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異世界の「魔法使い」は底辺職だけど、オレの魔力は最強説  作者: 延野正行
第2章 ~~勇者候補育成校入試編~~

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第1話(前編)

第2章の本編開始です。

 マリー・ワドナーにとって姉の存在は、憧れであり、自分の王子様であり、同い年の同級生であり、そして常に比較対象されるライバルでもあった。


 異母姉妹の姉は、聡明で、冷静で、不屈で、努力家で、いつの間にか人に囲まれている人徳を備えた人だった。

 対して自分は、ドジで、間抜けで、不器用で、優柔不断――何より姉の影に隠れていなければ、人と満足に喋れないほどの恥ずかしがり屋だ。


 容姿だって負けている。


 風がそよげば、柔らかく梳かしてくれるよう金髪の姉。

 嵐にあっても微動だにしない硬い赤毛の妹。

 真珠のような肌の姉。

 そばかすだらけの妹。

 ぱっちりとした大きな双眸。

 丸い眼鏡がセットのど近眼。


 なのに、側室だった母は、事あるごとに「姉に負けるな」と叱咤した。


 ――そんなの無理だよ……。


 マリーはすでに4歳の時に、敗北を決めていた。


 決定的だったのは、姉が勇者候補になると言い出した時だった。

 実は、マリーも同じ夢を描いていた。


 勇者アヴィン。

 本当にカッコいい存在。

 お話の中でしか知らない真の王子様。

 勇者候補になって、強くなればいつか会うことができるかもしれない不死の存在。

 だからいつか賢者になりたいと夢見ていた。


 そう思って、姉より前からこっそり魔法書を読みあさっていた。


 なのに……。


 父は姉に有名な勇者候補を師匠に付けた。


 優れた理解力。要領も良く、なのに驕りを知らない努力家の姉は、メキメキと頭角を現した。

 10歳の頃には、140の魔法を使いこなした。これは、勇者候補育成校の卒業規定ラインを超える数字だ。

 12歳になると姉は、師匠とともに低レベルのダンジョンに入るようになり、14歳にはB級の『賢者』の称号を暫定的に授かった。


 マリーはというと、姉とは対照的だった。

 結局、15歳まで努力しても魔法は半分しか使えなかった。無理を言って、師と姉とダンジョンに入ったが、恐ろしくて10分もしないうちに出てきてしまった。


 極めつけは、師匠の一言だった。


「マリーは賢者に向いていない」


 優しい師匠だったから、こんな直接的な言い方ではなかったが、要約するとそういうことだった。


 原因は、信仰と魔力のバランスが偏っていること。


 ハインザルドの人間には、2つ力が内包されている。

 「信仰」と「魔力」だ。


 人間は、天神モントーリネが身体を創造し、神の尖兵となる予定が、魔獣や精霊の神である魔神シャルアンが「魂」を与えたことによって生まれた。

 故に天神の力「信仰」と魔神の力「魔力」を備えていると言われている。


 たいていの人間は、バランス良く持っているのだが、稀に偏った力を持って生まれてくる事がある。


 マリーは「魔力」の方へ偏っていた。


 そのため、天神の力を使う神託魔法を使えず、姉の半分しか魔法を使うことができなかったのだ。

 神託魔法を使えなければ、賢者にはなれない。

 だが、身体が受け付けないのではどうしようもない。


 賢者は憧れ。アヴィンの職業だ。

 そのために、努力を積み重ねてきた。


 姉ほどではないにしろ、人よりは頑張ってきたはずだ。


 なのに、何故……? 神様は残酷な試練を与えたのだろう……。


 父は諦めろと言った。母は呆れて何も言わなかった。

 師も姉も、マリーの決めることだと厳しい言葉をかけた。

 人生で一番悩んだと思う。


 結局、マリーは「魔法使い」を選択した。


 魔法使いというジョブが、世間でどう言われているかは知っている。

 後衛のお荷物。根暗。貧弱。負け組。底辺職……。

 けれど、賢者は諦めても、勇者候補になることは諦めきれなかった。


 そしてようやくこの日が来た。


 勇者候補育成校入学試験。

 姉だけではない。多くの勇者候補を目指す同い年の人間とのサバイバル。


 いつも姉に隠れていたマリーにとって、初めての公正な判断の中で行われる試練だった。




 マリーは炭筆を握りながら、硬い赤髪を掻き毟っていた。


 勇者候補育成校入学試験1日目(午前の部)。

 筆記試験(『魔法使い』志望者)。


―― 問5 ―― 

 炎系と水系を同じ魔力で放ち対衝突した際、水系魔法が有利である理由を3つ述べ、合わせて原理と術式の構造を記述せよ。ただし術式については、 3節以上を基本とする。


 まだあと10問以上もあるというのに、序盤から現れた難問の論述問題。


 答えがわからないわけではない。ただ頭で理解出来ていることを文章に直すのが難しいのだ。マリーは特にコミュニケーションが下手だったから、こういう論述問題は苦手としている。


 筆記するだけでもかなりの時間を使う。

 うまく文章をまとめ、短くすることはできないか、と考え始める。


 それが「問5」を考えた出題者のいじわると知らずに……。


 うー、という言葉が喉から出かかって、慌てて口を塞いだ。


 周りを見渡せば、受験生が自分と同じく答案用紙と睨めっこをしている。

 さらさらと音を立てる音が一層、マリーを不安にさせた。


 怖い……。


 初めて姉以外と比べられることが、こんなに怖い事とは思わなかった。

 失敗したらどうしよう。今までの苦労が水の泡になるのではないか。本当は自分は底辺の人間で、落ちこぼれではないのか。

 負の感情が、決壊したダムのように湧き出てくる。


 試験の最中である事も忘れ、ぎゅっと炭筆を握っていた。


 ふと六角形に削られた持ち手の面に、書かれた文字が気になった。


 『落ち着け!』


 姉の字だ。マリーが試験で緊張しないようにと、書いてくれたもの。

 だけど、まるで姉に叱られているようで、余計に身体が強ばってしまった。


 続いて、面を変える。


 『マリーならできるよ!』


 落ち込んでいる時に、いつも姉がいう台詞……。

 この言葉があったから、少しずつだがマリーは前に進めたと言ってもいい。


 さらに。


 『時間がかかる問題は後回し』


 やたらと具体的な指示が書いてあって、思わず苦笑してしまった。

 やはり姉には叶わないと思った。


 ――そうだ……!


 もう一度、マリーは試験会場となっている教室を見渡した。


 魔法使い志望者は他のジョブに比べ極端に少ない。

 しかも志望者のほとんどは、勇者候補になってダンジョンを潜りたいと考えているわけではない。

 魔法使いの卒業認定が必要となる各種の魔法草を扱うためだ。

 大概が魔法道具屋や大手のアイテムショップの就職を目指す受験生だろう。


 確かにみんな頭が良さそうに見える。


 けれど……。


 姉より賢いとは思えない。

 あのプレッシャーに比べれば、大したことはない。


 そう思うと、マリーは少し楽になった。


 忠告通り、問5を飛ばし、問6に入る。

 炭筆を引く音は、全受験生の中で、もっとも軽やかに響き渡った。

第2章のメインヒロインの1人であるマリー登場です。

後編ではもう1人のヒロインお姉さんが登場。


※ 後編は本日18時投稿です。

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最強勇者となった娘に強化された平凡なおっさんは、伝説の道を歩み始める。
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