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異世界の「魔法使い」は底辺職だけど、オレの魔力は最強説  作者: 延野正行
第4章 ~~最強魔法使いへの道程編~~
123/136

第12話 ~ ナイス、ロト!! ~

今週末もよろしくお願いします。

第4章第12話です。

ようやく缶(正確には木製のコップ)を見つけ、所定の位置に戻した。


 缶蹴り開始だ。

 マサキはぐるりと周りを見渡す。

 気配を探り始めると、さっと森を風が駆け抜けていった。

 梢が揺れ、ざわめく。

 それ以外に音は聞こえてこない。


 完全に2人の気配は消えていた。


 こうなると頼りはロトの鼻なのだが……。


「うーん。難しいなあ。あいつら森を周回するみたいに動いてやがる。あっちこっちから匂ってくるんだよ」


 どうやらロトの鼻で探ることはお見通しだったらしい。


「じゃあ、迎撃するしかないね」


 相手の位置がわからない以上、下手に動かないことが缶蹴りの鉄則だ。

 だが、それでは相手の思い通りになる。

 マサキが動いた。


 【幻遠泡沫】マッフル・ボフ!


 手の平からシャボン玉が吹き出した。

 以前、ダンジョンにてロトに使った幻覚魔法。

 今回も、幻覚を見せるよりも、相手の位置を探ることが重要だった。


 幻覚作用については、アヴィンもエーデルンドも対応してくるはず。

 しかし、このシャボン玉を1発も割らずにかいくぐるのは、如何な2人でも難しいはず。魔法が使えない今、そのシャボン玉を吹き飛ばすことも出来ない。


 ――さあ……。どうでる?


 マサキは乾いた唇を舌でなめた。


 その時だった。


 パチン!


 マサキの耳朶を打つ。

 さらに――。


 パチン! パチン!


 音が無数に聞こえてきた。

 あちこちからだ。


「マサキ! 出て行っていいか?」

「まだだよ。周囲を回りながら、ゆっくりと近づいてくるつもりだ」


 距離が狭まってくる。

 だが、音の位置は目で追えていた。

 影すら掴んでいないが、誤魔化しは効かないはず。


「いたぞ! マサキ!」


 マサキの背後を見ていたロトが叫ぶ。

 視線を送ると、金色の髪がなびいているのが見えた。


 アヴィンだ。


 1人?

 エーデルンドは?


 視線を周囲に放つ。

 だが、影も形もない。


 単独行動か。


 なら、好都合だ。


「ロト! アヴィンを追って!」

「わかったぜ!」


 待ってたぜ、と言わんばかりに、ロトは飛び出した。

 あの1本足のどこに力があるのか。

 一気にアヴィンに詰め寄る。


 ふっ。


 一瞬、アヴィンが笑ったような気がした。

 すると、再び木々の中に隠れる。


「おい! 待て!」

「ロト! 深追いはダメだよ」


 制止を促したが、遅かった。

 ロトはアヴィンを追って、森の深い場所へと入っていく。


 むぅ……。


 マサキは考えた。

 ロトの独断専行は褒められたものではないが、状況的に悪くはない。

 彼がアヴィンを追いかけているうちは、2対1という状況はまずないだろう。


 相手に数的有利を作らせない。

 これも缶蹴りの鉄則だ。


 油断は出来ないが、これでエーデルンドと1対1(さし)だ。

 状況はかなりいい。

 ルールを把握し、4人の中でもっとも強いアヴィンを相手するよりは、遙かにエーデルンドの方が与しやすい。


 問題はこの状況すらアヴィンの術中にあるかもしれないということだ。


 マサキはそれ以上考えるのをやめた。

 缶を守ることに全力を注ぐ。


「来い!」


 少年は気合いを入れる。

 周囲に視線を放った。


 バギィン!


 擬音が聞こえた。

 何の音かはっきりしない。

 強いて言うなら、何かが折れたような音……。


 マサキはハッとなった。

 再び叩きつけるような音がしたからだ。


 さらに風を切る音が聞こえる。

 マサキは反射的にその場から退いた。

 木々の合間を縫い、何かが飛んでくる。

 すると、マサキがいた付近に大きな木が突き刺さった。


「な!」


 さらに複数の風切り音。


 中心に向かって、3方向から木が飛来した。

 マサキは回避に成功しつつ、舌打ちする。


 ――魔法がダメだからって、木を飛ばすなんて……。


 完全に頭になかった攻撃だ。

 缶蹴り(あそび)で木を1本なぎ倒して、飛ばしてくるなんて。


 主犯はわかっている。

 こんな大味な作戦――アヴィンが考えつくわけがない。

 絶対にエーデルンドだ。


 マサキは確信する。


 ようやく気づく。

 いつの間にか、自分と缶の距離が開いていた。


 ――戻らなくちゃ!


 体勢を無理矢理整えて、ステップする。

 缶の元へと戻ろうとした。


 バッギィイン!!


 再び木が折れるような音が聞こえる。

 しかもかなり近くだ。


 小さな少年に大きな影が重なった。

 見上げると、すぐ側の大木が雷みたいな音を立てて倒れてくる。


 ――エーデはボクを殺す気なの!!


 心の中で毒づく。

 しかし、少年の脳裏にはすでに対処法が刻まれていた。


 【風斬りの鎌】バフ・ヴィン!


 もっとも得意としている風の魔法。

 さらに連続射出する。

 大木を一瞬にして細切れにした。

 3年間、ずっとやってきたのだ。

 これぐらいの魔力コントロールはお手の物だった。


 マサキは得意げに鼻の下を擦る。


 油断大敵だった。


 細切れにした木片の間に、人影が見えた。

 鮮やかな赤い髪が揺れている。

 視線が合った。

 青い瞳が光り、口端をにぃと広げている。


「エーデ!!」


 マサキは叫んだが遅い。

 すでにエーデルンドは少年を追い越し、缶へと向かう。


「あははは……。まだまだだね、マサキ! この勝負もらったよ!!」


 大きく足を振りかぶる。


 コンと乾いた音がなるのかと思いきや、聞こえてきたのは――。



 ぐぎぃ!



 とっても痛そうな音だった。


 見ると、エーデルンドは缶を蹴った体勢で固まっている。

 ちなみに缶は微動だにしていなかった。


 マサキは体勢を翻しながら、口角を上げる。

 子供とは思えない邪悪な笑みだった。


「いってぇぇぇえええええええええええええええ!!!!」


 淑女が叫んだとは思えない乱暴な悲鳴が森にこだます。


 エーデルンドはケンケンしながら、缶の近くでのたうち回った。

 時折、足先にふーふーと器用に息を吹きかける。

 マサキはすんなり彼女の肩に触れた。


「はい。エーデ、捕まえた」


 うしし、と少年は笑う。

 捕まったエーデルンドはそれどころではなかった。


 半泣きになりながら、子供を睨む。

 綺麗な青い瞳は真っ赤に充血していた。


「マサキ! 何をした、あんた!!」

「むふふふ……」


 種明かしをした。

 缶を持ち上げる。

 そこには杭があった。


 おそらくマサキが魔法で作っておいたのだろう。

 ちょうど缶――コップの凹の部分が入る大きさになっていた。


 つまり、缶は蹴れないように固定されていたのだ。

 むろん杭は魔法で強化してある。

 如何に健脚のエーデルンドとはいえ、増幅(ブースト)なしにへし折るには難しい程度には、頑丈にしていた。


「あんた、卑怯だよ!!」

「別に卑怯でもなんでもないよ。缶を固定しちゃいけないなんて、ルールはどこにもないんだし」


 道化師のように戯け、マサキは肩をすくめる。

 一方、顔には「確信犯」という文字が浮かんでいた。


 保護者の怒りは収まることを知らない。

 今にも、子供の胸ぐらを掴みそうな勢いだ。

 ともかく、これで後はアヴィン1人だけになる。


「おや、エーデ捕まったの?」


 やってきたのは、そのアヴィンだった。

 後ろには、ロトもいて、大きく手を挙げていた。


「マサキ! やったぞ! ロトを捕まえた!」

「やった! ナイス、ロト!!」

「あんた、なに捕まってんだよ!」


 怒りの矛先を亭主へと向けた。


 アヴィンは肩をすくめる。


「ぼくの役目は囮だよ。十分、ロトを引き離した。君が缶を蹴れば、ぼくたちの勝ちじゃないか。必要以上に逃げ回る必要なんてないよ」

「うぐ……。だ、だけど、聞いてくれよ、アヴィン! マサキのヤツ、缶を固定していたんだ」


 周りはマサキよりも年上の人ばかりなのに、言ってることが子供みたいになってきた。


「マサキ、いきなり禁じ手を使ったね」

「ルールにはなかったからね。次からはなしでいいよ」

「ふむ。わかった。それでいいだろう。エーデルンドもそれでいいかい?」

「ああ。いいよ! 缶の固定はなしね」

「ところで、どうする? まだやる? 缶蹴り?」


 プリプリと怒っているエーデルンドを挑発するように、マサキは尋ねた。


 保護者は赤髪を掻き上げ、腕を組んだ。

 そして鬼の形相で。


「あったり前だろ!!」


 一喝するのだった。


突然ですが、作者は「東方缶蹴り」の大ファンです。


明日も18時に更新します。

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