#5 半魔
東京――――世界で第一位の経済と人口、面積を誇る大都市
その大都市の真ん中
私は指をかける。
・・・・・距離100m
スコープを覗く。だんだんと近付いてくる悪魔。
種類は色々・・・アストレイ社が確認した悪魔がすべている。
翼の生えた悪魔、悪魔というよりもゾンビと言った方がいい悪魔等。
だが、私は差別しない。
・・・・・すべてを撃つ
トリガーに指をかけている右手とは逆の左手は砲身に触れている。
そこから体内のMETを挿入していく。
(・・・順調、順調。そのまま・・・)
「狙い撃つ!!」
引き金を自分の身体の方へ引く。
―――その刹那
高濃圧縮されたMETは空気の振動を与えながら重力の影響を受けず直進する。
「fじあそhぐgん;lんろ」
文字化けしそうな言葉にならない言葉が悪魔から発せられる。
そんなことお構いなしに私は引き金を引く。
風を切る音。悪魔を粉砕する音。数は30体。何も残らず確実に一体ずつ潰していく。
[MISSION COMPLETE 経過時間12分11秒38 使用カロリー837カロリー。評価B]
「なんだ・・・・Bか・・・残念」
パシュッ
先程まで東京の街並みを描いていた景色は一瞬で特殊な機械だらけの部屋へと変わる。
でも肩にかけているMウェポンはそのままだ。
アストレイ社製肩打ち式携行対悪魔専用MET射出砲C-01 typeA
携帯MET投射機に比べると飛距離も威力も比にならない。
だが、その分使用するMETの量は数十倍になる。
つまり、ある程度METを操れるようにならない限りうまく扱えない。
「ふぅ~終わった」
「ご苦労さん。どうだった?仮想空間模擬戦闘訓練は?」
仮想空間模擬戦闘訓練――――蜃気楼を応用した訓練。
そもそも蜃気楼とは大気中のMETが地上や水上の物体として一時的に具現化される現象。大気MET現象と呼ばれる。
高須ホールディングカンパニーが開発したミラージュプログラム
略称――――MP
それをアストレイ社が独自改良を施し軍の仮想空間戦闘訓練規模のことができるようにしたのだ。
この具現化現象を人間の手で強制的に起こさせ、今いる空間とは別に空間を作りそこで暴れまくって訓練をする。
「まあまあね。でも多少の実践感覚は学べたわ」
「そう。パートナーの慎耶君もあなたを期待しているみたいだし」
・・・・なんですと?私は耳を疑う。
「どういうこと?」
「ああ・・・あの子の事じゃ口に出して言えないか。私、アストレイ社のDDの管理職なんだけど、それであなた達研修員の評価カードあずかっててね。見たい?」
勿論ですとも。
「じゃあいいわ。はい」
「なになに・・・」
私はアストレイ社DD管理担当のリサさんから取り上げたA4程度の紙を取り上げる。
「一人で勝手に突っ走って失敗ばかりする癖は良くない。何処からその自分の強さの自身
は出てくるのやら・・・技能評価C・・・これのどこが期待しているのですか?」
「まあ最後まで見なさいって」
はいはい。リサさんの言われた通りに続きを読む。
「・・・・でも、仕事には熱心で一時間以上ただ歩いているだけなのにだるいとかめんど
くさい等弱音を吐くことはなく常に一生懸命。もう少し落ち着けばいいデーモンデリーターになれる。よほど人を助けることがしたいらしい。やる気A・・・ふーん。あいつ・・・・
めんどくさいとかいいながらなんだかんだでちゃんと私の事見てくれているんだ」
すこし小笠の事見なおしちゃった
「“そ、それが俺の仕事だ。だから礼を言われる筋合いなんかない”とか言うんじゃないかしら?彼口下手だし。だから誤解されやすいのよね。でも根はいい奴なんだけど」
全くその通り・・・・あいつは素直じゃない。どんな育ち方したのかしら?
「いつもこんな風に言ってくれればうれしいんだけど・・・」
「それは無理なんじゃない?やっぱり彼・・・親の愛情ってのも知らないだろうし」
「どういうこと?」
親の愛情を知らない?虐待でも受けてたのかしら?
「彼が元々特殊な悪魔付きってことは知っているわよね?」
「うん」
「彼、その後山の奥に捨てられたのよ」
「・・・・」
「その後5歳の時社長に拾われるまでずっと一人。どうやって暮らしていたのかは分からない。本人いわく・・・」
「生まれた時から喋れた。二足歩行もできた。食い物を取る位何でもなかった。野生の動
物を殺してそれで生きてきた」
「!!!!!」
突然聞こえた声に振り向く二人。そこにいるのは紛れもない口下手野郎。
「何勝手に話してんだ?・・・・まぁ、別にいいけど・・・・」
・・・・怒っているわよね?
「・・・・なんだって?仮想空間模擬戦闘訓練・・・・戦闘結果総合B?どこのデリーターだよ?笑っちまうぜ。こんなもんデリーターならS取れて普通だろ?俺ならSSSはくだらないぜ?」
「どうせBですよ。フンっ」
「成程。どうもひどい戦闘結果だと思ったら腰抜け野郎か」
腰抜け野郎?
「なんですって!?」
「この前モンスターが目の前にいるのにもかかわらず腰抜けて誰に助けてもらったんだ?」
くっ・・・・こいつは。私が何も言えない事をいいことに
「まあ別に俺が勝手に助けたわけだから恩を押しつけるような事をする気なんかさらさら
ねえが・・・まあ、お前の技能の割にはよくやったなこれ。でもまだ甘いな」
「・・・・・」
口を開ける二人。俺なんか変なこと言ったか?
「お、小笠が・・・・ひ、人を褒めた。しかも口で・・・・」
「口下手野郎だから紙に書いて褒めることしかできない奴が・・・・口答で・・・奇跡よ」
「・・・別に俺は褒めてはいないぞ?少し評価してやっただけだ」
「それを褒めたっていうのよ!!」
もうっ!!何なのよこいつ。素直に褒めたって言えばいいのに
「それと小笠?」
「なんだ?」
「あんたの評価見ちゃった」
「!!!!!」
一瞬にして顔を真っ赤にする小笠。やばっ!!超面白い。少し可愛いかも
「希庄亜美!!今から言うことをよく聞け!!貴様は俺の評価の事をすべて忘れされ!!全力でだ。重要だからもう一度言うぞ?俺の評価のことをすべて忘れろ!!」
「無理よ」
「・・・・・」
私の肩を掴みながら地面へと倒れる小笠。そして
「ゼウスよ・・・・われを救い給え」
「ゼウスって誰よ?ふつうオーディンじゃないの其処?」
*この世界にキリスト教なんてありません
「一生の不覚だあああああぁぁぁぁ!!」
「ねぇねぇ・・・そんなに見られるの嫌だった?」
「あたりまえだ!!本人にあんな文章見られたとなると・・・・」
急に私の顔を見て真っ赤になる顔。そして言葉が止まった。もうちょっとからかってみよう。
「小笠・・・」
「なんだよ」
「ありがと。なんだかんだでいつも私の事見ててくれてて」
「hjgんlkjn」
やべっ!!爆発した!!猛ダッシュで小笠はトイレへ駆けだす。こんな小笠初めて
トイレから戻ってきたのは10分後だった。
「もう評価・・・の話は、やめろ。心臓に、悪い。」
「ゴメンごめん。つい面白くて。意地悪しちゃった。小笠ってもしかして誰に対してもそ
う?」
「・・・俺をからかう奴なんかお前しかいないからお前だけだ!!」
「あらそう」
今日の口論は私の勝ちかな?これから素直にならなかったらこの手を使おう。
「で、今日はどうするの?」
「お、俺はいつも通りのパトロールがあるから」
「じゃあついてく」
「・・・・」
「いいでしょ?」
「ダメなんて俺は一言も言ってないが?」
でました・・・・極端すぎるほどの素直じゃない。もしかして男ツンデレ?
ベ、別にお前の事が好きで面倒見てるんじゃないからな!!みたいな?
「今変なこと想像してなかっただろうな?」
「全然。あんたがツンデレなんてみじんも思ってないよ?」
「明らか何か思ってんじゃねえか。で・・・・ツンデレってどういう意味だ?」
そこから!?ちょっと待って。今あなた切れていい場所だよ。怒るところだよ。
予想外すぎた!!
「ごめん・・・なんでもないです。はい」
「ったく・・・本当に変わった奴だ」
「だから何度もあんたに言われてくないって言ってんでしょ!!少しは自覚しなさい」
いまだに消える事のない光。METを利用した科学文明。METの恩恵は世界中すべての人々が分け隔てなくもらっている。だが、その半面METが突然牙をむき出すこともある。
――――悪魔化
スマホもどきを慎耶は弄っていた。普通の街中で。それを見ていれば時代に乗り始めた若者で済む。だが、突然街の中で「やべえ」と大声を上げたとたん、私の手を引っ張って走り出したのだ。
「いたぞ。ついてきているか?」
「は、はやいって・・・わたしいくらMETで強化されてても女の子だよ」
「ったく」
「わっ!!」
いきなり感じた浮遊感。以前感じた感覚に近い。お姫様抱っこ。抱っこされるのと同時に地面が小さくなっていく。
「しっかりつかまってろ」
「う、うん」
風を切る音。翼の生えた男性に抱かれる・・・どんなシチュエーションですか・・・
表の綺麗な街並みがあるなら裏の街並みもある。
切れかかった街灯に、ゴミだらけの衛生環境が最悪な裏の街。世間ではスラム街と呼ぶ。
そんな中に一人変な男がいる。服装は研究員が来そうな白衣。身近な人だと生物や化学の先生みたいな服装。
「へっへっへ・・・ついに手に入れたぜ。これさえあれば・・・あの忌々しい会社に復讐できる!!俺をリストラさせやがったあの会社に」
男は水を飲むと身体をグネグネ動かし始める。いや、その表現は間違いだろう。グネグネ動きだしたが正解だ。
「ぐぎゃぎごげがぐぐうううううぐやあああああああ!!」
変な声と同時に皮膚を突き破る翼と尻尾。巨大化する右手。頭から生える角。本当の悪魔みたいだ。
「ちっ・・・・遅かったか」
小笠慎耶は右手に持っている悪魔感知レーダーを見て舌打ちする。
「悪魔化・・・・」
「どいてろ・・・・亜美」
「えっ?」
「・・・・退いてろって言ったんだ!!」
その刹那――――
甲高い音が鳴り響く。
重たい瞼を上げて見るとそこには覚醒中の小笠。
「小笠!!」
「話しかけるな!!それと戦闘の邪魔だからお前は物陰で見てろ!!」
「う、うん」
あんな言い方ないじゃん!!そんな事を思いながらぶつぶつ言って希庄亜美は物陰に隠れる。
でも・・・あの物言い。いつものあいつじゃない。よほど強いのかな?
「ぐへへへへ!!貴様デーモンデリーターだな?強化されて悪魔になった俺様を倒せるのか?」
「半魔か・・・お前はまだ意志がある。これ以上はやめるんだ。お前の意思すらなくなってしまう!!」
「知るかよ。俺は復讐するんだ。あの忌々しい会社に!!俺をリストラしたあのくそ会社に!!」
「あんたの実績が悪かったんじゃないの?」
「バカ!!隠れてろって言っただろ!!」
やべっ・・・口に出ちゃった・・・
「亜美!!」
「小娘があぁぁぁ!!」
やばい・・・私殺される・・・そう考えて5秒。
・・・・何も起こりません
「んん・・・・」
重い瞼を開けて確認する。そこには私を襲ってきた半魔からの攻撃を防いで立ちはだかる小笠の姿。
「・・・お前が会社に復讐しようとしなかろうと勝手だけどな・・・俺のパートナーまでに手を出すな糞野郎!!」
「ぶべらああああああ」
悪魔化していない素手で半魔状態の男性元会社員Aさん(プライバシーのため仮名です)を殴る。ついでだからモザイクもかけておこう。
「取りあえずお縄につけ!!」
*しばらくお待ちください。なお、ここからは音声のみでお楽しみください。
「ぶ、ぶったな。ママにもぶたれてことないのに!!」(プライバシーのため音声を変えております)
「そんなこと知るか!!取りあえずお縄になれ!!」
「ヒッ助けて!!そこダメ!!危ない」(プライバシーのため音声を変更しております)
「気持ち悪い声出すな!!」
“ギシギシギシ”
「ぎゃああああああ」(プライバシーのため音声を変更しております)
「騒ぐな!!縄がほどける!!」
「ヒッダメええええ!!」(プライバシーのため音声を変更しております)
*お待たせいたしました。
「はぁ、はぁ、疲れた。お前を国家悪魔処理班に引き渡す!!」
「はい・・・すいません」
「何について誤っているのやら・・・」
隣では呆れた亜美がため息をついている。
「ったく、ここ最近多いんだよな」
「なにが?」
「お前研修員のくせに知らんのか?」
「研修員だから知らないんでしょ」
「まあどちらでもいいが・・・・ここ最近変異種の悪魔が増えているんだ。結果的に悪魔
化している人が増殖しているんだが、その原因があまり分かっていないんだ」
「で?」
「こいつだよ。この意図的に悪魔になろうとしました感たっぷりなこの糞野郎からどうや
って悪魔化しようとしたのか聞きだすのさ」
「成程。だから国家悪魔処理班に引き渡すのね」
「ああ。まあとりあえずその前にアストレイ社に連行するが・・・・こちらアストレイ社
DD特別顧客加盟の小笠だ」
「こちらリサです。どうしました?」
「意思のある状態の半魔を発見した。そちらへ連行するから車を回してくれ。座標はそち
らへ送るから」
「OK」
で、結局この研究員らしい人は何をしたかったわけ?
「俺はな元高須ホールディングカンパニーのMET研究についていたんだ」
MET研究員となると会社側としてはまずクビにしない。それはMET研究が今の時代会社が業績を上げるのに必要な分野だからだ。
普通研究員が首になるって相当だよね。よほど実績が悪かったのかな?
亜美がそう疑問に思うのも何ら不思議ではない。
「俺はMETがどれだけ生物や人体に与える影響が大きいか研究して大量のMETを供給す
る高須ホールディングカンパニーに訴えていたんだ。だから生で供給するのではなく加工
したMETを供給しろと。今の技術ならそう難しくない。俺の資料をもとにすれば2,3年
で作れるはずだ。まあそのデメリットとして加工前のMETに比べるとエネルギーが半分以
下になるがそれも仕方ない。だが、あいつらは何の対応もしないんだ。どうせ、加工費や
供給METの量が増えるから費用がかかる等だろうけど。だから俺の手で潰してやろうと思
ったんだ」
成程。それなりの考えを持っていたのね。悪い人ではなさそう。
「でもこいつを攻撃するのは違うだろ?」
「だって実績がないとか・・・俺は実績ありまくりだ」
「そこに切れたんかい。だったら口で返せよ。大人げないな。もし本当に手を出していた
ら今頃お前を俺は殺しているぞ?」
「すいません」
「まぁまぁ、小笠も・・・それとMETの身体に対する影響って悪魔化やモンスター化以外
なんですか?」
っていうかそれ以外METの身体に対する影響って何?
「遺伝子細胞の変化・・・生まれてくる赤ちゃんに対する影響。悪魔付きなどいい例だ。
その他には奇形児・・・いわゆる身体障害者。その他に精神障害者や知的障害者等。人々
に様々な害を与えている。だが、それを俺が公表しようとしたらその資料全部燃やして、そして俺の家や財産も没収して・・・俺を首にしやがった!!俺に残ったのは研究服とこの体。そして財布に入っていた5万だけだ!!だから俺は復讐を!!」
ていうか・・・途中から、変性MET改善のためというか、仕打ちに対してだよね・・・
・・・そうだったの。ついでに私は彼の話を始めて聞いた。
METによる影響で障害者や悪魔付きが生まれるなんて。
世間では親の体内にいる時のストレスや食事が原因って聞いたけど・・・
「・・・そうかい。でも、殺人を事前に防げて良かった。その事については国家悪魔処理班には黙っておいてやる」
なんだ・・・案外ちゃんと話せば小笠も理解のある奴じゃん。
ふとそんな姿の小笠を見ていると後ろからクラクションを鳴らす車が近づいてくる。
「お待たせ。で、連行する人って誰?」
車の窓から顔を出すのはリサさん。
「こいつだ。何かいいてえことがあるみたいだから、国家悪魔処理班に引き渡す前に俺達のところに連れて行こうと思って。まだ意思があるし・・・」
「成程ね。ちょうどいいわ。あなた達も付いてきなさい」
そう呼ばれて私たちは車に乗る。まだこれが国を揺るがす大事件の始まりだと知らずに・・・