第2話(後編)
さらにパーティ候補のキャラが増えます。
再び基礎能力試験の列に戻ったエルナは、偶然にも今回屈指の巨漢戦士バールの2つ前のポジションに並ぶ事ができた。
バールは騎士の国――ガルドロム王国の天覧試合で、ジュニアの部3年連続優勝の記録を持つ逸材だ。すでにその剣技は大人顔負けで、育成校に受験する前から騒がれていた。
しかもテストは、筋力テスト。力を量るには、絶好の機会である。
――ホント……。体格も顔も大人顔負けね。
2ロールを越す身の丈と、今年で16とは思えないひげ面を見て、エルナは苦笑せずにはいられなかった。
筋力テストは、試験官である魔法使いが徐々に体重増加の魔法を重ね掛けし、身体に負荷をかけていく。その回数がポイントになるという仕組みだ。ちなみに、手や肘をついた時点でテストは終了である。
「では、はじめるぞ」
「お願いします!!」
体格が大きいと声も大きいらしい。
試験官に、巨躯を曲げて一礼をすると、テストは始まった。
「1回目」
はじめの1回目はかなり強めにかけるらしい。
事実、並んで待っている間に、1回目で音を上げる者が何人かいた。
しかしバールの表情に変化はない。
続けて試験官は、2回目、3回目と体重増加魔法を重ね掛けしていく。
そして――。
「13回目」
本日の最高記録をすでに5回上回って、バールの顔に汗が噴き出し始める。
最初の頃、穏やかだった表情も、猛獣とにらみ合いでもしているかのように人相が悪く。
さすがに13回目となると、彼の身体だけではなく、周囲にも影響が出始めている。彼の周りの空気が微妙に歪み、心なしか身体が重く感じる。
試験官も必死で、バール以上に疲れていた。
「14回目」
「ぐふっ」
巨体が崩れ、バールは膝をついた。
いつの間にか集まった野次馬からどよめきが起こる。
――化け物ね……。
思わず心中で呟いた。
推定だが、成人男性20人分の負荷がかかっていたに違いない。
パーティには前衛に立てる戦士、魔法戦士、重装騎士のいずれかがほしい。
その中で、バールは一級の適格者だ。
「是非とも私の仲間にほしいところだわ」
呟いたのはエルナではない。
ちょうど横に立っていた少女である。
淡い金色の髪。
夜明け前の空に似た瑠璃色の瞳。
肌は白磁のように白いが、さほど冷たさは感じない。
体躯はエルナよりも頭半分ほど小さく。
その割には、青い修道服の上からでもわかるほど、はっきりと胸のラインが出ていた。
胸のバッチには、格好からもわかる通り、『神官志望』と書かれている。
その少女と目があった。
「何よ? あんた……」
「いや、大きいなって」
「は?」
「あ、いや! なんでもないのよ!」
ははは、と誤魔化しつつ、少女と比べると慎ましい胸に手を置く。
気にしてるわけではないが、少々不公平だとは思った。
「あんたも偵察?」
「そんなとこかな……」
「バールはあげないわよ。彼は私のパーティになってもらうんだから」
「それは本人次第じゃない?」
「あいつが利口なら、あっちから私のパーティに入れてほしいっていいにくるはずよ」
――すごい自信ね……。
平静を装いつつも、心の中では苦笑を浮かべる。
「あなた、名前は?」
「エルナ・ワドナー」
「覚えておいてあげる。運が良かったら、私のパーティの末席に加えてあげてもいいわ。ただし席が残ってたらだけどね」
捨て台詞を残す。もうここには用はないといった感じで、どこかに行ってしまった。
――名前を聞きそびれたわね……。
それなりの実力者なのだろう。
自信たっぷりの物言いが本物なら、"エルナ"のパーティに是非とも加えたいものだ。優秀な神官は、喉から手が出るほどほしい。
「次……ヴェルテ・ロードナア!」
「はい……」
試験が再開される。
いつの間にか、試験官の魔法使いが変わっていた。
さすがに疲れたのだろう。
呼ばれたのは、ちょうどエルナの前で待っていた少女だった。
皮の胸当てに付けられたバッチには『戦士志望』と書かれている。
体格の印象はバールとは正対していた。
一見、細い手と足。なのに脆弱さは全く感じられない。むしろ力強く見える。
おそらく途方もない鍛錬をしてきたのだろう。よく鍛えられた肉体から、筋肉が軋む音が聞こえてくるかのようだ。
腰までさらりと伸びた黒髪。唇は薄く、肌も雪のように白い。
眼鏡をかけているが、全体から漂う理知的なイメージをさらに強くしている。
何より目が気に入った。
常に遠くの的をいるような鋭い眼光。強い意志を感じる。
そんな少女――ヴェルテが、どんなパフォーマンスをするのだろうか。
バールの実技を見るよりも、心が躍った。
試験官が構えをとる。
「では、開始する」
「お願いします……」
静かに返事した。
思わずエルナは息を止める。
「1回目」
ヴェルテの表情は寸分も変わることはなかった。
バールと同じく難なく低い回数をこなしていく。
10回目になっても、ヴェルテは微動だにしない。
代わりに、周りの野次馬のボルテージが上がる。
そして11回目。
「……」
ヴェルテの表情はいまだ変わらず。
12回目の体重増加魔法がかけられようとした瞬間、突如彼女の身体が崩れた。
這いつくばり、激しく息を繰り返す。
「ヴェルテ・ロードナア、11回。……立てるか?」
試験官が差し出した手には頼らず、ヴェルテはゆっくりと身を起こした。
書類を受け取ると、大きく黒髪が揺らし振り返る。
ちょうどエルナと目が合った。
「もうちょっとだったのに、惜しかったわね」
にこやかな笑顔で話しかける。
エルナよりも頭1つ大きなヴェルテは。
「別に……」
先ほどあんなに息を乱していたにもかかわらず、涼しげな顔で横を歩いていった。
――何を考えてあんなことをしてるか知らないけど、演技が下手ね……。
でも――。
気に入ってしまった。
――戦士はこれで決まったわ……。
薄く微笑みながら、エルナは自分の実技に入った。
というわけで、様々なフラグが交差する回でした。
果たして、エルナの仲間になるのは一体…………。
※ 明日も前後編です。
前編は12時。後編は18時。いつも通りです。




