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異世界の「魔法使い」は底辺職だけど、オレの魔力は最強説  作者: 延野正行
第4章 ~~最強魔法使いへの道程編~~
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第17話 ~ 美少女プラス魔王 ~

第4章第17話です。

よろしくお願いします。

「お主、何者じゃ……」


 言葉は頭上から降ってきたかのように、マサキの耳に響いた。

 やや鼻声ぎみなのに、威厳があり、気が遠くなるほどの重々しい。


 マサキは絶句する。

 口調にではない。

 その容姿だ。


 背丈こそマサキと変わらない同い年ぐらいの少女。

 軽くカールがかかった薄紫の髪。

 鮮やかな深緑の瞳。

 小顔で、肌は1度も陽にさらしたことがないのではと思うほど青白い。


 それだけ語れば、単に美しい少女であっただろう。


 だが、その姿を説明するには少々パーツが足りない。

 加えるならこうだ。

 薄紫の髪から羊のようにくるりとした角。

 小尻からは先が矢印になった尻尾がのぞいている。

 着ているものも、洋服でもなければ、ドレスでもない。

 禍々しい凹凸のついた黒鉄のアーマーだった。


「どうした? 答えぬか、わっぱ」


 少女は返答を求める。

 少年は何も言わず、黙ったままだ。


 魔族であることは、マサキにもわかった。

 加えていえば、自分と同じ背丈の小さな魔族が、何故ここにいるのか、という疑問も浮かばず、死が目の前にあるという自覚すらなかった。


 暗い夜の森を背にした少女の姿は、あまりに映えすぎていて――もっと言うならば……。


「きれい、だ……」


 不意に呟いていた。


「な。お主、今なんと言った?」

「え? あの……。ごめんさない」

「謝罪を請うているわけではない! なんと言ったか、聞いておるのだ」


 1歩踏みだし、マサキに近づく。

 まだくびれというには拙い腰に手を当て、顔を近づけてくる。

 少年の黒の瞳に、少女の青白い顔が映った。


「あ。いや……。そのぅ…………。きれいだなって」

「誰が? それとも森がか? それとも……」


 少女は上を向く。

 ちょうど半月が空の頂点で止まっていた。


 マサキは首を振る。

 落ち着いて答えた。


「違うよ。君が、だよ」

「余か?」

「うん」


 マサキははっきり頷く。

 少女の青白い顔が少し赤くなったような気がした。

 やがて、犬歯を剥き出し、得意げに微笑む。


「ふむ。余の美しさを一目で見抜くとは、なかなか目の付け所が良いな、わっぱ」


 青い果実どころか、めしべも付いていないような真っ平らな胸を反る。

 マサキは苦笑した。


「あ、ありがとう」

「ところでお主、人間の子供だな」

「そうだけど……。君は魔族だよね」

「ほう。余を魔族と知って、綺麗と評すか。炯眼(けいがん)な上、なかなか肝が据わっておる。それとも人間界の子供というのは、皆こうなのか?」

「別に特別なことじゃないよ。ただ……自然と口に出ていたっていうか。誰だって、最初は思うんじゃないかな。君は綺麗だよ」

「べた褒めではないか。余は何やら腹の辺りがむずむずしてきたぞ」


 自分の顔を押さえ、いやいやと首を振った。


「うむ。気に入った。本来、人間を見つければ、即刻捻りつぶしてやるところだが、今日は気分が良い。命だけは取らないでおいてやろう」

「……あ、ありがとう」


 助かった、と取っていいだろう。


 少女は体つきこそ同い年の異性に見えるが、纏う空気も漂ってくる魔力も段違いの迫力を持っていた。


 強すぎる。

 計る物差し(レベル)すら想像できない。

 エーデルンドと互角かそれ以上。

 つまり、戦闘になれば、彼女が言うように捻りつぶされるだろう。


 そんな強者の空気感を感じさせる。


 しかし、それでもマサキが少女と喋ることが出来るのは、異常なまでの好奇心からだった。生存本能よりも、この少女と話してみたいという純粋な心の方が勝ったのである。

 もし、それが逆転し、恐れ戦けばたちまちマサキは死んでいただろう。


「あの……」

「なんじゃ?」

「名前を教えてくれないかな」

「名前? 余の名前を知らぬのか?」

「有名なの?」

「魔界で知らぬ者などおるまい」


 えっへん、とまた胸を反らした。


「シャーラギアンよりも?」


 名前を出した途端、少女の態度が一変した。

 深緑の瞳が刃のように抜かれ、マサキを睨む。

 纏う空気が淀み、息をすることすら困難なほど、空気が張りつめた。


「わっぱ。1度は見逃す。だが2度とその名前を余の前で出すでない。良いか?」

「わ、わかったよ」


 声を強張らせ、マサキはなんとか返事をかえす。

 何故か、と問いかけたいところだが、ぐっと堪えた。

 約束を破れば、次の瞬間首が胴から離れる――そんな未来が脳裏によぎるほど、雰囲気が重い。よほどの何かがあるのだろう。


「わかれば良い。……うむ。では、余の名前だったな。いや、その前にお主の名を聞こう。お主ら人間は、相手の名を訊く前に、自分の名を言うのれいぎ(ヽヽヽ)なのであろう」

「ああ。いいよ。ぼくの名前はタチバマ・マサキ。10歳だよ」

「タチバナ……。マサキ……?」

「言いにくいなら、マサキでいいよ。みんな、そう呼んでる」

「うむ。そうか。では、余の番だな」


 こほんと少女は咳を払う。

 何故か、緊張した面もちだ。


「余の名前はルシルフ。魔人族の娘にして王。魔界の王なり!」


 高らかに宣言する。

 どうだ、と言わんばかりに勝ち誇った顔をしていた。


「む。どうであったか、マサキ。自己紹介するなど、初めてのことゆえ、少々戸惑ったが、なかなか良かったと自負しておる。採点を付けるなら、100点満点中85点と言ったところであろう」

「う、うん。良かったと思うよ。……でも、1つ聞きたいんだけど。ルシルフって魔界の王様なの?」

「うむ。正真正銘の王だ」

「つまり、魔王……」

「そうとも言うぞ」


 …………。



 いぇえぇえええええええええええええ!!



 マサキは絶叫した。

 驚愕する人間の少年を見て、むしろルシルフは賞賛と受け取ったらしい。

 また胸を反ると、自慢げに鼻を鳴らした。


「むふふ。驚いたか、マサキ」

「そりゃあ、驚くよ。まさか魔界の王がこんなちっこ――」

「うん? なんか言ったか?」

「な、なんでもない。……こ、こんな綺麗な女の子だったなんて」

「うむ。美少女プラス魔王となれば、お主が驚くのも無理もないな。そら。握手をしてやろう。そなたら人間は有名人に会うと、握手とかサインを求めたりするのであろう」


 ――握手はともかく、サインとかするのかな?

 ――微妙にルシルフの人間界観が、ぼくの世界に似ているのだけど……。


 少年の戸惑う一方で、ルシルフは律儀に手を差し出した。

 マサキは差し出されるがまま手を握る。

 小さな手だ。

 自分よりもさらに小さいのに、魔王とは信じられるはずもなかった。


「ところで、そなた……。変わった感じを受けるな」

「変わった感じ?」

「なんというか、人間界にいる一般人と違うような気がするのだ」

「ああ……。もしかして、ぼくが異界から来た人間だからかな」

「異界? 魔界と人間界以外から来たというのか? ……もしや天界か? いや、あそこはもう長らく天門(アロン)を閉じておる。天使どもがここにいるはずなどないはずだが」

「天界とか天使とか、そんな大層なものじゃないよ。にほん(ヽヽヽ)ってところから来たんだよ、ぼくは」

「知らぬ名だ。どんなところだ?」

「一言で説明するのは難しいかな。簡単にいえば、ハインザルドのような魔法はなくて、その代わり“かがく”っていう力が発達しているんだ」

「かがく?」

「でんきっていって、常に雷精の魔法を発動させている場所があって――」

「なんだ、それは! 面白い! もっと聞かせよ」

「あ。……うん。いいよ」


 マサキはルシルフに語りはじめる。

 自分の世界のことを。

 もしかして人に、自分がかつていた世界のことを長々と喋ったのは初めてかもしれない。


 ――人じゃなくて、魔族だけど……。


 ルシルフは説明を興味深く聞いていた。

 そして気が付けば、夜が明けていたのだった。


新作「3000年地道に聖剣を守ってきましたが、この度ダンジョンの邪竜にイメチェンすることにいたしました。」書きました。

こちらもよろしくお願いします。

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最強勇者となった娘に強化された平凡なおっさんは、伝説の道を歩み始める。
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