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異世界の「魔法使い」は底辺職だけど、オレの魔力は最強説  作者: 延野正行
第1章 ~~セラフィ編~~

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第10話(前編)

とうとう……。

 “それ”は、現れた。

 あたかも最初からそこにいたかのように…………。


 闇に見間違うほどの黒色の肌。

 鋼のような肉体。

 人間のような手と足。

 つるりと禿げ上がった頭には、特徴的な2つの触覚が突き出ている。


 武器はおろか衣類すら帯びていない。が、人間にあるべき性器は存在しなかった。


 独特……という言葉はあまりに陳腐。

 譬えるなら“恐怖”……。

 1つの概念が集束し、1個の“個”へ集約したような。


 無類の存在感が、パーティが集まる中央に現れた。


 ナンダ? テメ――――。


 それが禿頭の重装騎士が現世で吐き出す今際の言葉になった。


 無造作になぎ払われた手――というよりは刃は、あっさりと騎士の首を狩り取る。


 噴水のように血をほとばしらせ、膝から落ちて倒れた。


 酒杯を傾けたように首級を掲げ、滴る鮮血をあおる。

 顔面を真っ赤にしながら満足し、ゴミのように首を投げ捨てた。


 硬い金属音が不意に鳴る。


 銀髪の賢者が、ショートソードで突き刺していた。

 しかし漆黒の肉体を貫くはおろか、弾かれてしまう。


 はっと恐怖で表情を引きつらせた瞬間――。


 すでに男の首は、胴から離れていた。


 まるでトレイに載せたグラスを摘まむように、“それ”は再び人血をあおる。


 ぐびぐびと喉を鳴らす音を聞き……。

 かすむ視界に絶望を捉えながら。

 セラフィの頭に2文字の言葉が浮かんだ。



 ――魔族……。



 魔界という人間とは異なる世界に住む種族にして、神、人の天敵。

 500年前に終結した『終わらない戦争』――。

 たった1体の魔族が、1000人の人間をあっさりと葬ったという。


 比較にならないほどの個体差を持つ存在。


 それが今、自分の目の前で人間を捕食している。


 さも人が、豚や牛、鶏の肉を食うかのように……。


「に……げ…………。く、りゅ……」


 セラフィに力は残されていない。

 顎はおろか舌すら満足に動かせない。


 それでも懸命に声をかける。

 仲間の唐突な死に驚き、小水を漏らしながら立ちすくむ仲間に……。


 神官の肩がピクリと動く。

 瞬間、彼女は背を向けて逃走した。


 が――。


 あっさりと魔族に回り込まれる。

 間髪入れず、胴が折れるのではないかという勢いで蹴り飛ばされた。


 太い幹に叩きつけられると、撥条のように跳ねて反対側の古代樹に激突する。


 5ロール上方から滑り落ちてくると、四肢はあらぬ方を向き、口から舌を突き出して息絶えていた。


「く……」


 顔をそらす。

 見てられなかった。

 美しい顔をした神官の苦悶の顔。

 それだけではない。

 無慈悲な現実を……。


 あの時もそうだった。


 とあるダンジョンに迷い込んだ魔族の討伐。

 ギルドがS級認定したクエストにチャレンジしようとした過去……。

 自分の弱さとたった1つの言葉によるおごりによって、セラフィは仲間を失った。



 セラフィがいれば大丈夫だよ……。



 大丈夫なものか!


 結果、また仲間を失った。

 なのに、怒りが沸いてこない。


 泣きたくなった。

 でも、己の無力さを嘆くものではない。

 ただ純粋な恐怖……。単純に怖かった……。


「ふむ……。まあまあ回復したか……」


 己の肉体を確かめながら、魔族は呟いた。


 久しく忘れていた。絶対的な恐怖……。


 出来れば逃げ出したい。放り出したい。

 見たくない。聞きたくない。

 触りたくも、感じたくもない。


 なのに……。なのに、だ。


 立ち上がっているのは、何故だ……。


「ほう……。その身体で立ち上がるか、人間よ」


 魔族は酷薄な笑みを浮かべる。


「待っていろ……。今、殺してやる」


 手を前に掲げ、魔族はゆっくりと近づく。

 血とドブが混じったような臭いが、目の前から漂ってきても、セラフィは立ったままだ。


 女賢者の顎を乱暴に掴む。

 そのまま掲げるように持ち上げた。


「自爆か……。その手にはのらんぞ、人間」


 すべてを見透かし魔族は笑う。

 あっさりと万策が尽きた……。


 …………ズゥン。


 “音”が聞こえたのは、直後だった。

 樹林の鼓動のような音が、最初は静かに、しかし徐々に大きくなってくる。


 魔族も気付いたのだろう。

 セラフィを持ったまま、振り返る。


 次の瞬間、2本の古代樹を押し倒された。

 まるで末期の悲鳴のように巨大な樹木が倒れていく。

 砂煙と人の顔よりも大きな葉が舞い散る中。


 現れたのは巨大な竜だった。


 視界いっぱいに広がった巨体を振るわせ、長い首をうねらせる。

 その首からは大量の血と、黒い炎が噴き出ている。

 それでも、ひどく濁った長嘶を上げ、場のすべてに自分の怒りをぶつけた。


「獣風情が――」


 魔族から黒い刃が放たれる。

 それを真っ直ぐに縦に振り下ろした。


 突如割り込んできたエヴィルドラゴンは、天を仰いだ後、高く悲しげに嘶く。

 力なく首が垂れた瞬間、長い首は卸した魚のように真っ二つに開いていた。


 一瞬だ。


 セラフィ達があれだけ苦しんだエヴィルドラゴンを、魔族はあっさり葬りさった。

 力の差は歴然だった。


 それでもソロの賢者は拳を振るった。


 腰が全く入っていない拳打は、魔族の禿頭に当たる。

 ほほう、と感心しながら、また笑みを浮かべた。


 セラフィの脳裏にあったのは、ひどく無意味な感情だった。


 ――仲間を、守らなければ……。


 とうに死んだ感情のはずだった。


 仲間などいない。

 守るべきものなどいない。

 パーティなど、自分にとっては契約者に過ぎない。


 しかし、最後の最後に残ったのは、とっくに捨てた使命感……。

 最初のパーティを作った時に、自ら定めた絶対的な決めごとだった。


 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も


 何度も殴りながら、セラフィは涙する。


 悲しくもあり、嬉しくもあった。そして情けなくもあった。


 仲間を再び失ってなお、やっと自分の心に気づけたのだから……。


「もういいだろう、人間……」


 魔族は徐々に力を込める。


 骨がミリミリと音を立てた。

 顎どころか、そのまま頭蓋骨を砕いてしまいそうな力だった。


 ――すまない……。


 頬に伝った最後の一滴は、先に逝った仲間に向けた。


 滴は魔族の腕を伝い、滑っていく。

 はらりと弧を描き、腕の裏へと向かう。

 したたり落ちる瞬間――。



 魔族の腕は切断されていた。



 濁った魔族の血液がほとばしる。

 血の色に似た赤い瞳が、驚愕に見開かれた。


「が――」


 大口を開け、魔族はのけぞる。

 体勢を整え、瞬時に後方30ロールまで飛び退いた。


 地面に倒れ伏したセラフィは、なんとか顔を上げる。

 薄ぼんやりとした視界の角に捉えたのは、人の背中と――。



 死に神のような大きな鎌だった……。



「くそ! もう来たのか! 魔法使い!!」


 苦悶の表情を浮かべながら、魔族は吐き捨てた。


さーて、後編は無双回ですよ~。


※ 後編は本日18時に投稿です。

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最強勇者となった娘に強化された平凡なおっさんは、伝説の道を歩み始める。
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