#6 A.S事件
「あっつ・・・・」
いつまでこの暑い時期が続くのだろう・・・
今日までです。という突っ込みを自分自身に言い聞かせ、明日から夏休みに入ることを心の底で心の底から喜ぶ。そして俺は出席番号が初めのほうで窓側の席だということを恨む。
窓側涼しくてよくね?とか言っている君達はもう古い。
今の時代クーラーのない高校ってどこだよwww
みたいな感じだ。つまり窓側は直射日光が当たり、クーラー付いているからと言っても変性MET防止とか意味の解らない理由で29度設定。
「あっつ」
後ろからも似たような声が聞こえてくる。
「あっつ・・・」
そして接点はないが前の席からも聞こえてくる。
そう・・・今の世の中窓際が涼しいということはないのだ。
「起立。ありがとうございました」
そしてよくあるパターンで授業終了。そしてだるい授業は終わる。
その繰り返しで学校が、いつもの一日が終わりを迎える。
「だるかったな・・・」
いつもの帰り道。中学まではいつも一人だった。一人でアストレイ社まで帰っていた。
でも今は違う。
「ねぇ。今日はどんな人助けするの?」
はぁ・・・厄介な奴のパートナーになっちまったな・・・
「俺にも解らん。お前らに回してくるめんどくさい仕事は俺が管理しているわけじゃねえから・・・」
「そう」
変な会話をしながら俺達はいつも通りアストレイ社へ向かった。
――――――――アストレイ社
「来てやったぞ」
「ん?慎耶か・・・いいとこに来たな」
「ん?」
俺はまた変な頼み事でも来るのかと思いつつ、親父の傍に近付く。
青を主体とし、日本のシンボルである日の丸の赤と白を混ぜ込んだ服を着ている女性。
というよりも少女。見ただけで解る。
雇われ者――――国家悪魔処理班に所属しているDDだ。
「で、雇われ者様が何ようで?」
「酷い言われようね」
国家悪魔処理班のDDは肩をすくめ、怪訝顔になる。
「おっと・・・気に障ったか?」
慎耶も似たように肩をすくめる。
「いえ、で、社長さん。いや、日本支部長さんの方が正しいかしら?」
慎耶の父親、そしてアストレイ社日本支部長の小笠翔真へと話の重点を持っていく。
「どちらでもよい」
「これが例の?」
「ああ。半悪魔化状態の狂人を捕まえたやつだ」
国家悪魔処理班のDDは目線を慎耶へと向ける。
「へぇ。で、話したいことがあるけどいいかしら?」
「俺はまだあんたがどんな人間か知らん」
「それもそうね。自己紹介がまだだったわ。私は国家悪魔処理班の柳凛」
「俺はアストレア社永年雇用DDの小笠慎耶だ。以後よろしく」
「自己紹介がすんだところでいいかしら?」
「ああ」
凛の言葉に素直に頷く。それを確認すると、凛はある資料を提出した。
「ここ最近変な事件が多いのよ」
「変な事件?」
出された資料を見ながら、慎耶は首を傾ける。
「あなた達が捕まえた変異種の悪魔。まあ、人間の心があるから半魔とでも呼んでおきましょう。あれもそうなのだけれども・・・」
「被害者百万人?」
凛の話などそっちのけで、慎耶と亜美は資料に書かれている事件に目を丸くしていた。
「あ、あなたたち・・・人の話を聴いてるの?」
「これ、どういうことだ?」
「それを今から説明しようと思っていたところ。まったく、これだから最近の若い子は」
「お前も対して年齢変わらないだろう。16歳じゃねえか」
「なっ!!ど、どうしてわかったの?」
なぜ自分の年齢を!!どこで知ったのかはわからなかったが、自分の個人情報が漏れているのではないかといらぬ心配をする凛。
「ああ。この資料にお前のDD免許付いていたから・・・」
「し、しまった!!」
「「・・・・・・・・」」
言葉に出ない慎耶と亜美。
ものすごい勢いで免許を取る凛。
「な、なんなのよ」
「いえ、別に。ささ、どうぞ。お話を」
「まったく。これは、まだマスコミにも知られていないA.S事件よ」
「A.S事件?」
なんのことだ?訳が分からなく、理解できない慎耶と亜美。だが、社長で父親の小笠翔真とDD管理担当のリサは全てを知っていた。
「MPのソフト・・・MPMMOARPGオーレリシア・ストーリーというゲームをご存知?」
「ああ。今流行りらしいじゃん。企業向けにしか売れなかったMPも販売台数500万近く達して、ゲーム自体は100万本越えの売上だったか?」
「案外詳しいのね」
「持ってはいないが」
しかし、それと突然変異種と何が関係あるのだ?
「オーレリシア・ストーリーのユーザー100万人が悪魔化し、高須ホールディングスのDDによって処分されました」
「はあ?ってことは・・・」
「仮説だけれども、MPのソフトには変性METを大量に放出し、人間の遺伝子細胞を変化させる作用がある・・・とでも言っておきましょうか」
「だが・・・俺たちはそのMPを使って訓練をしているぞ」
DDはもしもの集団悪魔化である大規模発生に備えてMPを使って訓練しているのだ。
「・・・・私たちがデーモンデリーターだということを忘れていはいないわよね?」
「そうだったな・・・」
デーモンデリーター自体はMETを体に浴びせかけることによりMET大量摂取によるモンスター化を防ぎ、変性METにも耐性がついている。今のところデーモンデリーターが悪魔化したという話は一切聞いていない。
「国家悪魔処理班上層部は突然変異種とA.S事件・・・高須ホールディングスカンパニーが絡んでいると見ている。しかし・・・」
「・・・・成程。華族としての権力か」
皇族関係者、もしくは縁のあるもの、大和皇国時代の地方領主の血を受け継ぐ人々。大和連邦を作り上げた家柄として、それ相応の権力が与えられている。
「ああ。もともと大和皇国時代から高須家と皇家は縁が深く、政界だけでなく、国内産業や世界の経済をも担っている大企業。迂闊に手を出すことはできません」
「というよりも、手をだしても敵わないだろう」
「うっ・・・・悔しいことに。そのとおりです」
日本国内の軍需産業やMET機器、エネルギー部門のシェア60%を超えており、ユーラシア大陸でも60%。南北アメリカ大陸では40%。第三世界である、アフリカ大陸では中古の高須製が安価ながらも高性能というのでシェア60%を超えている。
問答無用の世界第一位の企業。そして軍需産業の中には、兵器製造以外にも民間軍事会社(PMC)を経営しており、DDと並ぶ高須ホールディングスの私設部隊である。
「たしかにな」
近くで話を聞いていた紙一枚上での慎耶保護者である翔真は口を挟んだ。
「残念なことにMET機器世界シェア第3位のアストレイ社と言えども、所詮世界シェア15%だ。高須ホールディングスは世界シェア第1位で約50%を誇っている。皇族の護衛は縁が深く、皇族の住居である五稜郭は日本軍ではなく、高須ホールディングスのPMCに頼んでいるそうだ」
「PMCか・・・・・」
「ああ。PMCだから国際法なんて関係ない。容赦なくMウェポンを使っている」
「それは容赦ねえな。で、言いたいことはそれだけか?」
慎耶からの疑問にフッと笑うと、翔真は答えた。
「10年もいると、分かってしまうものだ。高須ホールディングスカンパニーを相手取るなら、アストレイ社はこの事件調査から抜ける」
「!!」
国家悪魔処理班の柳凛は絶句した。アストレイ社の弱腰だけじゃない。高須ホールディングスがそんなに強大なのかと。
「しかし、ここにいる半魔を捕まえた愚息とこの嬢ちゃんは正式なアストレイ社のDDじゃないんでね」
一人は永年雇用だが、正式な手続きなどない。慎耶がボランティア・・・というよりも、恩返しのような形でDDをやっているだけだ。
亜美の方はアストレイ社のDD養成学校を出ているが、未だ半人前で、正式な手続きなどしていない。
「また、めんどくさい仕事を・・・・」
「とか言って引き受けるんでしょ?」
亜美は慎耶の背中を叩く。
「親孝行ぐらいは・・・してやらないと」
「親孝行とは・・・泣けるねえ」
この野郎!!と内心翔真に思いながらも、柳凛からよろしくお願いしますの握手を交わした。
「俺の夏休みが・・・」
仕事で潰れると後々嘆く慎耶だった。