第1話 ~ 【六角会議】を始めることとする ~
少しの間だけですが、キリのいいところまで書けたので投稿しました。
楽しんで下さい。
カペスルク帝国帝都アルリアーノ。
世界でもっとも広大な大陸ミッドミラルド。その丁度真ん中に位置する都は、まさしくハインザルドの中心的な存在だった。
歴史は長い。
魔族との戦争において、多くの国が滅亡する中、唯一生き残り、つい20年前に興国1000年を迎えた。
故にアルリアーノは『千年大都』と呼ばれ、国内はおろか国外からも尊崇の念を抱かれている。
勇者アヴィンの生まれ故郷も領内に含まれ、また彼が初任官したのもアルリアーノ帝都防衛局であったこともあり、毎年各地から優秀な人材が集まっていた。
アヴィンが消息を絶った後、冒険者システムを発展させ、ギルドシステムを作ったのも、カペスルク帝国である。
その発祥の地には、ギルド本部が置かれ、世界7000カ所に配置された支部からもたらされた情報を精査し続けていた。
ギルド本部本殿『カラトバ』は、今――物々しい雰囲気に包まれていた。
先述の防衛局から兵がかり出され、カラトバを囲むように警護についていた。
内部には魔導部隊も展開するという念の入れよう。
緊張感は、演習以上だった。
白亜の石柱が並ぶ廊下を歩くものがいた。
寝癖がついたままの黒髪を掻き、眠たげな目を何度も擦っている。
体躯はひょろりとしていて、廊下を警備する兵士の方がよっぽど良い体格をしていた。
黒いマントを翻した者の容貌は、まだ幼さが残る少年だ。
15、6といったところだろうか。
とても士官には見えない。
しかし、父親についてきて、カラトバを散策しているという風でもない。
足取りはおぼつかないながらも、本日のメイン会場となる『黒の間』を目指していた。
大悪鬼も通れそうな大きな扉の前には、長槍を持った2人の衛士が立っている。
入口でもらった証明書を見せると、中へと通してくれた。
黒の間の中は薄暗かった。
中央には六角形の机が置かれ、天井からの採光だけが唯一の明かりだ。
6つの辺の前には、5人の人間が座っている。
何故か、外の警備以上にピリピリしていた。
少年が入ると同時に、視線が向けられる。
5人中2人は安堵し、1人は無表情、残りは明らかに怒りを露わにした。
「遅いぞ、マサキ!」
机に投げ出し、腕を組んでいた男がマサキが入ってくるなり怒鳴りつけた。
赤髪にターコイズブルーの瞳。
背丈は低いものの、剥き出しになっている二の腕には、確かな腕力が備わっており、戦士の身体をしていた。
使用する戦術によるものなのか。
全身に魔石がくくりつけられており、採光を受けて鈍い光を放っていた。
マサキの次ぐらいに若いようだが、それでも5、6歳の開きは感じられる。
「いやー、すまんすまん。ニアル」
拝み手で謝罪する。
マサキはマントを外し、残っていた椅子に着席した。
ニアルの横でドンと机を叩くものがいた。
「すまんではない。そこは申し訳ありませんだろう。君は、もう少し年長者を敬いたまえ」
金髪に、肌は褐色。
綺麗に切りそろえられたどじょう髭がよく似合う――40を過ぎた男だった。
薄い布地の服を着用し、肩口からむき出しになっている腕は、ニアル以上に逞しく、引き締まっていた。
それを聞いて、マサキは一度座った椅子から腰を上げる。
机に両手をつき、頭を下げた。
「申し訳ありませんでした。……これでいいか。ワドッシュさん」
再び席につく。
ワドッシュは腕を組み「ああ」と返事した後。
「最後のがなければ、もっと良かったのだがな」
と付け加えた。
「ご無事で何よりですわ。もしかして何かあったのかと心配していたんですよ」
パンと手を叩き、ニコニコ顔で発言したのは、神官の衣装を纏った女性だった。
色白の肌に、細い弦のような目。
終始、口元がつり上がっていて笑顔。
逆に表情がよく読み取りにくい。
ゆったりとした神官服を着ているが、一際胸部が突っ張っており、中身の想像がかき立てられる。
「パノンは優しいな。ありがとよ」
「どういたしまして。でも、遅刻はいけないことだぞ、少年」
「次からは気を付けるよ。……もっとも帝都は遠すぎるんだよ。近くの王都でやってくれればいいのに」
「何を言ってんだ。お前よりももっと遠いところから来ている塚守が、2名もいるんだぞ」
横からニアルが割り込む。
「そっか。ケルヴィラは最西端のブワッカだったな」
マサキが声をかけたのは、先ほどから眉1つ動かさない少女だった。
2つに結われたシャンパンゴールドの長い髪。
つるりとしたおでこがむき出しにし、少女は艶の消えた群青色の瞳をマサキに向ける。
黒いコートのような鎧は、口元付近まで覆い、よく見れば椅子に座らず立ったままだった。
「マサキサマ。オヒサシブリデス」
「ああ。久しぶり、ケルヴィラ」
突然、聞こえたロボットみたな音声に、マサキは気さくに答える。
「アヴィンサマハ、ゴソウケンデショウカ?」
「ご壮健? はは……。元気だと思うよ。もう何年も会ってないけど」
「ソウデスカ」
「もしかして、ケルヴィラは寂しいのか?」
「サビシイ? イイエ。ワタシニハ ソンナキノウハアリマセン」
「そうなの。 アヴィンはオートマトンである君の創造主だからね。いわば、両親みたいなものだから、てっきり……」
「ワタシヲ ツクッテイタダイタコトニハ カンシャシテオリマス」
「そうか。また調子悪くなったら言ってよ。力になるからさ」
「アリガトウゴザイマス」
「そろそろ会議を始めたいのだが。マサキ」
最後に声をかけたのは、入口からもっとも遠い場所に座った女性だった。
アメジストの色をした長い髪。
肌は褐色で、ややつり上がった赤い眼は彼女の苛烈な性格を容易に想像させた。
イヤリングに1つ、腕輪と指輪に1つずつ魔石がはめ込まれた装備は、典型的な上級冒険者の姿だった。
「すまない、ディナリア総長。はじめてくれ」
「よし……」
ディナリアが立ち上がる。
座っていた時にはわからなかったが、女性的な曲線が露わになる。
皆、ディナリアの方を向き、唇を引き締めた。
おもむろに宣誓する。
「では、全塚守参加による【六角会議】を始めることとする」
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