第5話 ~ ロリBBAカクニン ~
今週もよろしくお願いします。
「嘘とはどういうことだ?」
ニアルの発言に、ディナリアは慎重に舌を動かした。
【塚守】の中で、2番目に若い赤髪の男は、机の上で足を組み直す。
そしてシンプルに答えた。
「すべてだ」
「それはどういう証拠があってなの、ニアル」
パノンもまた神妙な顔で質問を重ねる。
「証拠などない。そもそもお前らがおかしい。どうして魔族の言葉を信じることが出来るんだ? マサキが虚偽の発言をしている――いや、すでにこいつは魔族の洗脳化にあって、嘘をいわされているのかもしれないのだぞ」
「それだって、証拠がないじゃないの?」
「私はニアルの意見を指示する」
賛同したのは、ニアルと同じく好戦的なワドッシュだった。
そのまま続ける。
「確かに、ニアルの言葉も憶測だ。ならば、嘘の応酬となればこの議論は不毛でしかない。聴取をするだけ無駄だと思うが」
「それはそうだけど……。私にはマサキが嘘を言っているようには見えない」
「だから、それも憶測だというのだ」
「確かめようがないじゃないの、そんなの」
「いーや、あるね」
ニアルはようやく机の上から足を下ろす。
回転椅子を揺らし、立ち上がった。
「簡単なことだ。この魔族女を倒せばいい。そうすれば、すべてが判明する」
好戦的な目をルシルフに向けた。
ほう、と彼女もまんざらというわけではない。
側にいたマサキは、魔王の魔力が高まっていくのを感じ、苦笑するしかなかった。
「やめろ。ニアル」
冷や水を浴びせるがごとく、ディナリアの言葉がニアルを制止する。
血気盛んな若い【塚守】の目は、総長に照準を向けた。
「お前こそ冷静に考えろ。このルシルフに嘘をついてどんなメリットがある?」
「なにぃ?」
「お前も気付いているはずだ。この魔族がその気になれば、一瞬にして我らの命を刈り取りことが出来る程の実力があることを」
「ぐ――――ッ!!」
「一体、彼女がもう何時間とこの場に留まっている。どれだけ、我らの寝首を刈る瞬間があったと思う。……我々は世界の要だ。下手な嘘をつくより、我らの命をつみ取った方が、よほど有益だと思うが」
ナイフのように突き付けられた文言に、ニアルは反論できない。
勢いよく立ち上がったにも関わらず、椅子に座る時には老人のように慎重だった。
それを見た後、ディナリアは机に手を置き、指を組んだ。
「しかし、ニアルの憶測も否定することはできない」
「ちょっと! 総長! どっちですの?」
パノンが叫声を上げる。
ディナリアは真向かいに立ったマサキとルシルフを見つめた。
「参考までに聞いておくことにする。まあ、といっても、実のある意見だったとはいいがたいしな。我々がほしいのは、今後の魔族の動向……。そして第7の【魔界の道】がどこにあるかだ」
「それについては、余も知らぬ。こちらが教えてほしいものだ」
「そうか」
「総長……」
「なんだ、マサキ?」
しばらく、やりとりを静観していたマサキが、ようやく口を開いた。
「今後も、彼女を【六角会議】に参加させてほしいのですが」
「おい! 冗談じゃねぇぞ!」
「いいだろ」
ディナリアは指で数度机を叩いた後、頷いた。
「おいおい。正気か!? ディナリア!!」
「私も同意見です、総長。魔族を会議の場に入れるなど」
もちろん、ニアルは机を叩いて激昂する。
ワドッシュも同様だった。
「オブサーバーとしてだ。参考意見として聞くためのな」
「チッ! やってられねぇ!」
「私もだ!」
2人は立ち上がる。
部屋の入口へと向かった。
それを止めたのは、やはりディナリアだった。
「待て。2人とも……」
「なんだよ!」
「ここを出る前に確認しておきたい。ルシルフには次の会議から参加してもらう。もし、そのことで2人が反対で、会議から参加することを拒むのであれば、貴様らには【塚守】をやめてもらうが、それでいいか?」
2人の足が止まる。
振り返った顔は引きつっていた。
「ディナリア! てめぇ!!」
「そ、総長! それはあまりに横暴では!?」
「【塚守】になりたいヤツなどごまんといる。お前ら2人が降りたところで、代わりはごまんといる」
薄暗い『黒の間』に、ひりつくような静寂が訪れた。
ふん、とニアルは鼻を鳴らす。
振り返ることなく、大股で歩いていった。
ワドッシュは1度、ディナリアの方へ目を向けた。
おそらくその視線に気付いていただろうが、総長はニアルが出ていった扉の方をじっと見つめている。
やがて「失礼します」と声をかけ、彼もまた退出した。
扉が閉まり切った瞬間、「ふふふ……」と声を漏らしたのはパノンだ。
「なんだかんだで……。あの2人には優しいのですね、総長」
「む? 何のことだ?」
「ああ見えても、2人は頭がいい。なにせ【塚守】の試験を受けて、勝ち上がってきた人間ですからね。ルシルフちゃんからもたらされた情報の価値もわかってるし、嘘という確率も低いのはわかっているでしょう」
「だから……」
「代わりはいくらでもいる――とはいいながら、あの2人が次の会議に参加しやすいようにしてあげたのでしょう?」
ディナリアは口角を上げる。
笑ったのだ。
とても珍しい。マサキははじめて見たかもしれない。
「買いかぶりすぎだ、パノン。私は事実を述べたにすぎない」
「そういうことにしておきます」
パノンは目を伏せると、また声を上げて笑った。
その横でディナリアは、再び正面を見据える。
立っていたマサキとルシルフに視線を注いだ。
「マサキ……。彼女が参加できるのは、この場だけとする。また他の王や指導者には、彼女を紹介するな。先の事件があったばかりだ。魔族が簡単に出入りしていたとなれば、我らの沽券に関わる」
「心得ているよ、総長」
「あと、ルシルフ……殿とお呼びすればいいか?」
「いかようにでも呼ぶがよい。魔王でも呼び捨てでも……。ただ先ほど、横の女がどさくさに紛れていったが、“ちゃん”付けは遠慮せよ」
「ええ! ルシルフちゃん、可愛いのに」
「な――ッ!!」
ルシルフはのけ反るように一歩後ろに下がる。
病的というほど白い幼顔が、真っ赤に染まっていく。
「き、貴様! 魔王である余を掴まえて、可愛いとは何事だ!」
「え? オレもルシルフのこと可愛いと思うけど」
「な、なななな何を言っているのだ、お前まで!!」
「なんていうかな。そういう肌にぴったりとした衣装とかも刺激的でいいけど、お洋服とかメイド服とか着させてみたいわー」
パノンはうっとりとした目で、ルシルフを見つめる。
頬に赤みが差し、恍惚としていた。
何やらいかがわしい想像していることは、自明の理だ。
「ええい! うるさいうるさい! これでも余は100年以上を生きておるのだぞ。貴様らは、年下なのじゃ」
「ロ、ロリBBAカクニン」
「おいおい。ケルヴィラ、それはど直球すぎだろ?」
「シツレイシマシタ……」
一体、どういう思考ルーチンによって編み出された言葉なのかは知らないが、ケルヴィラにはたまにあることだ。
作った本人が、マサキの世界に興味がありすぎてのことだろうが、さすがに「BBA」はないだろう。
実際、ルシルフも怒っていた。
「BBAは事実でも、そのロリとはなんじゃ!」
――そっちなんだ……。
マサキは苦笑する。
「と、ともかく……」
ぎゃーぎゃーと『黒の間』でルシルフが騒ぐ中、ディナリアは話を元に戻そうとする。
「ではルシルフ。今後、人間界へ来る場合、マサキと同行することを厳守とする。彼がいない場合、敵対行動と見なし、我々はあなたを排除する」
落ち着いた説明に、ようやくルシルフも平静を取り戻す。
小さく咳を払って、ない胸を張った。
「よかろう。まあ、お主たちと一戦交えてもかまわんがな。むしろ楽しみだ」
「最後に1つ聞かせてほしい」
「なんじゃ?」
「あなたは何故、我々に味方する?」
魔王は2回、瞳を瞬かせる。
その呆気に取られた姿は、突然の試験に驚く女学校の生徒のようだ。
やがて、何故そんな質問をするのかわからないといった様子で首を傾げる。
魔王ルシルフは事も無げに言い放った。
「簡単だ。マサキは余の友達であるからな」
明日で一旦幕間が終了します。
ここまで読んでいただきありがとうございました。




