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異世界の「魔法使い」は底辺職だけど、オレの魔力は最強説  作者: 延野正行
第4章 ~~最強魔法使いへの道程編~~
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第9話(前編) ~ そら。食え…… ~

第4章第9話です。

今週末もよろしくお願いします。

 雷光が大地を焦がす。


 空から山が降ってきたかのような爆音が轟いた。

 ダンジョンは白く染まり、一切を照らし出す。


 飛行型のモンスター、あるいは野鳥が一斉に森を飛び出し、地をはい回るモンスターは本能のまま逃げていった。


 その中心にいたのは、魔族だった。


「お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!」


 悲鳴を上げ、凝縮された雷の中でもまれる。


 やった。

 戦術を練り、相手の虚を突き、最高の一撃を食らわせることに成功した。


 いかな魔族であろうとも、200行以上の魔法が凝縮された一撃を食らって無事でいられるはずがない。

 極大の熱量に悶え苦しむ魔族の姿が、徐々に変質していく。


 やがて轟音が止む。

 同時に光も収縮されていった。


 草を踏む――乾いた音が聞こえる。

 魔族が、倒れたのだ。


 やった――とマサキは喜ぶことはなかった。


 もはやそれどころではない。

 全身の水分を一遍に吸い取られたかのように汗が浮かんでいた。

 激しく息をし、重い瞼を上げて眼下の敵の様子を伺う。


 意識を失うか失わないか。

 むしろ、まだ意識があることに自分でも驚く。


 それほど、高速魔法はまだこの時の彼にとって負荷のかかるものだった。


 殺虫灯に殺された虫のようにふらふらと地上へ降りていく。

 魔法を切り、倒れそうになりながらもなんとか着地を果たした。

 座り込んだ状態から立ち上がろうとするも、膝が笑って動けない。


 ――情けないなあ……。もっと体力をつけなきゃ。


 すでにマサキの体力は、他の子供に比べれば最強の域に達していた。

 まだ10歳の子供が、高等呪唱法である高速魔法を使うなど、あり得ないのだ。


 顔面に浮かんだ汗を振り払い、マサキは前を向く。


 月の光を受けて、逆三角形のシルエットが浮かんでいた。


「!!?」


 少年の顔が10歳老けてみえるほど、強張っていた。


 ざわついた心を持ち直す間もない。

 マサキは足に力を込める。

 その1歩踏み出す前に、魔族の手が少年の首に締め付けた。


「ぐぅ!!」


 一気に息が詰まる。

 じたばたともがき、必死に魔族の手から逃れようとするもビクともしない。


 マサキは目を開ける。

 血走った黄金色の瞳が見えた。


「よくもやってくれたな」


 言葉に一層の殺意を滲ませる。


 据えた匂いが鼻腔を突く。

 見れば、魔族は真っ黒だった。

 所々、煙が出ている。

 片方の手は力無くだらりと下がっていた。


 ダメージは通っている。

 しかし、致命傷には至らなかった。


 するするとマサキの身体は上へ上へと向かう。

 まるで差し出された供物のように、その背面には月があった。


「しね!」


 ロトは一気に少年を地面に叩きつける。


 みしり、と頑丈なマサキの身体が軋む。

 バウンドした小さな体躯を再び掴まえた。

 足先に絡めると、無造作に円運動を始める。


 景色が飛んでもない速さで移ろっていく。

 半ば意識を失いながら、マサキはただ自分の行く末を見守るしかなかった。


 遠心力を利用し、ロトは投げ放した。

 木の幹に突っ込む。

 1本だけに飽きたらず、後ろの2本も折り、3本目に叩きつけられた。


 血反吐を吐く。

 それでも意識はあった。


 ――なんでかな……。眠りたいの眠れないや。


 視界の角で、逆三角形がモソモソと向かってくるのが見えた。


 少年はなんとか身体を動かそうとする。

 反応したのは指先だけ。後は氷漬けになったかのように動かない。そして冷たい。


 ヤバい……と思った。

 けど、諦めるわけにはいかなかった。


 そう思うと、いつしかマサキは立ち上がっていた。


 やられるわけにはいかない。


 ――ボクは諦めるわけにはいかない。


 もう2度と……。

 あの時。

 アヴィンと一緒に行くと決めた。

 あの時。

 そう。あの時に決めたのだ。


 もう絶対、自分を(ヽヽヽ)諦めないって!!


 パパやママのために。

 アヴィンやエーデのために。


 ギロリと、眼前を睨む。

 手を掲げ、指先に魔力を集中させるイメージを描いた。


 だが――。


 魔手が伸びる。

 高速で打ち出されたそれは、あっさりマサキの頭を掴んだ。


「大した根性だが、終わりだ」


 そしてロトは紙くずのように少年を月夜に放り投げるのだった。



 ★



 ハッと目を開けた。


 ぼんやりとした視界に浮かんだのは、見慣れた天井。

 さらに鼻腔をくすぐるのは、木の良い香りだった。


 マサキは長い沈黙の後。


「あれ?」


 首を傾げた。


 ハウスだ。

 アヴィンとエーデルンド、そしてもうマサキが5年も済んでるログハウス。


 はじめに思ったのは。


 ――夢……?


 だった。


 まだぼうとする頭で一生懸命、前後を整理する。

 ダンジョンを1人で探索中、魔族に遭遇。

 ダメージを与えたが、致命傷にいたらず、あとはボコボコ……。


「ああああああああ!!」


 思わず叫んでしまった。

 状態を起こし、自分の身体を見る。


 やたら包帯と湿布が巻かれていた。

 大怪我には違いないが、生きている。


「ボク……。生き残ったの?」


 どうして生きているのだろう。

 あの後、なんらかの奇跡が起こり、魔族が攻撃を中止したのだろうか。


 いや、そもそも……。

 意識が途切れる最後、地面に叩きつけられれば必死というところまで投げられたのではないだろうか。


 記憶をたぐり寄せるものの、はっきりとしない。

 何故、生きているのか答えを出せない。

 夢であれば、と思うのだが、どうやら現実のようである。


「よう。小僧、起きたか」


 部屋の入口で声が聞こえた。


 逆三角形のシルエットが見える。

 片方の手をあげ、ヒラヒラと動かしていた。


 …………。



「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」



 ハウスがひっくり返るのではないかと思うほど、マサキは叫声をあげた。


 バッと布団を翻し、距離を取る。

 だが狭い寝室では十分ではなく、すぐ背中に壁を背負った。


 ――夢だ! 絶対、夢だ!!


 と思い込み、自分の目覚めを祈る。

 しかし、どれだけ待っても、現実が反転することはなかった。


「どうやら、元気みたいだな。ふー。ひとまずエーデに怒られることはなくなったぜ」

「え? エーデ?」


 それってなにエーデ? エーデなに?

 もしくは関西弁か何かを喋ったのだろうか。


 ますます困惑する。

 魔族の口からあまりに親しげに、保護者の名前が出たからだ。


「そら。食え……」


 今度はあろうことか、木の皿に入ったスープを差し出す。

 湯気が立ち、中には野菜や鶏肉が入っていた。普通の料理だ。


 だが、その持つ手は魔族である。


「そ――」


 そんなの食べられるわけがない!

 振り払おうとした瞬間。


 ぐぎゅるるるるるるるる……。


 盛大に腹の虫が鳴った。

 たぶん、かなりの時間寝ていたのだろう。


 お腹の中がすかすかで、いつの間にか涎が垂らしていた。


「我慢するな。心配すんなよ。毒とか入ってないから」


 ほれ、という感じでスープを勧めてくる。

 マサキはじっと料理を見つめ、意を決した。


長くなったので、分割します。

続きは明日です。

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最強勇者となった娘に強化された平凡なおっさんは、伝説の道を歩み始める。
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