表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の「魔法使い」は底辺職だけど、オレの魔力は最強説  作者: 延野正行
第2章 ~~勇者候補育成校入試編~~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/136

第2話(後編)

さらにパーティ候補のキャラが増えます。

 再び基礎能力試験の列に戻ったエルナは、偶然にも今回屈指の巨漢戦士バールの2つ前のポジションに並ぶ事ができた。


 バールは騎士の国――ガルドロム王国の天覧試合で、ジュニアの部3年連続優勝の記録を持つ逸材だ。すでにその剣技は大人顔負けで、育成校に受験する前から騒がれていた。


 しかもテストは、筋力テスト。力を量るには、絶好の機会である。


 ――ホント……。体格も顔も大人顔負けね。


 2ロールを越す身の丈と、今年で16とは思えないひげ面を見て、エルナは苦笑せずにはいられなかった。


 筋力テストは、試験官である魔法使いが徐々に体重増加の魔法を重ね掛けし、身体に負荷をかけていく。その回数がポイントになるという仕組みだ。ちなみに、手や肘をついた時点でテストは終了である。


「では、はじめるぞ」

「お願いします!!」


 体格が大きいと声も大きいらしい。

 試験官に、巨躯を曲げて一礼をすると、テストは始まった。


「1回目」


 はじめの1回目はかなり強めにかけるらしい。

 事実、並んで待っている間に、1回目で音を上げる者が何人かいた。


 しかしバールの表情に変化はない。

 続けて試験官は、2回目、3回目と体重増加魔法を重ね掛けしていく。

 そして――。


「13回目」


 本日の最高記録をすでに5回上回って、バールの顔に汗が噴き出し始める。

 最初の頃、穏やかだった表情も、猛獣とにらみ合いでもしているかのように人相が悪く。


 さすがに13回目となると、彼の身体だけではなく、周囲にも影響が出始めている。彼の周りの空気が微妙に歪み、心なしか身体が重く感じる。

 試験官も必死で、バール以上に疲れていた。


「14回目」

「ぐふっ」


 巨体が崩れ、バールは膝をついた。

 いつの間にか集まった野次馬からどよめきが起こる。


 ――化け物ね……。


 思わず心中で呟いた。

 推定だが、成人男性20人分の負荷がかかっていたに違いない。


 パーティには前衛に立てる戦士、魔法戦士、重装騎士のいずれかがほしい。

 その中で、バールは一級の適格者だ。


「是非とも私の仲間にほしいところだわ」


 呟いたのはエルナではない。

 ちょうど横に立っていた少女である。


 淡い金色の髪。

 夜明け前の空に似た瑠璃色の瞳。

 肌は白磁のように白いが、さほど冷たさは感じない。


 体躯はエルナよりも頭半分ほど小さく。

 その割には、青い修道服の上からでもわかるほど、はっきりと胸のラインが出ていた。


 胸のバッチには、格好からもわかる通り、『神官志望』と書かれている。

 その少女と目があった。


「何よ? あんた……」

「いや、大きいなって」

「は?」

「あ、いや! なんでもないのよ!」


 ははは、と誤魔化しつつ、少女と比べると慎ましい胸に手を置く。

 気にしてるわけではないが、少々不公平だとは思った。


「あんたも偵察?」

「そんなとこかな……」

「バールはあげないわよ。彼は私のパーティになってもらうんだから」

「それは本人次第じゃない?」

「あいつが利口なら、あっちから私のパーティに入れてほしいっていいにくるはずよ」


 ――すごい自信ね……。


 平静を装いつつも、心の中では苦笑を浮かべる。


「あなた、名前は?」

「エルナ・ワドナー」

「覚えておいてあげる。運が良かったら、私のパーティの末席に加えてあげてもいいわ。ただし席が残ってたらだけどね」


 捨て台詞を残す。もうここには用はないといった感じで、どこかに行ってしまった。


 ――名前を聞きそびれたわね……。


 それなりの実力者なのだろう。

 自信たっぷりの物言いが本物なら、"エルナ"のパーティに是非とも加えたいものだ。優秀な神官は、喉から手が出るほどほしい。


「次……ヴェルテ・ロードナア!」

「はい……」


 試験が再開される。

 いつの間にか、試験官の魔法使いが変わっていた。

 さすがに疲れたのだろう。


 呼ばれたのは、ちょうどエルナの前で待っていた少女だった。


 皮の胸当てに付けられたバッチには『戦士志望』と書かれている。

 体格の印象はバールとは正対していた。


 一見、細い手と足。なのに脆弱さは全く感じられない。むしろ力強く見える。

 おそらく途方もない鍛錬をしてきたのだろう。よく鍛えられた肉体から、筋肉が軋む音が聞こえてくるかのようだ。


 腰までさらりと伸びた黒髪。唇は薄く、肌も雪のように白い。

 眼鏡をかけているが、全体から漂う理知的なイメージをさらに強くしている。


 何より目が気に入った。

 常に遠くの的をいるような鋭い眼光。強い意志を感じる。


 そんな少女――ヴェルテが、どんなパフォーマンスをするのだろうか。

 バールの実技を見るよりも、心が躍った。


 試験官が構えをとる。


「では、開始する」

「お願いします……」


 静かに返事した。

 思わずエルナは息を止める。


「1回目」


 ヴェルテの表情は寸分も変わることはなかった。

 バールと同じく難なく低い回数をこなしていく。


 10回目になっても、ヴェルテは微動だにしない。

 代わりに、周りの野次馬のボルテージが上がる。


 そして11回目。


「……」


 ヴェルテの表情はいまだ変わらず。

 12回目の体重増加魔法がかけられようとした瞬間、突如彼女の身体が崩れた。

 這いつくばり、激しく息を繰り返す。


「ヴェルテ・ロードナア、11回。……立てるか?」


 試験官が差し出した手には頼らず、ヴェルテはゆっくりと身を起こした。

 書類を受け取ると、大きく黒髪が揺らし振り返る。

 ちょうどエルナと目が合った。


「もうちょっとだったのに、惜しかったわね」


 にこやかな笑顔で話しかける。

 エルナよりも頭1つ大きなヴェルテは。


「別に……」


 先ほどあんなに息を乱していたにもかかわらず、涼しげな顔で横を歩いていった。


 ――何を考えてあんなことをしてるか知らないけど、演技が下手ね……。


 でも――。

 気に入ってしまった。


 ――戦士はこれで決まったわ……。


 薄く微笑みながら、エルナは自分の実技に入った。


というわけで、様々なフラグが交差する回でした。

果たして、エルナの仲間になるのは一体…………。


※ 明日も前後編です。

  前編は12時。後編は18時。いつも通りです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作はじめました。↓↓こちらもよろしくお願いします。
最強勇者となった娘に強化された平凡なおっさんは、伝説の道を歩み始める。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ