09
そしてそんな彼らの後ろから、一人の女性と聖夜よりも少し年上らしい一人の少年が姿を現した。
「お帰りなさい、あなた。あら、その子が例の子ですか?」
「お帰りなさい父上」
「ただいま。そうだよ、ほら聖夜」
彼らの口調から、彼らはオズの妻子であろうという事が聖夜にも分かった。
オズに促されて聖夜が前に出ようとすると、数人残っていた侍従たちがさっと道を開けて下がっていった。
「は、はじめまして。僕は聖夜といいます。これからお世話になります。家事ならある程度手伝えます。なので、あの、よろしくお願いします」
強張る喉で必死に言葉を紡いで頭を下げた。聖夜は怖くて、下げたその頭を上げられなかった。
すると聖夜の頭上から声がしたかと思えば、いつの間にか目の前にまで先程の二人が近寄って来ていた。
「聖夜、貴方は今日からこの家の子になるんです。そんなに怖がらなくても大丈夫よ。お勉強はしっかりやってもらいますけどね」
ふふと優しげに笑って言う彼女に、優しく肩に手を置かれ、聖夜はやっと顔を上げた。
「聖夜は俺の弟になるんだよな?はじめまして、俺はライ。俺、兄弟が欲しかったんだ。これからよろしくな!」
子供の方にも話し掛けられて、聖夜はぎこちなく頷いた。やはりすぐには、町のみんなと接していたように彼らと接することは出来なかった。
「聖夜、今日からこの屋敷に暮らす者たちは全員お前の家族だよ。良いね、家族にも町民にも誇らしく思ってもらえるようになるように、日々の努力を怠っていはいけないよ」
「っはい!」
「とは言っても、慣れるのには時間がかかるものだよね。ライ、聖夜の世話役を頼んでもいいかな?」
「はい、もちろんです♪」
そんな彼らの言葉を聞きながら、これからは本当に今までとは全く違う世界で自分は暮らしていくんだと、漠然と思った。
そし聖夜は自らの心の中で誓ったのだ。自分は唯一人のために、今までもこれからも折れずに生きていくのだ、と。
こうして聖夜は、オズらに家族として迎えられ、ライとも一緒に過ごすうちにどんどん仲良くなっていった。
そして行儀作法のレッスンから勉学に至るまで、たくさんの学習が行われた。
義兄となったライは頭もよく武芸に秀でていた。だから聖夜はよくライにも教えを受けたが、武術は競っても全く勝てた例は無かった。
「聖夜、剣の稽古をしよう」
「はい、よろしくお願いします」
時間があれば誘い合って共に勉強をしたり稽古をしたりする二人を、家の者たちはほほえましく見守るのだった。
そしてそんな日々が続いていたある日、聖夜はオズに伴われて久しぶりに城へ行くことになった。
城へ出仕するのだからと、最低限の作法を身に着けるまで、しばらく城へは行っていなかったのだった。
聖夜は久しぶりに高人に会えるだろうことがとても嬉しくて、真面目な顔の下で気分は高揚していた。
久しぶりの登城なので聖夜は心配していたが、オズはほとんど毎日城で過ごしているので迷わずに聖夜を連れて奥まで進んでいく。
高人を生んだ母である華奈は、他の姫たちとあまり仲が良くないらしい。だから彼女の住居は、高人を生んだということもあって、他の姫たちとは違う場所に与えられているようだった。
小さな、しかし静かで過ごしやすそうな、少し後宮から離れた場所に建てられた部屋は、穏やかなたたずまいで聖夜たちを迎えた。
「こんにちは。華奈様はいらっしゃいますか?」
オズが通りかかった侍女の一人を呼び止めて問えば、彼女は立ち止まって二人の姿を見ると、微笑んで答えた。
「あら、オズ様でしたか。えぇ、華奈様なら中にいらっしゃいますよ。お入りになってください」
侍女は二人を伴って廊下を進んだ先、奥の部屋に向かう。