表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の「魔法使い」は底辺職だけど、オレの魔力は最強説  作者: 延野正行
第4章 ~~最強魔法使いへの道程編~~
131/136

第20話 ~ 人の声に耳を傾けな ~

お待たせしてすいません。

第4章第20話です。

 よく晴れた空の下、少年と赤髪の女が対峙していた。

 広い草原の上を風が滑っていく。

 緩やかに互いの衣服と髪を揺らした。


 マサキ、そしてエーデルンドだ。


 2人の闘気が漲っていく。

 最高潮に達した途端――。


「きぃいい!」


 甲高い奇声を上げて、飛竜が飛び立っていった。


 瞬間、マサキは飛び出す。

 1歩遅れたエーデルンドは、ややスタンスを広げた。

 突撃する弟子に対して、迎撃の姿勢を取る。


 マサキは飛び上がった。

 上段回し蹴り。

 いきなりの大技だったが、エーデルンドは軽々さばく。


 だが、マサキの攻撃は終わらない。

 器用に空中で姿勢を変える。大きく足を上げ、赤髪に振り下ろした。


 渾身の踵落とし――。


 さすがのエーデルンドも、両腕を使って防いだ。

 組み手をやり始めてから、マサキの体重は10キロ以上増えている。

 筋力はさらに倍加し、子供といえど1発の威力は決して軽くはない。


 踵落としも防がれたが、マサキは動く。

 着地すると、今度はがら空きになったボディへ拳打を放った。


 エーデルンドもボケッと見ていたわけではない。

 すぐに構えを直し、少年の拳を迎撃する。

 一呼吸で、5連打を打ち込むが、そのどれもが致命傷に至らない。


「攻撃が雑になってるよ!」


 叱るのだが、マサキは容赦なく拳打を入れる。


 速い。

 さらにスピードが増す。

 だが、エーデルンドはそのすべてに対応した。


「もっと動きな!」


 呼吸を合わせ、意識が攻撃に向いた少年の足を払う。

 体勢を崩した瞬間、エーデルンドは下段突きが相手の顔面を捉えた。


 入った――。


 が、マサキの目は諦めていない。

 むしろ獲物を罠にかけた猟師のような目をしていた。

 倒れた体勢のまま振り下ろされた下段突きを両腕で捉える。

 足をあっという間に絡めると、極めた(ヽヽヽ)


 現代世界でいう飛びつき腕ひしぎ十字固めといったところだろう。


「あまい!」


 エーデルンドは一喝する。

 普通は腕を引き抜くところだろうが、彼女がやったことといえば、逆だ。


 腕を突き入れたのだ。


 正確には受け止められた下段突きを無理矢理押し込めたのである。

 マサキの腕と足の中で加速した拳は、小さな顎へと届く。

 そのまま振り抜くと、地面へ叩きつけた。


「ぐはぁ!」


 身体の空気が一気に吐き出されるような衝撃――。

 目の前で火花が散る。

 半分微睡む視界の片隅で、エーデルンドの追撃が見えた。


 マサキは反射的に身体をひねる。


 拳をかわすことに成功したが、サッカー蹴りが脇腹を襲った。

 10歳の少年の身体がまさにボールのように舞い上がる。

 草原の上に叩きつけられた。


「痛ったぁ……」


 脇腹の辺りを押さえながら、マサキは蹲る。

 その顔面にエーデルンドは、再び下段突きを振り下ろした。


 寸前で止まる。

 息を吐くと、構えを解いた。


「まったく……。全然ダメ。攻撃を淡泊すぎる。相手をダウンさせることに固執しすぎて、身体の使い方を大きすぎるんだよ。だから、初動がバレバレ」


「……ぐぅ…………うう」


「腕ひしぎの狙いは悪くなかったけど、まだ技が荒い。付け焼き刃の技を使うよりも、もっと基本をしっかりしな。あんたはまだ身体が出来ていない。自分よりも強く、身体の大きな相手に対しては被弾しないことを意識しな。そのためには足を使って――」


 マサキは立ち上がる。


 顔をしかめ、脂汗を垂らしていたが、腕を上げて構えた。

 両腕の奥から鋭い眼光を放ち、荒く息を吐き出す。

 子供とは思えない。野獣のような闘気を放っていた。


「もう1本……。お願いします」

「人の話を聞いていたのかい」


「…………」


「ふー。何があったか知らないけど、昔のあんたを思わせるね。また1人で抱え込んでるんじゃないだろうね」


「違う……」


「どう違うんだい?」


 マサキが最近、またコソコソと何かをやっていることは知っている。

 犯人はロトで、概ね黒の森にでも出入りでもしているのだろう。


 止めても聞かないし、そもそもロトが勝手にさらっているようだ(故に発見が難しい)。


 ロトが付いているから、比較的安心はしているのだが、親としては気が気でなかった。


「強くなりたい」


 マサキは呟いた。

 ハッとするほど、意志力に溢れた言葉だった。

 一瞬見せた大人びた表情に、エーデルンドはつと言葉を失う。


「それは誰かを倒すためかい? それとも誰かを守るためかい?」

「どっちも違うと思う」

「ほう……。じゃあ、一体なんなんだい?」

「追いつきたい」

「追いつく?」



 ある人に追いつきたいんだ?



「ある人? それはアヴィン? それともあたし? もしくはロト?」


 マサキは首を振った。


「じゃあ、一体誰?」

「それは言えない」

「あんたはその人を倒したいのかい?」

「違う。……しいていうなら、その人の隣に立ちたいんだ」

「ふーん」


 エーデルンドは目を細めた。

 何となく、マサキのおかれている現状を理解した。

 すると、マサキをビッと指さす。


「マサキ……。強さとは何だと思う?」


「そ、そんなのいきなり言われてもわからないよ」


「だろうね。強さには様々なものがある。あたしはたくさんある強さの中でも、もっとも重要なのは、“自信”だと思ってる」


「自信……」


「確かにありすぎれば、それは慢心になる。しかしだ。なさ過ぎるとというのも問題なんだ。今のあんたには、恐らくそれが欠けている。だから、焦っているんだろうね」


「ぼくが…………焦ってる?」


「じゃあ、それを付けるためにはどうしたらいいと思う?」


 マサキは少し時間を掛けて考えた。


「……練習?」


「良い答えだよ。……でも、練習だけでは自分の立ち位置はわからないだろ」


「強さの指標ってこと?」


 エーデルンドは大きく頷いた。


「そのためにはどうしたらいい?」


「エーデを倒すとか? 何かの大会に出るとか?」


「違うね。誰かを倒したとか、大会で優勝したとかいう自信はね。結局、結果であって、自信ではない。あたしから言わせれば、それは慢心だ」


「じゃあ、どうしたらいいの?」


「人の声に耳を傾けな」


「え?」


「あんたを心配し、あんたを心の底から信じ、あんたを真に思いやってくれる人の声に耳を傾けな。それは決して多くないはずだ。だからこそ大切にしなければならない。そうして人のことを考えることによって、自ずと立つ位置が見えてくる。自分が何をすればいいかわかってくるのさ」


 マサキの肩を叩く。

 息子は顔を上げ、感謝の言葉を述べた。


「ありがとう。エーデ」


「わかってくれたかい。さて、今日の組み手は――」


「でも――。ぼくは強くならなきゃいけない。その人との距離が、絶望的に空いていたとしても、ぼくは追いつかなきゃならない」


 やがて少年は構えを取る。

 冷めた闘気を、再び燃え上がらせた。

 眼光は先ほどよりも鋭く感じる。


 ――まただ。


 エーデルンドは思った。

 先ほどよりも、またマサキは1つ大きくなったような気がする。

 ほんの数分ごとに息子が強くなる理由。

 少し興味が出てきた。


「マサキ……」

「なに?」


「もし、次の1本……。あたしに勝てたら、アヴィンとの相談の上でだけど、あんたの強さを一段階引き上げてあげるよ。それであんたはもっと強くなれる」


「ホント!?」

「ああ……。アヴィンがOKしたらだけどね」

「やった!」


 マサキは飛び上がった。

 はしゃぐ少年は見ながら、エーデルンドは一喝する。


「ただし――! あたしが勝ったら、“あの人”のことを教えること。どうだい?」


 マサキは固まる。

 数秒悩んだ末、答えた。


「いいよ」


 覚悟を決めた顔だ。

 エーデルンドは口角を上げる。


 それぞれの覚悟を賭けた組み手が始まった。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

なるべく早めに更新出来るように頑張ります。


新作『リトルオークと呼ばれるぼくが、学園一の美少女【姫騎士】からご指名がかかったのだが、どうしたらいいだろうか?』という作品を投稿してます。よろしければ、ご一読ください。


↓↓↓からジャンプ出来ます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作はじめました。↓↓こちらもよろしくお願いします。
最強勇者となった娘に強化された平凡なおっさんは、伝説の道を歩み始める。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ