表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の「魔法使い」は底辺職だけど、オレの魔力は最強説  作者: 延野正行
幕間 ~~六角会議 ―― エキサラス ――~~
106/136

第2話 ~ 第七の穴について ~

 【塚守(タボス)】。


 全世界に6カ所ある魔族が(ヽヽヽ)通行可能な穴――【魔界の道】を守る監視者の総称である。

 幾多の激戦が繰り広げられた【魔界の道】では、何千万という人間の遺体がさらされた。そうした英霊を弔うという意味から、墓を守る者――【塚守】という言葉が生まれた。


 その役目は魔族の動向を監視し、動きがあれば即応することである。

 故に対魔族のエキスパートが選ばれるのが常で、ギルドにおけるランク、これまで攻略したダンジョンの数、さらに数種類の面接と試技をクリアした上で決められる。


 言い換えれば、彼らは次代の勇者にもっとも近い存在だということだ。


 赤髪の男【無幻石の殺戮】の異名を取るニアル・ブロードワード。

 金髪の壮年【瞬雷にして瞬脚】のワドッシュ・ナロルム。

 女性神官【慈悲無し(ほほえみ)】のパノン・ミラーヤ。

 勇者に作られし【自動人形(オートマタ)】ケルヴィラ。

 【総長】ディナリア・カッサ。


 そして1年前に、【塚守タボス】として任命された【新米】立花マサキ。


 この6人が、【魔界の道】の【塚守】であり、ハインザルドにあって最高の戦力である。ただし、注意書きとして生存する勇者を除けば、だが……。


 マサキは彼らに出会ったのは、これで2度目。

 1年前の任命式の折りだった。


 【六角会議(エキサラス)】の開会を宣誓したディナリアは、落ち着いた様子で椅子に座り直した。

 机に手を置き、ゆっくりと指を組む。


 【六角会議(エキサラス)】とは、数年に1度行われる【塚守】の定例会議を指す。


 緊急でも行われことがあり、今回の招集はそれだ。

 本来なら【緊急六角会議(エレノ・エキサラス)】とするところだが、【六角会議(エキサラス)】が始まって慣例のないことだったので、今回は見送った。


「皆、忙しい中よく集まってくれた」


 ディナリアは定型文的な挨拶から始める。

 穏やかに開始したかと思ったが、2句目でもう不満が上がった。


「ご託はいい。さっさと始めよう。総長の言うとおり、俺たちに時間がない」


 机の上に足を置いたままの姿勢で、ニアルが口を挟み、そのまま言葉を続けた。


「まずは新人の報告をさせるべきだ。その謝罪も含めてな」

「え? オレ、なんか謝るようなことをしたか?」


 マサキは首を傾げる。

 ニアルは踵で机を叩くと、怒りを露わにした。


「当たり前だ! 持ち場を離れ、魔族の侵入を許した! しかも、てめぇのところの王都にまで侵略され、王城の一部が損壊したというじゃねぇか」

「おお。代わりに報告してくれてありがとな、ニアル」

「な……。てめぇ――!!」

「加えていうと――」


 怒髪天を衝くといった様子のニアルの前に割り込んだのは、パノンだ。

 剣呑な雰囲気の中、その微笑は一片も崩れていない。


「勇者候補育成校の試験中に起きたということもあって、受験生と教師の中にも被害者が出たそうですね」

「ああ。その通りだよ」

「しかも、お前――」


 ニアルは机から足を下ろす。

 立ち上がって手を机につくと、改めてマサキを睨んだ。


「その試験に参加してたそうじゃねぇか」

「まあな。遅刻したけど……」

「何故、【塚守】のお前が育成校の試験など受けているのだ」


 ワドッシュは逞しい二の腕を机に置くと、野生の猛獣のようにマサキを睨んだ。


「師匠から言いつけさ。15歳になったら試験を受けろってね」

「君の師匠というと……」

「アヴィン――」


 ずっと【塚守】たちのやりとりを注視していたケルヴィラが音声を発した。

 横のパノンは首を傾げる。


「何故、アヴィン様はそのようなことを……」

「さあ、オレが聞きたいくらいだ」


 マサキは肩を竦める。

 その態度に、ニアルの攻勢がさらに強まった。


「は! 下手な言い訳だな。教会の孤児の方がもっとマシなことをいうぞ」

「ホントだって。なんなら手紙を見せてやろうか?」

「いいだろう。ここで見せてみろよ。お前お手製の(ヽヽヽヽヽヽ)勇者の手紙をよ」


「やめろ、ニアル!」


 鶴の一声で、世界最高戦力である【塚守】たちは、口を閉ざした。

 声の主は彼らを束ねる【総長】ディナリアだ。


「いい加減にしろ、お前たち。仲が悪いのは構わん。我々はパーティというわけではないからな。しかし、ここは会議の場だ。もう少し建設的に話せ」

「しかしよ、ディナリア! こいつがやったことは、明らかな職務怠慢だ。まず始めに、マサキを罰する方が先だろう」

「具体的には?」


 ワドッシュは軽く頷きながら、ニアルに尋ねる。


「決まっている。【塚守】から除名するんだよ」

「そんなことを簡単に決められるわけないでしょ。マサキはまだ【塚守】になって、1年も経っていないのよ」


 パレアは擁護する。


「早計だったのさ。確かに実力はある。だが、こいつはまだ15、6のガキだぞ。それこそ学校に行っててもおかしくないほどにな。そんなヤツに世界の命運である【塚守】を任せるなんて馬鹿げているだろう」

「問題ないと思うわ。彼は【塚守】になるための試験を受け、パスした。何も問題ないと思うけど」

「コネに決まってるだろ!」

「私にはあなたが自分が持つ最年少記録を抜かれて、ひがんでいるように見えるけどね」

「――んだと、コラァ!!」

「何よ、やる気!」


 2人が椅子を蹴る。

 だが、そこまでだった。


 気がつけば、2人の喉元に氷のダガーが突きつけられていた。

 気泡もなく、ガラスのように透明な刃は、そのまま美術館に飾れるほど美しい。


 マサキはその刃をマジマジと観察する。


 ――相変わらず、すげー魔力コントロールだな。発生の瞬間までわからなかった。


 視線を走らせる。


 総長が指を組んだ姿勢のまま座っていた。

 目線はニアルとパノンに向けられている。


 ノーモーション。発声なし。

 体内から放出されるはずの魔力の痕跡すら残さぬ操作力。

 上級の魔族をあっさりと屠るマサキですら、出来ぬ芸当だった。


「いい加減にしろ。それともお前達が【塚守】を抜けるか」

「ふふふ……。失礼しました、総長」


 先にパノンが降参し、椅子を元に戻し、席についた。


「ニアル……」

「わーたよ」


 渋々といった感じで席につく。

 再び机の上に足を投げ出し、仏頂面を見せつけた。


「ともかく、マサキ……」

「はい」

「先ほどいったことに誤りはないな」

「ああ。けど、いくつか訂正がある」

「聞こう」

「文脈から推察するに、オレが守る【魔界の道】から魔族が現れたと思われてるようだが、それは違う」

「つまり、それは――」

「おそらく違う【魔界の道(ルート)】から現れたということだ」

「おい! てめぇ、言うに事欠いて。俺らの責任だって言いたいのか?」

「ニアル。黙れ」

「総長……。しかし、彼は我々にも落ち度があったといっているんですよ」


 ニアルを擁護する側のワドッシュが口を開いた。


「だが、そうとしか考えられない。留守番はロトに任せていたし。弟子も監視していたはずだしな」

「弟子? まあ……。マサキ、弟子をとったんですか?」


 パノンが口元に手を当てて、驚く。


 ディナリアは話を進めた。


「ロトというのは、あの魔族の協力者だな。信頼できるのか?」

「先代の――つまり、アヴィンの友人だ。それを疑うのは、アヴィンを疑うってことだけど……」

「わかった。……では、他のものに聞く。心当たりはあるか?」

「ないに決まってるだろ」

「同じく」

「ないですわ」

「アリマセン」


 ディナリアは息を吐く。

 このまま犯人捜しをしても埒がないだろう。


 悩む総長に、手を挙げて答えたのはマサキだった。


「オレはウソをついていないし。他の【塚守】もウソをついているように見えない。うっかり見落としがあった可能性も高いが、限りなく0に近いだろう」

「つまり――」

「そろそろ第七の穴について、調査すべきと思ってるんだが」


 それはかねてより噂はあった。


 ハインザルドと魔界サウスハッドは、カードのように表裏一体となっていると推測されている。

 そのため、瘴気や魔力の残滓が自然発生的に溜まることにより、表もしくは裏世界に対して膨大な加重がかかり、穴を開けると考えられていた。


 そうした自然発生した穴は安定しない。また場所もころころ変わるので、移動手段として非常に使いにくく、これまで無視されてきた。


 しかし、6つの穴のように安定した【魔界の道】が出来上がる確率は皆無ではなく、このところの頻発する魔族の侵入の原因と考えられていた。


「各国に呼びかけ、捜索をしてもらっている最中だが、めぼしい物証はない」

「マサキ……。あなたが書いた報告書には、魔族は召喚システムを使ったとあったけど」

「パノン。それは事実だ。かなりの高度な術式だと思う」

「おいおい。そんなものをバンバン使われたら、俺たちが【魔界の道】を守る理由がなくなるじゃねぇか」


 ニアルは足を下ろし、身を乗り出す。


「いや……。魔族がハインザルドに侵入しなければ、召喚術は無意味だ」

「つまりは、私たちがよく見張っていれば、問題ないということよ。ニアル」


 パノンがたしなめる。

 さすがにまた口論することはなかったが、ニアルはパノンの方を向いて、ギリギリと奥歯を鳴らした。


 ディナリアが再び口を開く。


「ともかく、侵入経路は各国の調査を待とう。……問題は、何故今になって魔族達が、ハインザルドに侵攻してきたか、だ」

「人間を根絶やしにしたいんだろ。つまりは戦争したいのさ」


 ニアルは肩をすくめた。


「事はそう単純なものではない。……マサキ」

「ああ……」

君がかつて行(ヽヽヽヽヽヽ)った魔界での(ヽヽヽヽヽヽ)調査書(ヽヽヽ)には、魔族たちは人間界に攻め込むことはないとあったと思うが」

「そういうだろうと思ってさ。スペシャルゲストを呼んである。……そのおかげで遅刻したんだけどね」


 マサキは入り口に振り返る。

 そして声を張り上げた。


「入っていいよ。ルシルフ」


 そう言った瞬間、扉がそっと開かれる。

 光の線が、さっと室内へと入り込んできた。


次回は来週末に投稿します。


土日の18時に投稿していくと思います。


新作もよろしくお願いします

http://ncode.syosetu.com/n2955dw/

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作はじめました。↓↓こちらもよろしくお願いします。
最強勇者となった娘に強化された平凡なおっさんは、伝説の道を歩み始める。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ