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異世界の「魔法使い」は底辺職だけど、オレの魔力は最強説  作者: 延野正行
第3章 ~~魔法使いの幼少期編~~
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第43話 ~ あんたは光……。あたしは闇だ。 ~

メリークリスマス!


第3章第43話です。

よろしくお願いします。

 エーデルンドがハウスに戻ってきたのは、明け方だった。


 中に入らず、真っ直ぐ井戸に向かう。

 入念に手を洗い、最後に顔も洗った。


 井戸の水面に薄く自分の影が映っていた。

 冷たい顔が見える。我ながらぞっとした。


 【土竜】マグブラ!


 と唱える。


 穴を空ける魔法。

 地面に小さな穴を空ける。


 すると、血のついた上着とスリットの入ったスカートを脱いだ。

 さらに魔法を追唱すると、ボッと燃え上がる。

 火の点いた衣服を穴の中に投げ捨てた。


 灰になるまで待った後、上から土をかぶせた。


「ふう」


 汗を拭う。

 下着だけになったエーデルンドは、ようやくハウスの入口へと向かう。

 取っ手を掴んだところで気付いた。


 窓の方を見る。

 橙色(オルトガ)の光がぼんやりと光っていた。


 少し眉をひそめる。


 慎重に扉を開けた。


「なんだ? 帰ってたのかい?」


 玄関を開けて、すぐのところにあるリビングの椅子に座っていたのは、アヴィンだった。


「まあね。……君こそなかなか刺激的な格好だね」

「…………」


 エーデルンドは俯き、口を閉ざした。


 大神殿から帰ってきた亭主アヴィンは椅子から立ち上がる。

 入口の前で立ちすくむ伴侶を抱きしめた。


「ごめん。君にはいつも辛いことをさせてるね」

「いいさ。昔からこうなんだ。慣れちまったよ」

「…………」

「あんたは光……。あたしは闇だ。それは今も変わらない。400年ずっとそうしてきた。それにね」

「うん?」


 甘えるようにエーデルンドはアヴィンの胸に自分の頬を付けた。

 氷のように冷徹だった青い目が、少しずつ溶けていく。


「あたしは嬉しいんだよ」

「嬉しい?」

「400年前、あたしが殺しをしていたのは世界のため、魔王を倒すためだった。でも、どこか虚しさを感じていた」

「……うん」

「でも、今は違う。あたしはあたしが守りたいと思ったもののために殺しをした。似てるようで、それは全然違う。断じて違う」


 エーデルンドは離れる。

 頭半分ほど大きなアヴィンを見つめた。

 青い目を見て、いつもの伴侶だと勇者は確信した。


「マサキを守るためならなんだってするさ。だから、あんたが気にする必要なんてないのさ」

「うん。ありがとう」

「ところでマサキは?」

「よく眠っているよ」


 2人は手を繋ぎ、寝室に赴く。


 ドアを開けると、すぅすぅと規則正しい寝息が聞こえた。


 少年が布団に縋り付くように眠っている。


 エーデルンドは傍らに座った。

 その肩に、アヴィンは自分が着ていた上着を掛ける。


 細い指が、現代人らしい黒い髪を撫でた。


「う……。うう……」


 マサキは譫言を漏らす。

 苦しそうにではない。どこか安堵しているように見える。


「わかるかい、エーデ」

「……わかるよ」


 エーデルンドはじっと見つめた。

 体毛の一本一本を丁寧に調べるように。


「魔力が高まってる」

「身体的にかなり強化されてるみたいだ。まあ、そうじゃなかったら。彼の身体はバラバラになっていただろうけどね」


 エーデルンドは複雑な顔を見せた。

 アヴィンは話を続ける。


「強かったよ、彼……」

「そりゃそうさ。なんせシャーラギアンだからね」


 エーデルンドの意見に、アヴィンは頭を振った。


「違うよ、エーデ。彼はぼくたちの――」


 子供だよ。



   ※    ※    ※    ※    ※    ※    ※



 マサキは夢を見ていた。


 抉られた大地。

 黒く霧がかった大気。

 焼けた臭いが鼻を突き、曇天の空が光を奪っている。


 その中でマサキは1人の男と戦っていた。


 青い鎧。

 光り輝く剣。

 金髪をなびかせ、あらゆる体技と魔法を操っていた。


 きっとそれは勇者だ。


 マサキは確信した。


 では、それと戦っている自(ヽヽヽヽヽヽ)分は何者だろ(ヽヽヽヽヽヽ)()


 空を駆け、大地を穿ち、闇を運ぶ。

 時折、哄笑を上げ、勇者の善戦に賛辞を送る。


 それはまるで――。


 まるで……。


 まるで何だろうか?



   ※    ※    ※    ※    ※    ※    ※



 ダンジョンに出来た大きなクレーターの中央。


 勇者アヴィン。

 魔王シャーラギアン。


 両者はぶつかり合った。


「は゛あ゛!」


 シャーラギアンは奇声を発した。


 掲げた手から闇の玉が現れる。

 さらに3つに分裂。大気を切り裂きながら、アヴィンへと向かう。


 直撃――!


 シャーラギアンは笑う。


 だが爆炎から現れたのは、光の壁を展開した勇者だった。


「光魔法か……。得意だったな」

「覚えていてくれて嬉しいよ」


 アヴィンは手を振る。


 自分に展開した光の壁を、今度は魔王に配置する。

 気付いた時には、前後左右――下も上も、取り囲まれていた。


「ぐふ」


 シャーラギアンは忌々しそうに息を吐く。

 すると、アヴィンはぐっと握った。


 壁から鎖が飛び出す。


 あっという間にシャーラギアンを捕縛した。

 さらに鎖は蛇のようにはいずり回る。

 小さな子供の体躯をすっぽり覆ってしまった。


「よし!」


 アヴィンは次なる手を――。


「――!」


 光の鎖にヒビが入る。


 次の瞬間、粉々に砕け散っていた。


 闇が増大する。

 さらに光の壁から少しずつ漏れていくと、飲み込んだ。

 収縮し、残ったのは魔王だけだ。


「げっぷ……」


 と喉を鳴らす。

 首筋を掻いた。


「まずい」


 小さく舌を出す。


 アヴィンはただ呆然と成り行きを見守っていたわけではない。

 空間のあちこちに魔力を放つ。

 シャーラギアンを取り囲むと、その魔力から再び鎖が飛び出した。

 魔王を捉える。


 かに見えた。


「しゃらくさい!!」


 闇を集めた。

 手に一振りの黒剣を呼び出す。


 一振り……。

 二振りすると、すべての鎖を薙ぎ払う。


 さらに宙を蹴った。


 アヴィンとの距離を詰める。


 最上段から豪快に振り落とした。


 アヴィンは光の盾を展開。

 力と力。

 魔力と魔力のぶつかり合う。


 両者は中空で拮抗した。

 放電が舞い、破裂音が耳朶を打つ。


 にぃ、シャーラギアンは口を開けて笑った。


「どうした、勇者! 手品では余を押さえられぬぞ!」

「手品、ね。これでもぼくが400年かけて考えた魔法なんだけど。ちょっと自信なくすな」

「ならば、聖剣を抜いたらどうだ? それとも飾りなのか? うん?」

「生憎とそれが出来ない事情があってね」

「この身体か」


 アヴィンは盾から鎖を展開した。


 魔王は一旦距離を置く。

 闇の剣でそれらを払った。


「遠慮をすることはない。これは余の身体だ」

「違うね、魔王。それはお前の身体じゃない」


 アヴィンの声の調子が一際強くなる。

 シャーラギアンは眉尻を上げた。


「それはマサキ。立花マサキ。ぼくたちの子供の身体だ」

「ぼくたちの子供か……。余が知らないと思ったら、大間違いだぞ。……貴様、余の力を弱めるため、他世界の女の身体を使って、我を産ませたのだろう」

「…………」

「余も魔王などと呼ばれるが、貴様も大概畜生よのう、アヴィン」

「…………」

「自分の子供といいながら、なんの罪もない親子を巻き込んだのは、貴様の方であろう」

「わかっているさ」

「わかっている……。理解している……。だから、なんだ? それが贖罪になると思ったら間違いだぞ。むしろそれは悪だ。余の領分だ。わかっているなら、なおさら太刀が悪いではないか」

「耳が痛いね」


 アヴィンは肩をすくめる。

 シャーラギアンの目つきが変わった。


「何故笑う。何故笑える?」

「魔王に説教されるなら、ぼくはよっぽどの大悪人だと思っただけさ」

「は! 開き直っておるわ」

「開き直りもするさ。勇者と言われ――400年経った今でももてはやされているぼくでも、過去は変えられない。ならば、前を向くしかない。人間はそうやって歩んできた。むしろ、君のように過去のことを並べ連ねる人間こそ、太刀が悪いんだよ」

「はは! 貴様、誰にもの言っている?」

「さすがは魔王だと褒めてほしいのかい?」

「抜かせ!」


 再びシャーラギアンが距離を詰める。


 アヴィンは鎖を放った。

 それを巧みというよりは、無理矢理引っ剥がすように、魔王は切り裂いた。


 2人の距離が零になる。

 アヴィンが再び盾を展開しようとしたその時だった。


 突然、体勢がぐらりと崩れる。


 中空にもかかわらず、片足が何者かに引っ張られていた。


 見る。

 すると、視界に映ったのは白い手。

 だが素肌とは違う。


 骨だ。


 肉を削いだ白い手骨が、アヴィンをがっちり掴んでいた。

 しかも、それは小さな子供の人骨だった。


「――――!」


 それだけではない。

 アヴィンの足を握る子供の骨を先頭に、無数の骨が山となって、中空まで伸びていた。


「よそ見をしている場合か」

「しま――」


 気が付いた時には、闇の剣が振り下ろされた直後だった。


 上から下へと衝撃が身体を突き抜けていく。

 そのままアヴィンは高速で地面に叩きつけられた。


 爆煙が舞う。

 ダンジョン内に出来たクレーターに比べれば、小さなものだが、倒れたアヴィンを中心に円が生まれた。


「か――」


 血が口から溢れる。

 幸い寸前で盾を展開して、斬られることはなかったが、衝撃まで軽減するのは、いかな勇者であっても間に合わなかった。


 アヴィンの受難は終わらない。


 先ほどの骸骨の集団がわらわらとアヴィンに群がってくる。

 回復魔法を全開にして立ち上がるが、すでに身動きが奪われていた。

 辺りを窺えば、10万に届こうかというほどの死霊たちが囲む。


 ――いつの間にこんな召喚術を……。


 シャーラギアンといえど、技術を使うとなれば、その制約を受けることになる。

 魔力を練り、術法式に従い、発動するというプロセスは、人間も魔族も、そして魔王も平等の下に置かれる。


 これほどの規模となれば、相当の魔力を練る時間が必要だったはずだ。


「あ――」


 アヴィンは思い出す。

 ダンジョンに穿たれた巨大なクレーターに目をやった。


「あの時に、すでに布石を打っていたのか」

「ご名答……。さすがは勇者だ」

「趣味が悪いトラップだね」

「用意が良いと褒めてはくれぬのか?」

「手の先に集めた魔力を振り下ろさないと約束してくれるなら」


 空に浮かぶ魔王。

 その手には、岩と言うより小さな山ともいえるほどの肥大した魔力を掲げていた。


「ぬかせ……」


 にぃ、と笑う。

 それはまさしく……。


 悪魔のほほえみだった。


 容赦なく振り下ろす。


 死霊たちに四肢をふさがれた勇者に、巨大な闇の塊が――。


 直撃した。


祝!! 100部達成です(だからどうした?)


次回は一週お休みさせていただき、新年の1月7、8日に更新する予定です。

(すいません。年末年始は色々と忙しいので……)


今後ともよろしくお願いします。

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