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異世界の「魔法使い」は底辺職だけど、オレの魔力は最強説  作者: 延野正行
第4章 ~~最強魔法使いへの道程編~~
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第26話 ~ これが聖剣? ~

ご無沙汰しております。

遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。

本年もよろくお願いします!

 翌朝、アヴィンはマサキに打ち明けた。


 現在、魔界で人間界に危機的な状況をもたらす兆候があること。

 調査のためアヴィンとエーデルンドが離れること。

 最後に、子供の気持ちを確かめた。


 マサキは残りたい、と主張した。

 2人にとってみれば、少し困ったことではある。

 だが、彼ならそういうだろうと思っていた。


 むしろマサキは――。


「ぼくも、アヴィンとエーデルンドについていっちゃダメなの?」


 思いも寄らぬ提案をした。

 さすがに2人は慌てた。

 無知とは言え、Aクラス冒険者でも裸足で逃げ出すほど、魔界は恐ろしい場所だ。やっと10歳になり、暫定のB級ライセンスを持つほどの力を持つマサキでは、さすがに荷が重い。そして子供を連れ回すことが出来るほど、魔界は甘い世界ではない。


 それは叶わなくとも、マサキはここに残りたかった。


 離れれば、ルシルフと会えなくなる可能性がある。

 何より――。



 自分がここを離れたら、2度とアヴィンとエーデルンドに会えないような気がした。



 不吉な予感だ。

 けど、彼は自身の手によって、家を守りたかった。

 ここは、マサキの第2の我が家なのだから。


 すべてを聞き終えたアヴィンは、長く息を吐いた。

 一旦背もたれにもたれかかる。

 エーデルンドは休憩の意味を込めて、茶を用意した。


 思っていたよりも、マサキの意志は固い。

 無理矢理にでも突き放すことも出来るだろうが、きっと彼はここに戻ってくるだろう。


 でも、嬉しかった。


 ハウスを我が家だといってくれたことが。

 アヴィンからすれば、ここは魔界を監視する前線基地だ。

 けれど、いつの間にかこのハウスは、自分が帰る場所になっていた。

 そのことを、子供の口から聞いて初めて気付く。


 しかし、感情論と実情は違う。

 マサキの決意は喜ばしいことだが、頷くことは出来なかった。


 エーデルンドが出してくれた茶を一口啜った後、アヴィンはこう切り出した。


「条件がある――」


 ピンとマサキは背筋を伸ばす。

 隣に座るエーデルンドも、茶が入ったカップを飲まずにテーブルの上に置いた。


「僕たちが出発するのは、約1年後だ」


「1年……」


 マサキは喉を鳴らす。


「その1年で、ぼくたちが認めるほどのマサキが強くなれば、ここにいてもいい」


「ホント?」


 マサキの瞳が、星屑を流し込んだかのように光を帯びていく。


「僕は仮にも勇者だよ。嘘はいわない。それに、僕たちは君が強くなることに全面協力する。いいだろ、エーデ?」


「依存はないよ。その代わり――マジで死ぬかもしれないよ、あんた」


「え?」


 一転、少年の顔は蒼白となった。

 アヴィンは頷く。


「そうだね。死ぬかもね」


「え、ええ? アヴィンまで!!」


「それぐらいしないと、1年で強くなれないよ。少なくとも、横で茶をしばいてる魔族よりも強くなってもらわないとね」


 家族会議に何故か混じっているロトを見た。

 さっきから茶を飲んだり、菓子受けをもりもり食べていたロトは、ヒラヒラとした手を止めた。


「はん! 1年そこらで修行したって、俺様より強くなるわけないだろ」


「や、やってみないとわからないよ、ロト」


「はっはー。やれるもんならやってみな」


 笑い飛ばした。

 マサキは「むぅ」とむくれている。


 アヴィンは子供の表情を見ながら、クスリと笑った。

 話を続ける。


「1年で強くならなければ、大人しくここを去ること。また1年の間に有事があり、僕とエーデがここを離れなければならない事情が出来た時、君が一定以上強さがなければ、同じく去ること」


「どういうこと?」


「つまり、魔界で何かあって、あたしたちが出っ張らなければならない状況になったら、即刻あんたを退去させるってことさ」


 エーデルンドは捕捉する。

 アヴィンは頷いた。


「それでもいいね」


「うん。構わないよ。ぼく、絶対強くなるから!」


「ごめんね、マサキ」


「どうして謝るの、アヴィン。無理をいっているのは、ぼくの方だよ」


 アヴィンは少しの間だけ瞼を伏せた。


 違う。

 違うのだ。

 無理をさせたのは、無理をいったのは、アヴィンたちの方なのだ。


 謝っても謝り尽くせない。


 罪があるのは、アヴィンの方だった。


「最後に聞いてほしいことがあるんだ、マサキ」


 アヴィンが口を開きかけたその時、突如雨が降り始めた。

 鈍色の雲が空を覆い、まだ朝だというのに夕闇のように薄暗くなる。

 雷がなり、やがて雨脚も強くなってきた。


 ぴちゃり……。


 雨音に混じって、何か聞こえる。

 ハウスに何か近づいていた。

 アヴィンとエーデルンドが同時に立ち上がる。

 遅れて、マサキ。


 ハウスの入り口にそっと近づき、ドアを開いた。


 アヴィンとエーデルンドは息を呑む。

 2人の間から顔を出したマサキは、目を大きく広げて叫んだ。


「ルシルフ!!」


 確かにそれは、小さき魔界の王だった。


 明らかにいつもと様子が違う。

 薄紫の長い髪は乱れ、鮮やかな緑の瞳は、生気を失いかけている。

 透き通るような白い肌は、泥に汚れ、裂傷と火傷の痕が見られた。


「ま、さき……」


 ふっとルシルフは笑う。

 すると、崩れ落ちた。

 髪が広がり、泥の色を吸い続けた。



 ◆◆◆



 話を中断し、アヴィンはエーデルンドと手分けをし、ハウスに運んだ。

 2人の寝室へと担ぎ込み、ベッドに寝かせる。


 アヴィンは目を細めた。


 ひどい傷だ。

 見た目もそうだが、精神に作用するような呪いをいくつも受けている。

 おそらく魔法もしくは強力な呪術をかけられた後、嬲られたのだろう。


 翻せば、彼女もよく保っている方だった。


 彼女にかけられた呪いは、1つとっても触れるだけで正気を失うか、絶命するほどのものだ。ルシルフは1000近い呪いの種類を受けつつも動き、このハウスまでやってきた。

 大した生命力だと感嘆せずにはいられなかった。


「さすがは――といったところかな」


 アヴィンは真剣な眼差しで、傷ついたルシルフを見つめた。

 そんな勇者の服の袖を、マサキは掴み哀願した。


「アヴィン! この子なんだ! この子がぼくが好きな――。だから、お願い助けてあげて!」


「マサキ、落ち着きな!」


 エーデルンドは一喝する。

 いつもなら、シュンとなるはずのマサキもこの時ばかりは「でも――!」と反論した。そんな子供の頭を、アヴィンは軽く撫でる。


「大丈夫。マサキの大好きな人は、そんなに弱い人じゃないよ」


 アヴィンは優しい言葉を投げかけた。


 勇者は困っていた。

 手当をしてあげたいのは山々だが、相手は魔族だ。

 人間に使う回復魔法も、ルシルフに対しては毒を与えるようなものだった。

 それに、外傷よりも問題なのは、彼女が抱えている呪いだ。

 これを解呪しなければ、例え傷が癒えたところで一緒だった。


 こうして考えている間にも、ルシルフはどんどん衰弱していく。

 呻きを漏らす度に、マサキは顔を歪めた。


「あたしがひとっ走りいって、守銭奴(ナリィ)を連れてこようか?」


「それじゃあ、時間がかかりすぎる。呪術の種類からいって、今夜が峠かもしれない」


「そんな……」


 マサキの顔がみるみる蒼白になっていく。

 ルシルフの手を反射的に掴んだ。

 絶望的に冷たかった。


「マサキ、落ち着きな。……アヴィン、方法はあるんだろ?」


「ああ。ちょっと危険な方法だけどね」


 普通、呪いの解呪は絡まった紐を丁寧にほどくような作業だ。

 簡単な呪いであれば、アヴィンやエーデルンドにも解くことは出来るが、ルシルフにかかった呪いは、専門家が10人そこいら集まったところで、明日中に解けるようなものではない。


 ならば別の方法をとるしかない。


 アヴィンがやろうとしているのは、その紐を無理矢理引きちぎることだ。

 簡単で、短期的に治癒出来る一方、一旦癒着してしまった呪いを引き剥がす行為は、対象者の生皮を剥ぐようなものだった。

 当然、激痛を伴う。最悪死もあり得るだろう。


「そんな――」


 マサキは項垂れる。

 アヴィンは小さな肩に手を置いた。


「大丈夫。君の大事な人は、僕が必ず救ってみせる」


「本当に?」


「これでも、僕は勇者だからね」


 すると、アヴィンは手を掲げた。

 魔力が収束し、目映い光が寝室を包んだ。



 光より来たれ! 聖剣デグロス!!



 力強い言葉が響く。

 やがて光が収縮していく。

 元の明るさに戻ったが、寝室の中心で暖かな光を放つものがあった。


「聖剣?」


 マサキは見つめたのは、アヴィンの手の前に浮かんだものだった。


 白鞘に、まるで光を集めたかのような金色の細工。

 いくつもの魔石が、純真な輝きを放っていた。


「これが聖剣?」


 マサキが首を傾げるのも無理はなかった。


 アヴィンの手の平の上で浮かんでいたのは、子供の親指ほどの小さな剣だったからだ。


こちらはかなりまったり更新ですが、引き続きよろしくお願いします。


新作『最強勇者となった娘に強化された平凡なおっさんは、伝説の道を歩み始める。』を投稿しております。是非、そちらも読んで下さい。よろしくお願いします。

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最強勇者となった娘に強化された平凡なおっさんは、伝説の道を歩み始める。
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