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PANDoRA  作者: ソルテ
3/9

集結

 ロビーに到着した俺達を待っていたのは、同じくこのホテルに宿泊しているパンドラー達だった。

「遅かったな桐生」

「すいません、咲耶(さくや)さん」

最初に声をかけてきた彼女は、佐倉(さくら)咲耶(さくや)さんという。

 女性にしてはややぶっきらぼうな口調だが、整った顔立ちとスリムなボディ、腰のところまで伸びた長い髪がセクシーな大人の魅力を放っている。だが、その口調からわかるように、彼女は厳しい性格だ。当然遅刻にも厳しい。彼女の表情にはかすかな怒の気配が見てとれた。

「まったく、いつも遅刻するなと言っているだろう。だいたいにしてこのホテルに女連れで来るなどふざけているのか?わたしが若い頃は――」

「あ、あはは、咲耶さん。もうその辺で…」

 有希が苦笑いしながら咲耶さんを諌める。

「はあ…じゃあまた今度説教してやる、桐生」

 有希、グッジョブ。

 咲耶さんの説教はかなり長い。短くて二~三時間、長い時で十時間は続く。しかもいつも自分の若いときの話をするから、少しオバサンくさく感じる。この間勇気を出して聞いてみた。



「咲耶さん、いったいいくつなんですか」



 無言でグーで殴られた。その後はいつも通り説教された。二十四時間続いた。死ぬかと思った。

「まあ…来ただけいいのかもな」

 咲耶さんがそう言うのも無理はない。このホテルに居るパンドラーは実に十一人。だがこのロビーに居るのは有希を含め五人。七人のパンドラーがここに来ていない。

「アイツらやる気ね~からな~」

「ユウか」

 ソファに寝転がってだらけた声を出すのは、菊龍院(きくりゅういん)祐一(ゆういち)。ニックネームはユウ。俺の悪友だ。

「もちろん、オレは今日も一番乗りだったぜェェェ~」

「相変わらず早起きだな」

「早起きか…早起きはいいな…うん」

 隣で咲耶さんがうんうんと頷いている。決められた時間より早く来るユウのことは彼女も気に入っているらしい。

「おはよーユウくん」

「!OH!有希ちゃん!ウオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 困ったことに、ユウのやつは有希のことが好きらしい。……絶対に渡さないがな!

 会話は弾んでいるが、そんな俺達を尻目に一人本を読んでいるやつがいる。そいつはユウの隣のソファに座っていて、「ウオオオオオオオオ!」と叫んでいるユウをうるさそうな目で見ていた。

「おはよう、詩織」

「……」

 声をかけたが、反応は無しか。

 彼女は上野詩織(うえのしおり)。趣味は読書。彼女がこのホテルに来たのは、ほんの三日前のことだ。その当時、すでに日本では十五人のパンドラーが発見されていたが、彼女はイレギュラーな存在、十六人目のパンドラーということだ。

 俺とユウ、咲耶さんや有希以外の七人は彼女を気味悪がっている。そのせいで詩織も俺達に心を開いてくれないのかもしれない。

 だから、俺は積極的にスキンシップを取るようにしている。

 そうだな、まずは興味を引くことが重要だ。

「どんな本、読んでるんだ?」

「……『ヅョヅョの微妙な冒険』」

 答えてくれた。そういえば初めて詩織の声を聞いた気がする。詩織は少しずつ俺達に心を開いているのかもしれない。それは、ちょっと嬉しい。

 …つーか意外だな。コイツ、漫画とか読むんだ。もっとお堅い感じの、芥川とか読んでるのかと…。

…つーか第一声が『ヅョヅョの微妙な冒険』って……後で貸してもらお。


「全員集まったか?」

 ロビーの入り口から低い男の声が聞こえた。皆一斉に入り口へ視線を向ける。

「桐生君に…その幼馴染…菊龍院君…佐倉君…そして上野君か」

 男は一人ひとり指さし数えながら俺達に近づいてくる。

 俺達はこの男を知っている。

「おはようございます――修学(おさまなぶ)会長」

 さすがは咲耶さん。深々と頭を下げた、完璧なお辞儀だった。

「ああ、おはよう」

 まったく感情の無い声でその男――WPP会長、修学(おさまなぶ)旅行たびゆきはそう言った。一見すると人名には見えないが、紛れもなく本名だ。結構な年齢のはずだが、規則正しい生活を送っているからか、見た目は三十代前半くらいに見える。

「それにしても…パンドラーはたったの四人しかいないじゃないか。他のパンドラーはどうしたんだね?」

「…みんな詩織を避けているんですよ。得体の知れないパンドラーといられるかって」

 詩織のパンドラはいまだ正体不明だ。それが原因で詩織が孤立しているのだから、もし会長が詩織のパンドラを公開すれば――もしくは会長からみんなに一言言ってくれれば――。

「そうか」

 と一言。ただそれだけ。そこにあったのは無関心だけで、会長への期待は粉々に砕け散った。

 …やはり、この会長、何を考えているかわかったもんじゃない。詩織を連れてきたのも会長だ。なぜ会長は詩織を――?

「それでは、さっそく話を始めたいのだが――」

「あ!会長!」

 話し始めようとした会長を、なぜかユウがさえぎった。

「俺!腹減りました!食堂で話しましょう!」

 それだけ言うと、ユウは食堂へ向かって走り去っていった。

 …ユウ、さすがに空気を読めよ。

 思いながら、俺達も食堂へ向かうのだった。

次回、急展開!?

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