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異世界の「魔法使い」は底辺職だけど、オレの魔力は最強説  作者: 延野正行
第4章 ~~最強魔法使いへの道程編~~

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第18話 ~ “好き”って決めてしまったんだ ~

お待たせしました。

 白い絵筆で線を引くように山の稜線が輝きはじめる。

 時間と共に、朝日が顔を出した。

 夕焼けにも似た赤い朝空を見ながら、ルシルフは名残惜しそうに立ち上がる。


「朝か……。忌々しいことじゃが、そろそろお別れじゃ」

「そうなの?」

「うむ。……余はこれでも王であるからな。玉座に余が不在となれば、心配する者も現れる故。覇王の悲しき定めよ」

「そうか。じゃあ、ぼくも戻らないと」


 同じくマサキも立ち上がった。

 パンパンと尻を叩く。

 長時間座っていたためか、ごわごわしていた。


「うむ。面白い話だった、マサキ」

「ううん。こんな話で良ければ、いつでも……」

「いつでもか……。それは魅力的な提案だな」


 ルシルフはどこか達観したように薄く微笑む。


「ルシルフ」

「なんじゃ?」

「今度はいつ会える」


 深緑の瞳が大きく見開いた。

 同時に、黒い森に漂う朝の空気を大きく吸い込む。


「お主、また余に会おうというのか?」

「え? ダメ? 折角、友達になれたのに、1回っきりじゃもったないないよ」

「ううむ……」


 ルシルフは少し考え込んでから言った。


「そなた、変わっておるな」

「はは……。よく言われるよ」

「余は魔王だぞ。魔王にもう1度、会うつもりなのか?」

「ダメなの?」

「だ、ダメというわけではないが、普通は思わんだろ」

「ぼくはもう1度、ルシルフに会いたいよ」

「む……」


 自称魔王は首を絞められたかのように息を詰まらせる。

 再び、マサキを睨んだ。


「何故だ? 何故会いたい? 余に……。よもやお主。もう1度、余を誘い出して、大人たちに掴まえさせるつもりではないであろうな」

「そ、そんなことをしないよ!」

「では、何故余に会いたいのだ?」

「それは……。……怒らない?」

「事と次第による」

「じゃあ、喋らない」


 マサキはプイッと背けた。

 予想外の返答に、慌てたのはルシルフの方だ。


「わかったわかった。余の名誉にかけて、お主を裁かんでおく。だから、申してみよ」


 半目で小さな魔王を見つめた後、マサキは逡巡しながらも、答えを口にした。


「あのね。たぶん、こんなことを人に――ううん……。魔族にいうのは、初めてなんだけど」

「……もったいぶらずに申してみよ」


 マサキはむずむずと口元を動かす。

 すでに耳まで赤くなっていた。

 対して、小さな魔王の顔も赤い。

 こちらは怒りだ。

 少年の煮え切らない態度に、今にも噴火しそうなほど苛ついていた。


 はあああああ、とマサキは大きく息を吸い込む。


「ぼく……。ルシルフのことを好きになっちゃった」

「……す…………き………………ぃ…………?」




 好きじゃと?

 うん……。




 マサキは頷く。

 ルシルフは呆然としていた。

 赤かった顔は、青ざめている。

 今にも目を回して、倒れそうだ。


 マサキはホッと息をもらした。


「良かった。好きっていって通じるんだね」

「わ、わかっておる。余は人間について勉強したからな。つまり、あれだろ。そなたは余に特別な好意を抱いているということだろ」

「うん」


 はっきりと頷く。

 清々しさすら感じる態度に、ルシルフは慌てに慌てた。

 もはや、魔界の王を名乗った時の不遜な少女の姿はない。

 まるで初めて恋をしたような村娘がそこにいた。


「だ、だが……。そなたと余が会って、そんなに時間は――」

「たぶん、一目惚れだと思う」

「ひとめ……ぼれ…………」


 聞けば聞くほど、尋ねれば尋ねるほど、ルシルフの顔が難しく歪んでいく。

 ピィィィイ、とお湯の沸いたヤカンのような声を上げて、今にも身体がガラガラと崩れていきそうだった。


「で、では……。どどどどこがいいのじゃ。余の――」

「ううん。初めてみた時にピンと来たんだ」

「……なにが?」

「ぼくはこの子と仲良くなりたいって。……前にね。ぼくの保護者に尋ねたことがあるんだ。奥さんのどこが好きなのって」

「そしたら、どう答えたのじゃ」

「『わからないよ。一目見た時に、もう“好き”って決めてしまったんだ』って言ってた。その時にはよくわからなかったけど、今ならわかるよ」

「よ、余はわからぬ」

「うん。そうかも知れないね。……話を戻すよ。つまりはそういうことなんだ。ぼくがルシルフに会いたいと思うのは。今度はぼくが訊くよ。また会える? ルシルフ」


 甘く優しく切なげな子供の声だった。


 ルシルフはマサキから目を背けている。

 予感があった。

 見た瞬間、「会える」といってしまいそうだったから。


 だけど、その言葉を王としての矜持が阻んでいた。

 何か支配される。征服される。

 王として恥ずべき行為を享受してしまいそうな気がしたからだ。


 少し合間を取り、ようやく精神を回復させたルシルフは、ふんと鼻を鳴らした。


「わかった。そなたがそこまで望むのであれば、会おう」

「ほんと?」

「王は嘘をつかん。そうだな。お前たちの私感時間で10日後でどうだ?」

「うん。いいよ。会えるならいつでも。やった」

「よ、良いか。そなたがそこまで言うから、王としての慈悲を与えてやったのだ。べ、べ別に他意があるわけじゃないぞ」

「わかってるよ」

「本当にわかっておるのだろうな」


 話しているうちに、朝日が昇っていた。

 黒い森は相変わらず暗かったが、それでも夜中よりも幾分明るく見えた。


 ルシルフは背を向ける。

 顔を向けた先には、【魔界への道】が見えた。


「では、行くぞ」

「10日後……。絶対だよ」

「わかっておる」

「じゃあ、バイバイ! ルシルフ」

「ば、バイバイ……」


 マサキが大きく手を振る。

 一方、ルシルフは顔を赤くし、小さく手を挙げるだけに留めた。


 大地を蹴る。

 一足飛びで見えなくなってしまった。

 恐ろしい膂力だ。

 魔王を自称するだけはある。


 それでもマサキはワクワクしていた。

 いや、ドキドキかもしれない。

 今さらになって胸が痛くなってきた。


 顔を上げる。

 少年は笑みを浮かべた。

 嬉しかった。


 10日後にまた会える。

 それが無性に嬉しかった。




 感動するマサキの前に、ロトが姿を現したのは、ルシルフが飛び立った直後だった。


 気配に気付いたマサキは顔を上げる。

 胸に置いた手を離した。


「ロト。無事だったんだね」

「ああ。まあな」


 何か様子が違う。

 能面の顔からいつになく神妙な雰囲気が漂っていた。


「もしかして、ずっとそこにいた?」

「ま、まあな」

「……えっと? どれくらい?」

「お前が、昔の話を始めた時ぐらいからだ」


 ――ほとんど全部じゃないか!!


「お前の告白シーンもバッチし見てたぜ」

「な――!」


 マサキは蹲る。

 ルシルフの前では平静を装えていた少年だが、人が見ていたと聞いて、蹲る。

 本人を目の前にするよりも恥ずかしく、動けなくなってしまった。


 だが、ロトは小中高連れ添った悪友のようにからかったりはしない。

 魔族だからだろうか。

 じっとマサキを見つめ、こう言った。


「お前、凄いな……」


 黄金の瞳を向ける。

 マサキは立ち上がり、首を傾げた。


「は? え……。いや、そうでもないけど。――って、何が?」

「今の魔族……。本人がいっていたように魔人族の王だぞ」

「ロトは知ってるんだ。有名人なんだね」

「お前……。それを知った上で、告白したのかよ」

「うん……」


 マサキは頷く。

 一方、ロトは布のような手をだらりと垂らし、また――。


「凄いな」


 と言った。


「まあ、いいや。オレ様には関係のないことだし」

「そんなこと言わないでよ。10日後、ここに連れてくるのは、ロトだからね」

「オレ様にエスコートさせんのかよ! お前らのデートだろ?」

「さすがに黒い森の深奥まで来られないよ」

「はあ……。保護者付きのデートなんて聞いたことないぞ」

「ぼくたちは若いんだ。仕方ないだろ」

子供(おまえ)がいうのかよ。……てか、あっちは人間の時間で言うと、3桁に昇るババアなんだけどな」

「超年の差だね」


 マサキはあっけらかんと言う。

 これにはロトもお手上げだった。


「わかったよ。連れてってやる」

「やったー」

「だが、その前に――」

「うん。わかってる。……ぼくたちが生き残れるかが問題だね」


 ロトがいれば、この黒い森を脱出できるだろう。

 だが、ハウスに帰れば、そこに待ち受けるボスキャラの脅威からは逃れられない。


 マサキは保護者(エーデルンド)の拳骨を想像する。

 今から頭が痛かった。


少年少女の恋愛は心が癒やされるんじゃあ……。


新作『3000年地道に聖剣を守ってきましたが、幼妻とイチャイチャしたいので邪竜になりました。』の方もよろしくお願いします。

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