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異世界の「魔法使い」は底辺職だけど、オレの魔力は最強説  作者: 延野正行
第4章 ~~最強魔法使いへの道程編~~
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第9話(後編) ~ この小僧、結構強いぞ ~

第9話(後編)です。

「マサキ、起きたかい? すっごい悲鳴が聞こえてきたけど」


 エーデルンドが寝室に入ってきたのは、少し時間が経った後だった。


 中を覗き込む。

 マサキはベッドの上に座って、スープを掻き込んでいた。

 その様子を逆三角形の体躯の魔族が見つめている。


 実にシュールな光景だった。


「なんだ。結構、仲良くやってるじゃないか」


 あっけらかんと保護者は言い放つ。

 ぎろり、とマサキが睨んだのは、言うまでもない。


「エーデ! これってどういうこと!」


 スプーンでロトを指した。


 エーデルンドは歯を見せて、「してやったり」と微笑む。

 そして事情を説明する。


「えええええ!! 魔族の知り合い!!!!」


 再び少年の叫び声が、ハウスに突き刺さる。

 エーデルンドはロトの肩|(?)に手を置き紹介した。


「改めて紹介するよ。こいつはロト。元々はアヴィンの友人で、今は私の友人でもあるの」

「ま、魔族だよ。この――」


 人、と言いかけて、マサキは口を噤む。


「魔族だって色々さ。なあ、ロト」

「別に……。どうだっていいだろ」

「はいはい」


 気さくに語り合う。

 まるで学校の昔の同級生に会っているかのようだ。


 あまりにショックすぎて、マサキはぽろりとスプーンを落とす。

 少年には保護者が、魔族と手を組んだように見えたらしい。


 そんな心情をエーデルンドは敏感に受け取った。


「まあ、すぐに馴染めとはいわないよ。だが、マサキ。あんたは少なくともこいつに感謝した方がいい」

「なんで? だって、こいつ……」


 と指さした。


 ダンジョンでマサキを半死半生にしたのは間違いなくこの魔族だ。

 それと仲良くしてね――なんて無理!

 幼稚園で喧嘩したガキ大将と仲良くなるのとは訳が違う。


「マサキ……」

「なに?」

「たとえば、アヴィンが魔界に行って、私が買い物とか外出してた時、このハウスにいるのはあんた1人だけだろう」

「う、うん」


 時々ある。

 そういう日は、少し怖い。

 もしかしたら、【魔界の道】から魔族が現れるかもしれない。

 そんな時、戦うのは自分だと思い、身を竦ませることもあった。


「そんな時にハウスを守ってるのが、ロトなんだよ」

「い゛!」


 変な声が出た。

 改めて、逆三角形の魔族を見つめる。


「それだけじゃない。私たちが安心して、こんな危険なところで住めているのも、こいつのおかげさ。水際で魔族の侵入に対処してくれているからね」

「魔族が、魔族の侵入を防いでいるの!?」

「アヴィンの野郎との契約だからな。人間界に住まわせてもらう代わりに、侵入してくる魔族をぶっ殺せってな」

「同族を殺すの?」

「オレ様たちに同族も異族も関係ねぇよ。むしろ、魔族の方が嫌いだ。いけ好かねぇ野郎ばかりだしな」


 軽いカルチャーショックだった。

 魔族は魔族を攻撃しないと思っていた。

 魔族は人間が憎いから攻撃していると思っていた。


 だが、ロトの口振りから察するに違う。

 根本的な部分で、マサキの考えがずれていたことを理解した。


 それでもロトが嘘をついている可能性はある。

 今だって、実はアヴィンやエーデルンドの寝首を掻こうとして、関係を偽装しようとしているのかもしれない。


 しかし――。

 ロトからそんな雰囲気は察せられない。

 むしろ回りくどいことを嫌うタイプのような気がした。


「じゃあ、なんでボクに襲いかかったんだよ」


 マサキは反論する。

 ロトはひらりと手を動かし、事も無げにいった。


「決まってるだろ。お前の保護者に頼まれたんだ」

「な――」

「あたしはあそこまでやれとは言ってなかったけどね」


 ギロリとロトを睨む。

 さすがにエーデルンドの怒気は利くのか、ロトは視線を泳がせた。


 ともかく、魔族が吐いた衝撃の一言を、保護者はあっさりと認めたのである。


「仕方ねぇだろ! このクソ――この小僧の攻撃、めっちゃ痛かったんだぞ!!」

「それでも限度ってもんがあるだろ。まさか、また教会のババア(ナリィ)のところに頼みにいくとは思わなかったわ!」


 エーデルンドはマサキが怪我をしたことよりも、その(ヽヽ)ナリィという人に頭を下げたことの方に怒っていた。

 よっぽど嫌いな人物らしい。


 ――あれ? ナリィって聞いたことがあるような……。


 少し考えて思いつかなかったので、ともかく後回しにした。


「あーあー。俺様が悪かったよ。今度から、他のヤツにしてくれよな」

「あんた以外に魔族に友達がいたらそうするよ」


 ようやくエーデルンドとロトの口喧嘩が終わる。

 保護者は綺麗に孤を描いたウェストに手を当てた。


「一応、今の会話で何が起こったかわかったかい?」

「う、うん……」


 マサキは目を反らす。


「今回はあたしが知ってる魔族だからあんたは生き延びることが出来た。だが、これが本物魔族なら、もうあんたは今頃腹の中だよ」

「でも、D級のダンジョンなんかに魔族は――」

「出ないとも限らない。ヤツらは魔力が豊富な勇者候補を狙う習性もある。だから、ダンジョンは危険なのさ。A級だろうと、E級だろうとね」

「まあまあ、そういうなよ、エーデルンド。この小僧、結構強いぞ。俺様じゃなくて並の魔族ならあの一撃で死んでたかもしれねぇ」

「あんたは黙ってな。これは親子の問題だ」


 青い目が冷たく光る。

 ロトはピョンと跳ねて、距離を取った。


 やはり自分の子供をボコボコにしたことを根に持っているらしい。

 保護者としては当然の反応だった。


「確かに、あんたは強い。だが、精神が未熟すぎる。本当の危険というものをわかっていない。何をどうすれば、どうなるかというイマジナリーな部分がまだ育っていないんだよ」


 エーデルンドはマサキの手を取った。


「焦ることはない。あんたは、他の子供より10歩、100歩も前に言ってる。あたしやアヴィンが凄すぎるだけなのさ。心配するな。じっくりあたしたちがあんたを育ててやる」

「…………うん」

「最強の魔法使いになりたいんだろ?」

「……うん!! ごめん。エーデ」


 マサキは泣き出した。


 悔し涙だった。


 ロトに勝てなかったわけではない。

 保護者の意図に気付かなかったことでもない。


 ただ――。


 ずっとエーデルンドは、ひたすらマサキを高めることに注力していた。

 なのに、それに気付かず、焦り、急ぎ、空回りしていた自分の未熟な心が悔しかった。


 まだ自分は子供なのだと、どうしようもなく思い知らされる。


 でも、それでまだいいのだ。


 マサキが強くなる理由。

 子供ではなく、立派な戦士として認められたいわけでもない。

 勇者候補として、自由にダンジョンを散策することでもない。


 たった1つ。


 最強の魔法使いになること。


 それだけなのだ。

 なのに、その本人が道を違えようとしていた。


 だから、悔しい……。


 そして少年は決意する。


 その目標から2度目を反らさない。

 一方向に、一途に向かっていく、と――。


今週はここまで。

来週末もよろしくお願いします。

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最強勇者となった娘に強化された平凡なおっさんは、伝説の道を歩み始める。
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