第3話 ~ この子には才能がある ~
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第3話になります。
威勢のいい子供の声が響き渡った。
落ち着きを取り戻した試験会場で、あちこちから失笑が漏れる。
隣の冒険者と顔を合わせたり、サークル内の中央に経つ黒髪の少年を指さしたりしていた。
嘲笑の輪は広がり、やがて対峙する者にも伝播していった。
大剣を構えた冒険者は、わずかに口角を上げる。
「君……。今、『魔法使い』と言ったか?」
「うん。言ったよ」
「『魔法使い』という職業がどんなものか知っているか?」
「うん!」
マサキは大きく頷いた。
そこに迷いはない。
まるで『魔法使い』を目指す自分を誇りに思っている節すら感じられる。
冒険者は眉を顰めた。
「底辺職……。もしくは負け犬。後方でもお荷物。ただの精霊魔法しか使えないポンコツ職業……。これはすべて『魔法使い』を指す言葉だ。とても名誉あるものとは思えない。悪いことはいわん。今から転職したまえ」
「それがいいじゃないか」
「な! 何を言っている! 君の師匠のことはよく知っている。立派な人間だ。その弟子として認められたのなら、さぞかし才能があるのだろう。雰囲気からもわかる。君のような才能ある若者は『賢者』や『魔法剣士』を――」
「おじさん……。ちょっと考えてみてよ」
「うん?」
「問題はさ。職業がどうのこうのっていうよりさ。ボクが強いか強くないかっていうことだと思うんだよね。だから、その――『賢者』や『魔法剣士』より強ければ、何も問題はないと思う。ボクが『魔法使い』であっても」
「精霊魔法しか使えない『魔法使い』には限界が必ず来る。私は“強さ”の選択肢が多い『賢者』や『魔法使い』を――」
「随分とご託の多い試験官だね」
声はサークルの外から聞こえた。
試験官となった男は、視線を走らせる。
マサキはそのままの体勢を維持したが、誰が声を上げたのかすぐにわかった。
張られたロープのすぐ前に陣取り、赤髪の女が腕を組んでいた。
微笑を顔に貼り付け、試験官を見つめている。
「試験官……。すでに試験は始まっています。お説教ならあとに――」
言葉を加えたのは、ギルド職員だ。
試験を監督する役目を担う彼女もまた、試験官の方を凝視していた。
「エーデさん。良いんですか? この子には才能がある――そう見込んだからこそ弟子にしてるんでしょ? 『魔法使い』なんて……」
「だから、ご託も説教も後でやりな。立ち会えばわかるよ」
「しかし――」
尚も食い下がる。
エーデルンドも少々しつこく感じてきたらしい。
明らかに人相が変わる。
試験官は思わず悲鳴を上げそうになったのを、息を呑んで誤魔化した。
「それとも何かい? 『魔法使い』が倒されるのが怖いってのかい?」
「ば、馬鹿な!!」
試験場であることも忘れ、大剣の試験官は構えを解いて叫んだ。
「なら、さっさとやっておくれ。こっちは早いところ帰りたいんだ」
「むぅ……」
試験官は唸る。
エーデルンドから視線を逸らし、もう1度構えた。
マサキに向き直る。
少年の方が一切何も変わっていない。
少々軽薄にも映る表情も、ゆったりとした構えもそのままだ。
マサキが口を開く。
「そろそろ打ち込んでいいのかな」
「構わん。とっくに試験は始まっている」
自分が遅らせていたことを脇に置き、かかってこいとジェスチャーを送る。
「そうか。なら、遠慮なく……」
マサキは大きく息を吸い込む。
まだ薄い胸板を大きく膨らませた瞬間――。
地を蹴った。
気が付けば、少年は真正面にいた。
――速い!!
拳を握られる。
迷わず、試験官の脇腹を狙った。
――素手か!
試験官は落ち着いて分析する。
少年の拳はプレートの上。
魔力に増幅もない。
さらに言えば、少年の拳だ。
鎧に多少傷を作るのは忍びないが、受けることにした。
大剣で要撃を狙ってもいいが、さすがに今の状況では剣速が必要になり、寸止めが出来ない可能性が高い。
バックステップで回避するのもいいが、あそこまで挑発されて、腰を引くのもどうかと思われた。
だから、あえて受ける。
それぐらいの花は与えてもいいだろう。
少年の拳が当たる寸前を見つめながら、試験官は次の攻撃に備えた。
しかし、思いがけないことが起こる。
少年の拳が止まるのだ。
プレートに、あとわずかというところで。
――まさか……。フェイント!?
試験官の動きが一瞬止まる。
少年の不可解な行動を考えるうちに、頭がパニックになっていく。
少しでも試験官が平静であるならば、10歳の少年が何者であったか思い出しただろう。
彼はこう言ったのだ……。
『魔法使い』志望だと――。
それを思い出した時には、すでにマサキは呪唱していた。
【炎断砲撃】!
炎弾がまるで試験官を取り囲むように浮かんだ。
炎属性の初級魔法を連続的に打ち出す魔法。
先ほど、マサキの前の受験者も使っていた技。
その魔法を10歳の少年が操っていることすら希有な例だ。
だが、マサキはそれだけではない。
お互いがキルゾーンの内側にいる極限状態の中で、複数の魔法を制御した。
それは、例えB級の魔法使いでも難しい技術だった。
試験官は息を呑む。
その瞳に、もはやマサキの顔は映っていない。
人魂のように浮かんだ無数の炎だった。
徐々に自分の方へ向かっていく。スローモーションのように流れた。
「う――」
悲鳴を上げる一音手前。
爆炎が試験官を飲み込んでいた。
熱風が試験会場に渦巻く。
人の髪や帽子、あるいは道の塵を吹き飛ばしていった。
もうもうと上がる煙が晴れていく。
現れたのは、顔を真っ黒けにした試験官の姿だった。
まるで矜持を示すように立ったまま固まっている。
それも長くは続かない。
まず大剣が盛大な金属音を上げて、地面に落ちる。
そして続いて、試験官も倒れた。
炎が喉まで溶かしたのか。
ヒューヒューと息をすると、黒い煙を吐いた。
「誰か回復魔法を。見た目ほど重傷じゃないと思うから」
マサキは構えを解く。
いつの間に移動したのだろうか。
爆発の影響力が少ないロープ付近まで下がっていた。
静まっていた群衆が我に返る。
そのボルテージは一気にMAXへと高まった。
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』
怒号のような歓声が上がる。
指笛が鳴り、次々と賞賛が送られた。
あるいは、手に持っていた酒瓶や柄、防具を投げ込むものもいる。
賞賛のリアクションの1つなのだろうが、危なくマサキにナイフの柄が当たるところだった。
荒々しい称揚にマサキは苦笑いを浮かべながら応える。
対して、試験官は集まった神官の手によって治療を受けていた。
「静かに」
大声というわけでもないのに、その声は喧騒の中でよく通った。
ピタリと止む。
サークルの中に入ってきたのは、ギルドの職員だった。
「これは試験です。賭拳闘ではありませんよ」
マサキを見て注意する。
「ご、ごめんなさい」
先ほどの試験官よりも鋭く光る眼差しに、反射的にマサキは謝ってしまった。
しょげる少年を見つめながら、職員は咳を払う。
「ともかく試験は文句なく合格です」
「え? ホント?」
マサキの顔が早朝の朝顔のように輝いた。
◆
「やった! 見て見て、エーデ! B級ライセンスだよ」
試験会場を辞し、昼食をとるため、マサキとエーデルンドは街中を散策していた。
お腹は空いているはずなのだが、先ほどからずっとB級の暫定《ヽヽ》ライセンス証を見せびらかしていた。ライセンスに夢中で周りを見ようともしない。
新しく来た街だから、さぞかし市中に興味があるだろうと思っていたエーデの読みは外れた。食事処なんて探さず、とっとと帰ればよかったと後悔する。
「あんた、そんなにライセンスがほしかったのかい?」
「え? だって、このライセンスがあれば、ダンジョンに入ることが出来るんでしょ」
木板に文字と特殊な魔法印が刻まれたライセンス証を眺めながら、マサキは答えた。その真っ黒な頭を、エーデルンドはこつく。
「人の話を聞いてなかったのかい? それを持っていたとしても、あんたはB級のダンジョンには入れないよ」
「え? 嘘……」
先ほどまでの嬉々とした表情は失せる。
この世の終わりだとでもいうように、顔を真っ青にした。
エーデルンドは大げさにため息をついて見せた。
やがて腕を組む。
大きな胸が揺れた。
「師匠であるあたしが同伴しなきゃダメなのさ」
「で、でも……。B級とかA級に入る時でしょ。C級なら1人でも……」
「CでもDでも、Eでも一緒さ。あたしとね」
「そんな……」
市中の真ん中で、子供はがっくりと項垂れる。
そのオーバーリアクションは、道行く人の視線を奪った。
子供が駄々をこねている姿を見て、きっと玩具の催促に失敗したのだろうと思ったであろう。大人でも震え上がるようなダンジョンに、1人で行きたいなどとせがんでいるとは、誰も想像しなかった。
道の真ん中でいつまでも立っているわけにはいかず、エーデルンドは歩き出す。 やがてマサキも敗残の兵のようにとぼとぼと歩き出した。
「あんたはまだ勇者候補者でもない。きちんと学校に行って、学んで、勇者としての心構えが出来ない限り、一生半人前なんだよ」
師匠(代理)らしく、講説を振るわれる中、少年はやおら顔を上げた。
「むぅ……」
明らかに懲りていない顔だった。
明日も18時に投稿予定です。
※ 新作はじめました!
異世界転移チートスローライフなお話です。
こちらもよろしくお願いします。
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