彼
人の生きた証
本当の自分ってなんですか?
一人で居る時?
恋人と居る時?
友達と居る時?
家族と居る時?
僕は、僕を殺してる時…………
章・1
なかなか眠れない……
常にそう思いながら、暗闇の中天井を見上げるのは
もう慣れていた…
悲しい訳も無く、辛い訳でもない、ましてや、なんて不幸なんだ俺はなんて、思ってる訳でもない…
ただ
この暗闇の中に溶けてしまいたいだけだった。
いつからだろう。
そんな事を考えながら気絶するように
眠るようになったのは…………
彼が産まれたのは
ごく普通の家庭、父は厳しくも子煩悩
母はいつも笑顔の絶えない心配性
姉は弟思いのしっかり者
彼が産まれわんぱくな彼に家族はてんてこ舞いしながら
彼を取り合う
そんな家族で彼は育った
小さい彼はわんぱくで、落ち着きがない
少し目を離すともう居ない
母は毎日彼と追いかけっこの日々
レストランに食事に行けば、注文を取りにきたウエイトレスの女性のお尻を触り、喜び
それを羨ましそうに見る父、その父に飽きれる母と姉
そしてその光景を見て笑う彼
父は子煩悩の為、いつも彼と姉を色々連れて回った
動物園、遊園地、ゲームセンター
一番良く連れて行ったのはキャンプ
家族、親戚、友人などを連れて
全て父仕切りでキャンプが行われていた
つくや否や上半身裸になり
車から資材やらなんやら一式出すと
慣れた手つきでテントを張る
そしてビール片手に釣り
子供達には川での遊び方を教え
夕食どきにはバーベキューを作る
なんでも出来る頼れる父
だが小さな彼と肉を本気で取り合うような幼稚な面もある
そんな父だった
母はそんな父を影から支えながら
いつも笑顔でいた
几帳面で毎日彼と追いかけ回って疲れても
家事を怠った事は一度も無い
父に対してもどんなに帰りが遅くとも
文句一つ言わず笑顔で帰りを出迎えた
とにかく仲の言い夫婦だった
姉が一度門限を破り父が激怒した時も
そっと泣く姉を抱きしめた
姉もそんな母に甘えるように泣いて居た
そんな姉も彼には
毎日のように小さなお菓子などの
お土産を買ってきては彼と遊び
彼の面倒を良く見るそんな姉だった
彼が一度どうしても欲しいおもちゃを買って貰えず
駄々をかいていると
姉が自分のおこずかいで彼の欲しがっていた
おもちゃを買ってくる程彼には甘かった
ただただ幸せな家庭だった
章・2
少し強めの雨が降る夜だった
夕食も終わり
母は夕飯の片付け
父は外出
姉は彼と遊んでいた
そんな時…夜にはあまり鳴らない家の電話が鳴った
母が取ろうとしたが
一瞬躊躇した…
母が電話を取り少し会話したぐらいから
母の顔が母の顔では無くなってきた
様子に気付いた姉が駆け寄り
電話が切れているにも関わらず受話器を離さない母
父が死んだ。
この日は仕事先からの急な呼び出しにより
夕飯後、父は仕事場に向かっていた
仕事場が近い事、急いでいた事、すぐ終わると思い
雨の中
原付バイクで向かっていた
その途中交差点での事故
即死だった
この時僕は目を覚ました………
少しづつ彼の事を感じてもらえると有難いです