食堂
ユウのリクエストで俺達は食堂に集まっていた。
この食堂はWPPのホテルの2階にあり、定食が豪華なことで有名である。
俺達は食堂の長テーブルに腰かけ、修学会長の到着を待っていた。
そんな緊迫した空気の中、一人だけ、右手にスプーン、左手にフォークという、いかにもな体勢で飯を食い散らかすアホがいた。
当然ユウである。
ユウは口の周りにケチャップやらマヨネーズやらミートソースやらをつけており、ちょっとした遊園地のお化け屋敷にいても、そこらのお化けよりよっぽどホラーな顔に変身していた。
そんな俺の視線に気付いたのか、ユウは急に食事を中断し、満面の笑みを見せつけてきた。
怖っ!!!顔どうにかしろよ!!!!
そんな俺の願いは届かず、ユウはまた食事を再開した。
ヤツの胃袋はブラックホールにでも繋がっているのだろうか?宇宙飛行士とかが呑みこまれてしまうのだろうか?
そんなくだらないことを考えていると、修学会長がやってきた。
「待たせたな、皆」
会長が言ったのと同時に、ユウは素早く自分の顔をナプキンで拭いていた。なんという手際のよさ。
「あー……、話してもいいかね、菊龍院君」
「す、すいません会長!」
頭を勢いよく下げるユウ。一昔前に流行したフラワーロックを思い出した。
「それで、今日は何の話なんですか?」
なぜか訊いたのは、有希だった。会長は怪訝そうな顔をしたが、すぐに話し始めた。
「そうだな……まず、質問だ。君たちはパンドラーがどれだけいるか、知っているかね?」
パンドラーの人数?えっと、確か――
「全世界で一億人ほど、ではないでしょうか会長」
真っ先に咲耶さんが答えてくれた。さすが咲耶さん。すると突然、ユウが俺に耳打ちしてきた。
「オレ、一万人くらいだと思ってた」
……菊龍院祐一。コイツやはりバカだ。
「正解だ佐倉君。では、日本には何人いるかわかるか?」
「日本、ですか?十五人ですよね?」
当たり前だ。それぐらい俺だって知っている。
「オレ、わかんなかったぜ。ウヘヘ」
黙れユウ。
「そう、十五人――のはずだったのだ」
はず、だった?
「会長。どういうことですか?」
俺の問いかけに会長は答えた。
「皆知っての通り――日本のパンドラーは十五人。そのうちの十一人がこのホテルに在住している。残 りの四人は地方のWPP支部にいる。それで全員のはずだったのだが――」
「会長。十六人です。詩織を含めて」
俺はたまらず会長の話を遮ってしまった。でも、詩織だって俺達の仲間だ。仲間はずれにするのは俺が許さない。
「ああ、そうだったね。話を戻そうか」
全く気にせず、会長は続ける。
「先日、群馬県のWPP支部にて、十七人目のパンドラーが発見された」
その言葉に、皆目の色を変えた。あのユウでさえも。
そうだ、それほどまでに衝撃的なことだ。つい最近十六人目の詩織が発見されたばかりなのに、また新たなパンドラーが見つかるなんて――。
「ほ、本当ですか!?」
あのいつも冷静な咲耶さんが動揺している。
本来、パンドラーとは“十年に一人の天災”と呼ばれている存在だ。もちろん十年というのはただの比喩であり、見つかる時期と見つからない時期があるだけだ。俺達はその見つかる時期だったわけだ。
「ああ、だがそれだけではない。岩手県支部でも一人発見された」
全員、押し黙った。
「群馬県支部も一人、富山県支部と沖縄県支部では二人ずつ発見されている」
……こんなの、見つかる時期とかだけじゃない。確実に“何か”が動いている――。
「そして、ここWPP本部は、四人のパンドラーを発見した」
「まさか…」
「そう、君たちにはパンドラーの調査に向かってもらう」
次回、調査開始!