方の育成校は、何人もの優秀な勇者候補を輩出してるからって、お姉ちゃんが……」

「お姉ちゃんねぇ。……あんた、ずっとそんなんでこの先、生きてくわけ?」

「……ど、どういう、こと?」


「つまり、人の後ろを歩いていたら、一生その人には追いつけないってこと」


「――――!」

「本当は、お姉ちゃんに追いつきたいんでしょ?」

「な、なんで知ってるの……?」


 あ、と口を開け、マリーは慌てて塞いだが、もう遅い。


「自分の成績じゃなくて、姉の成績を見て、ため息を漏らしてる姿を見てたら、誰だって推測が付くわよ」

「……でも、お姉ちゃんに追いつくなんて。出来ないよぉ……」


「できる!」


 リコの声は、すっかり人通りがなくなった育成校の中央広場で、大きく響き渡った。

 すると彼女は、ずらりと並んだ成績順位の1つを指さす。

 それは複合基礎能力試験の1つ「信仰」のランキングだった。


 1位  リコ・モントーリネ    54点

 2位  エルナ・ワドナー     31点


「すごい! お姉ちゃんに勝ってる!」

「当たり前よ。信仰だけは誰にも負けない自信はあるの。あんたの姉も凡人にしてはやる方だけど、はっきり言って私の敵じゃない!」


 ほへー、と憧憬の眼差しをリコに向ける。

 ちなみにマリーは最下位組だ。体質のせいなので仕方がないが、それでも少し悔しい。


「でも、他の能力ではボロ負けだったわ。腹が立つぐらいね。自分としてはもうちょっと出来ると思ったんだけど……。ゼルデ=ディファス地方の育成校はレベルが高かったってことなんでしょうね」


 結局、リコの総合順位は120位。マリーより少し良い方である。

 基礎能力はそこそこだが、筆記が足を引っ張っていた。


「おっと話が脱線したわ。……次に見てもらいたいのは、ここよ」


 指さしたのは、瞬発魔力の項目だった。

 マリーが水を盛大にこぼした試験である。


 1位  マリー・ワドナー     34点

 2位  エルナ・ワドナー     25点


 そう――。

 実は、マリーはこの項目だけは1位だった。


「すごいじゃない」

「え……。いや…………。たまたまだよ。たまたま……。お姉ちゃんも調子が悪かったかもしれないし」

「例え、あんたが調子が悪くて、向こうが調子が良くても、こんだけ差は開かないと思うわよ」


 それに、とリコはまた違う項目を指さす。


「魔力でも2位を取ってるわね。……耐性でも4位に入ってる」

「な、何が言いたいの? リコちゃんは……」


「つまりはね。魔法っていう点なら、あんたは姉よりも才能があるかもしれないってこと」


 マリーは絶句した。

 リコは真剣な表情で睨んでくる。

 冗談を言っているようには見えない。


「そんなことないよ!」

「ある! 少なくとも私はそう信じてる」


 だから――――。


「マリー……。あんた、私のパーティに入らない?」


マリーの決断はいかに……。

後半へ続く。


※ 後編は18時に投稿します。

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最強勇者となった娘に強化された平凡なおっさんは、伝説の道を歩み始める。
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