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異世界の「魔法使い」は底辺職だけど、オレの魔力は最強説  作者: 延野正行
第4章 ~~最強魔法使いへの道程編~~

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第3話 ~ この子には才能がある ~

祝! 2000pt突破!

ブクマ・評価いただいた方ありがとうございます。


第3話になります。

 威勢のいい子供の声が響き渡った。


 落ち着きを取り戻した試験会場で、あちこちから失笑が漏れる。

 隣の冒険者と顔を合わせたり、サークル内の中央に経つ黒髪の少年を指さしたりしていた。


 嘲笑の輪は広がり、やがて対峙する者にも伝播していった。

 大剣を構えた冒険者は、わずかに口角を上げる。


「君……。今、『魔法使い』と言ったか?」

「うん。言ったよ」

「『魔法使い』という職業がどんなものか知っているか?」

「うん!」


 マサキは大きく頷いた。

 そこに迷いはない。

 まるで『魔法使い』を目指す自分を誇りに思っている節すら感じられる。


 冒険者は眉を顰めた。


「底辺職……。もしくは負け犬。後方でもお荷物。ただの精霊魔法しか使えないポンコツ職業……。これはすべて『魔法使い』を指す言葉だ。とても名誉あるものとは思えない。悪いことはいわん。今から転職したまえ」

「それがいいじゃないか」

「な! 何を言っている! 君の師匠のことはよく知っている。立派な人間だ。その弟子として認められたのなら、さぞかし才能があるのだろう。雰囲気からもわかる。君のような才能ある若者は『賢者』や『魔法剣士』を――」

「おじさん……。ちょっと考えてみてよ」

「うん?」

「問題はさ。職業がどうのこうのっていうよりさ。ボクが強いか強くないかっていうことだと思うんだよね。だから、その――『賢者』や『魔法剣士』より強ければ、何も問題はないと思う。ボクが『魔法使い』であっても」

「精霊魔法しか使えない『魔法使い』には限界が必ず来る。私は“強さ”の選択肢が多い『賢者』や『魔法使い』を――」


「随分とご託の多い試験官だね」


 声はサークルの外から聞こえた。


 試験官となった男は、視線を走らせる。

 マサキはそのままの体勢を維持したが、誰が声を上げたのかすぐにわかった。


 張られたロープのすぐ前に陣取り、赤髪の女が腕を組んでいた。

 微笑を顔に貼り付け、試験官を見つめている。


「試験官……。すでに試験は始まっています。お説教ならあとに――」


 言葉を加えたのは、ギルド職員だ。

 試験を監督する役目を担う彼女もまた、試験官の方を凝視していた。


「エーデさん。良いんですか? この子には才能がある――そう見込んだからこそ弟子にしてるんでしょ? 『魔法使い』なんて……」

「だから、ご託も説教も後でやりな。立ち会えばわかるよ」

「しかし――」


 尚も食い下がる。

 エーデルンドも少々しつこく感じてきたらしい。

 明らかに人相が変わる。

 試験官は思わず悲鳴を上げそうになったのを、息を呑んで誤魔化した。


「それとも何かい? 『魔法使い』が倒されるのが怖いってのかい?」

「ば、馬鹿な!!」


 試験場であることも忘れ、大剣の試験官は構えを解いて叫んだ。


「なら、さっさとやっておくれ。こっちは早いところ帰りたいんだ」

「むぅ……」


 試験官は唸る。

 エーデルンドから視線を逸らし、もう1度構えた。

 マサキに向き直る。


 少年の方が一切何も変わっていない。

 少々軽薄にも映る表情も、ゆったりとした構えもそのままだ。


 マサキが口を開く。


「そろそろ打ち込んでいいのかな」

「構わん。とっくに試験は始まっている」


 自分が遅らせていたことを脇に置き、かかってこいとジェスチャーを送る。


「そうか。なら、遠慮なく……」


 マサキは大きく息を吸い込む。


 まだ薄い胸板を大きく膨らませた瞬間――。

 地を蹴った。


 気が付けば、少年は真正面にいた。


 ――速い!!


 拳を握られる。

 迷わず、試験官の脇腹を狙った。


 ――素手か!


 試験官は落ち着いて分析する。

 少年の拳はプレートの上。

 魔力に増幅もない。

 さらに言えば、少年の拳だ。


 鎧に多少傷を作るのは忍びないが、受けることにした。


 大剣で要撃(カウンター)を狙ってもいいが、さすがに今の状況では剣速が必要になり、寸止めが出来ない可能性が高い。

 バックステップで回避するのもいいが、あそこまで挑発されて、腰を引くのもどうかと思われた。


 だから、あえて受ける。

 それぐらいの花は与えてもいいだろう。


 少年の拳が当たる寸前を見つめながら、試験官は次の攻撃に備えた。


 しかし、思いがけないことが起こる。


 少年の拳が止まるのだ。

 プレートに、あとわずかというところで。


 ――まさか……。フェイント!?


 試験官の動きが一瞬止まる。

 少年の不可解な行動を考えるうちに、頭がパニックになっていく。

 少しでも試験官が平静であるならば、10歳の少年が何者であったか思い出しただろう。


 彼はこう言ったのだ……。


 『魔法使い』志望だと――。


 それを思い出した時には、すでにマサキは呪唱キャストしていた。


 【炎断砲撃(バル・ヴロッド)】!


 炎弾がまるで試験官を取り囲むように浮かんだ。


 炎属性の初級魔法を連続的に打ち出す魔法。

 先ほど、マサキの前の受験者も使っていた技。

 その魔法を10歳の少年が操っていることすら希有な例だ。


 だが、マサキはそれだけではない。

 お互いがキルゾーンの内側にいる極限状態の中で、複数の魔法を制御した。


 それは、例えB級の魔法使いでも難しい技術だった。


 試験官は息を呑む。

 その瞳に、もはやマサキの顔は映っていない。


 人魂のように浮かんだ無数の炎だった。

 徐々に自分の方へ向かっていく。スローモーションのように流れた。


「う――」


 悲鳴を上げる一音手前。

 爆炎が試験官を飲み込んでいた。


 熱風が試験会場に渦巻く。

 人の髪や帽子、あるいは道の塵を吹き飛ばしていった。


 もうもうと上がる煙が晴れていく。

 現れたのは、顔を真っ黒けにした試験官の姿だった。


 まるで矜持を示すように立ったまま固まっている。

 それも長くは続かない。

 まず大剣が盛大な金属音を上げて、地面に落ちる。

 そして続いて、試験官も倒れた。


 炎が喉まで溶かしたのか。

 ヒューヒューと息をすると、黒い煙を吐いた。


「誰か回復魔法を。見た目ほど重傷じゃないと思うから」


 マサキは構えを解く。

 いつの間に移動したのだろうか。

 爆発の影響力が少ないロープ付近まで下がっていた。


 静まっていた群衆が我に返る。


 そのボルテージは一気にMAXへと高まった。


『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』


 怒号のような歓声が上がる。

 指笛が鳴り、次々と賞賛が送られた。

 あるいは、手に持っていた酒瓶や柄、防具を投げ込むものもいる。

 賞賛のリアクションの1つなのだろうが、危なくマサキにナイフの柄が当たるところだった。


 荒々しい称揚にマサキは苦笑いを浮かべながら応える。

 対して、試験官は集まった神官の手によって治療を受けていた。


「静かに」


 大声というわけでもないのに、その声は喧騒の中でよく通った。

 ピタリと止む。

 サークルの中に入ってきたのは、ギルドの職員だった。


「これは試験です。賭拳闘ではありませんよ」


 マサキを見て注意する。


「ご、ごめんなさい」


 先ほどの試験官よりも鋭く光る眼差しに、反射的にマサキは謝ってしまった。

 しょげる少年を見つめながら、職員は咳を払う。


「ともかく試験は文句なく合格です」

「え? ホント?」


 マサキの顔が早朝の朝顔のように輝いた。



 ◆



「やった! 見て見て、エーデ! B級ライセンスだよ」


 試験会場を辞し、昼食をとるため、マサキとエーデルンドは街中を散策していた。


 お腹は空いているはずなのだが、先ほどからずっとB級の暫定《ヽヽ》ライセンス証を見せびらかしていた。ライセンスに夢中で周りを見ようともしない。

 新しく来た街だから、さぞかし市中に興味があるだろうと思っていたエーデの読みは外れた。食事処なんて探さず、とっとと帰ればよかったと後悔する。


「あんた、そんなにライセンスがほしかったのかい?」

「え? だって、このライセンスがあれば、ダンジョンに入ることが出来るんでしょ」


 木板に文字と特殊な魔法印が刻まれたライセンス証を眺めながら、マサキは答えた。その真っ黒な頭を、エーデルンドはこつく。


「人の話を聞いてなかったのかい? それを持っていたとしても、あんたはB級のダンジョンには入れないよ」

「え? 嘘……」


 先ほどまでの嬉々とした表情は失せる。

 この世の終わりだとでもいうように、顔を真っ青にした。


 エーデルンドは大げさにため息をついて見せた。

 やがて腕を組む。

 大きな胸が揺れた。


「師匠であるあたしが同伴しなきゃダメなのさ」

「で、でも……。B級とかA級に入る時でしょ。C級なら1人でも……」

「CでもDでも、Eでも一緒さ。あたしとね」

「そんな……」


 市中の真ん中で、子供はがっくりと項垂れる。

 そのオーバーリアクションは、道行く人の視線を奪った。

 子供が駄々をこねている姿を見て、きっと玩具の催促に失敗したのだろうと思ったであろう。大人でも震え上がるようなダンジョンに、1人で行きたいなどとせがんでいるとは、誰も想像しなかった。


 道の真ん中でいつまでも立っているわけにはいかず、エーデルンドは歩き出す。 やがてマサキも敗残の兵のようにとぼとぼと歩き出した。


「あんたはまだ勇者候補者でもない。きちんと学校に行って、学んで、勇者としての心構えが出来ない限り、一生半人前なんだよ」


 師匠(代理)らしく、講説を振るわれる中、少年はやおら顔を上げた。


「むぅ……」


 明らかに懲りていない顔だった。


明日も18時に投稿予定です。


※ 新作はじめました! 

  異世界転移チートスローライフなお話です。

  こちらもよろしくお願いします。

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