#4 見回り-後編-
「くらえ!!」
私と謎のモンスターとの距離は数十メートル先。
“パシュン”
腰にしまってある携帯MET投射機を発射する。
「うがああああああ!!」
投射されたMETは重力の影響を受けず、まっすぐに飛び近づいてくる猪モンスターへと直撃する。
“シュン”
「嘘!?」
だが、小笠の言うとおり全く効かなかった。モンスターの体表に当たったMETはすぐに消滅し、モンスターを倒すどころか余計怒らせてしまった。
「うがああああ!!!!!!」
どうしよう・・・恐怖で全く身体が動かない。
モンスターとの距離は縮まっていく一方。
私・・・・ホントに何もできない。小笠の言うとおり。
「お前なんかができるか」
走馬灯のようにその声が聞こえる。死ぬ間際ってどうしてこんなにも長いのだろう。
と考えて5秒。
「いつまで寝ぼけてるつもりだ?」
「え?」
「え?じゃねえよ」
目の前にいたのは覚醒中の小笠だった。そして右手にはあのイノシシモンスターの犬歯が握られている。
「消滅せよ」
「ぐぎゃあああああ!!」
犬歯を握った右手からたちまち炎が出てきてイノシシのモンスターを燃やす。
どんな手品を使ったのか?あとで教えてもらいたい。
「立てるか?」
「ご、ごめん。こ、腰が抜けて・・・立てない」
「緊張感ぐらい持てよ。ほらっ」
「うわ!!」
ちょっと浮遊感に襲われる。恥ずかしいことながら小笠にお姫様だっこされたのだ。
「ちょ、ちょっと・・・恥ずかしいって」
「じゃあ下ろすか?」
「私動けないの知ってるのに。いじわる」
「だったら恥ずかしいとか言うな。その・・・そんなこと言われると俺もあれだから・・・」
「あれって何?」
こいつに限って恥ずかしいとか言うことはないよね。だったら何だろう?
「やっぱ何でもない」
取りあえず顔を確認・・・しようと思ったらそっぽ向けられた。でも横顔から解る事。
「照れてる」
「照れてなんかいない!!」
「嘘だ。顔が赤いよ」
「か、覚醒後は、そ、その、か、顔が赤くなる、んだ。うん」
「ふーん」
こいつ・・・ものすごくシャイ?
そう考えるとからかいたくなってくる。照れ屋なのね。
「な、なんだよ」
「別に。そういうことにしておいてあげる」
「ったく・・・ほら、着いたぞ。ここで少し休め」
着いたところはバイクの置いてあるところ。近くのベンチで私は休んでいる。
そして隣に座っている小笠は紙に何か書いている。
「なに書いてるの?」
「評価」
「変なこと書いてないでしょうね?」
「俺は本当の事しか書かない」
「貸しなさい!!」
「と、取るな!!」
小笠は私から評価カードを取られまいと必死になる。そして・・・
「ちぇっ・・・」
「なんでお前が怒ってんだよ」
「見せてくれないから」
「見せるか!!」
結局取ることはできなかった。ちょっとぐらい・・・見せてくれても・・・
「じゃあ・・・あのさ・・・私に何か褒め言葉とかない?」
「あるわけないだろう。命の危険までさらして、挙句の果てに腰抜けて動けない。情けないったら・・・・」
私いまものすごく心に傷ができてる。でも言われたことすべて事実だから反論できない。
「もし、お前が命を落としていたらどうするんだ?デーモンデリーター憧れてるんだろ?人助けしたくてなりたいんだろ?だったらまず自分の命大事にしろ。自分の命すら大事にできないらならデーモンデリーターあきらめるんだな」
「うん。ごめん。色々と迷惑かけちゃって・・・ごめん」
「誰に謝ってるんだ?」
「え、だって迷惑」
「俺の仕事だからそんなことどうでもいい。人の迷惑心配するだったらさっきも言ったろ?命大事にしろって。お前が死んだ方がよっぽど俺に迷惑かけるってことに気づけ」
「う、うん。その、助けてくれてありがと」
「何度も聞いた。もういい。しばらくここにいろ。俺一人で仕事するから」
「うん」
そう言うと小笠は覚醒して一人で歩きだしてしまった。
「検索範囲・・・・半径10km」
・・・体内のMETを半径3km圏内に放出。拡散。
MET――――現代の技術ですら電子顕微鏡でやっと見られるサイズの微粒子。その微粒子一つ一つが高エネルギー体でかつてMETを扱える人たちの事を魔術師や魔導士と呼んだ。
魔術師・魔導士、呼び名はどうあれ、彼らはその微粒子であるMETを自在に操り思った事、念じた事を具現化させていた。
なぜなら、そうでもしなければ今のように何もせずともボタン一つで明かりがついたり、乗り物が動いたり、ボタン一つで火を起こせる、ご飯が炊けるなんて不自由のない暮らしができなかったからである。
だが、魔導機関による魔導革命と、大和皇国(現日本)に来訪した異世界からの住人達の技術提供・・・蒸気機関による産業革命。さらに、ポートランド皇国(現ドイツ連邦)に対しての大和皇国からの技術提供により魔導・産業革命は瞬く間に広がり、人々は魔法を使わなくなった。
事実、かつては魔法を使いすぎて死んでしまったという事例も何件かある。
だが、950年ほど前の1年間にわたるシャンバラ規模の大災害・・・地殻変動が起きた時は治癒魔法すら使えずたくさんの人々が飢えと怪我に苦しまされた。他国に比べると被害の少なかった(とはいえ、首都壊滅等大規模な被害を受けた)大和皇国は第一次オーレリシア大戦以来実に半世紀ぶりに他国と戦災復興支援という名で接触した。
これがシャンバラ規模で魔法を使わなくなった直接的な理由だ。魔法を使わなくても何でもできる大和皇国の製品。そう、大和皇国は世界に比べると圧倒的な進化を遂げていた。
やはり異世界からの住人の技術提供が大きいだろう。
そして魔法はシャンバラから使われなくなり使われるようになったのはMETを使う魔導機関を応用した製品。または大和皇国のような資源を使う製品。まあ、どちらにせよMETを使うことに変わりはないが・・・
そして今俺が行っている事。昔で言う魔法のようなことだ。今の人に言えば「魔法?ばっかじゃねえ?そんなもの滅んだんだよ」等と言いそうだが、これは明らか魔法である。
体内に蓄積されたMETを放出。そして拡散させ、目的の対象を探し出す。
頭の中をそれだけに集中させる。余計な思念はいらない。
―――――その刹那
「見つけた」
その言葉と同時に地面を一蹴り。背中に生えた翼で大空を飛び立つ。
辺り一面広大な森林。所々場違いに設置されたMET発光所と供給所。そして小笠が発見したモンスターは富士山の半径5km八方向に設置されたMET発光所の近く。
「成程な・・・」
破損されたMET発光所からは大量のMETが噴き出している。普通METは目に見えない。だが大量に集まったMETは緑色に光る。目に見えるほどのMETが漏れているというのは異常な事態だ。
「これが元凶か」
辺り一面の生き物たちは自分の意志とは無関係にモンスター化していく。いや、モンスターにされると言う方が正しい。
「・・・ごめんな。人間のエゴだ。人間がこんな森林開拓してMETベルトを発見しなければ・・・・これはせめてもの罪償いだ」
小笠に気付いたモンスターたちは一気に声の聞こえた方向へ走る。
その姿・・・理性があるとは思えない。悪魔化した人間同様食べるという生理的欲求を満たすために動いている。もう心などない。
「安らかに眠れ!!」
両手に丸い空間を作るイメージを描き、それを放つ。
―――――その刹那
「ぐぎゃああああああ!!」
次々に禍々しい悲鳴を上げるモンスターたち。小笠が作り上げた高濃縮MET体は小笠の念じた思いに応え瞬く間にモンスターをこの世から消去した。
その姿・・・・デーモンでなくともデリーターであることに違いはない。
「・・・こちら小笠慎耶だ」
「おお、慎耶か。なんのようだ?」
俺の電話相手。それはアストレイ社日本支部長小笠翔真。まだ、30歳の若い社長だ。ヨーロッパ人・・・別名オーレリシア人とのハーフだが名前は全部日本名。アストレイ社のアストレイはオーレリシア人である父親の家系から取られたそうだ。
元の社名をギルド公社と呼ぶ。
「富士樹海周辺のMET発光所や供給所ッてどこが管理しているか解るか?」
「ああ。高須ホールディングカンパニーか。それがどうした?」
「あいつらに言っておいてくれ。富士山北東MET発光所からMETの大量漏洩が始まっている。すぐさま発光所のMETを止めろと。それかすぐさま修正しろと。じゃあな」
そう言うと慎耶は通話を切る。
「わかった。ったく・・・立派になっちまったな・・・」
「ようって・・・・寝てやがる」
「すぅ~すぅ~」
お前がする筈だった仕事俺に全部押しつけて・・・自分はのんきにお休みか・・・・
「ったく・・・ん?」
急いでいたから気がつかなかったが、こいつ・・・
「かなり怪我してんじゃねえか・・・・」
そう言うと慎耶は体中傷だらけの亜美に手をやる。
「やる気だけは人一倍だからな。苦手だが・・・今日だけだぞ」
治癒魔法。昔の人は医療技術が進歩していなかったからよく行われていたらしい。とは言え当時一般人が使えたのは止血や鎮痛程度で今俺がしているような完全に傷を治すようなことはしていなかったらしい。
「んん・・・・」
「・・・はぁ・・・・・はぁ・・・」
治癒魔法には慣れていないからな・・・少し疲れる。
「寝ちゃったのかしら・・・・」
希庄亜美は重い瞼を開ける。目に映る景色は・・・
「ってちょっと!!何やってんのよ」
起きてびっくり。目の前に私に触れようとしている手。そして聞こえるはぁはぁという声。
「少し黙ってろ・・・すぐ終わる」
「す、すぐって・・・な、何が・・・っていうか、なに脱がしてんだ!!」
「ぐはぁ!!」
顎めがけてダイレクトシュート!!このど変態!!私が寝ているのをいい機に。
何が興味ないだ。私に興味ありまくりじゃん。
「いてててて」
「この変態!!わ、私に変なことしようとするのがいけないのよ」
そう言うと亜美は第二ボタンまで外れていた高校の制服のシャツで胸元を隠す。
「わ、悪かったな。もう二度としない」
「誰にも普通はしないものよ」
「ごめん」
まったく・・・未然に防げたものの、やっぱ男ってこんなものね。
「あれ?」
「どうした?」
「足や手・・・胸の傷が治ってる・・・」
「そうか・・・それは良かったな。じゃあ帰るぞ」
「・・・・・・」
何もなかったかのようにバイクに乗って後ろに乗れと合図を出す小笠。
私の傷を瞬時に直してくれる事が出来るやつなんて誰も知らない。
でも、もしそれだけの事が出来るやつがいるとしたら、私は一人しか知らない。
「さて、帰るか」
一言も言い訳を言わない態度がむしろ憎らしい。素直に「お前の傷を治していたんだ」とか言えば、何も変な疑いなんてかけられないのに・・・
「あのさ・・・小笠」
「なんだ」
後ろでバイクから落ちないよう小笠にしっかりとつかまる。夜にバイパスを飛ばすのも悪くない。
「さっきはその・・・・ゴメン」
「謝るのは俺の方だ。悪いことしたな」
「なんであんたが謝るの?勘違いしたのは私だよ。私が怪我しているの知ってて、治してくれたのあんたでしょ?」
「・・・・知らない」
「あんた以外こんな人間離れしたのいないって」
「当り前だ」
「やっぱ治してくれたのあんたじゃん」
「・・・・・」
やっぱね。いくら嘘ついてもあんた嘘つくの下手だから解りやすいのよ
「蹴ったりなんかしてごめんね。痛かったよね?」
「もういい。何度も聞いた。謝られてばかりいるとこちらも気まずい」
「そっか・・・・じゃあさ、ありがと。私の傷治してくれて」
「・・・・研修員の方に傷でもついたら俺の評価下がるからな。だから証拠隠滅でしたことだ。感謝なんかいらない」
「・・・・ったく。いつもこれ。こうやって褒められた時ぐらい素直に喜びなさいよ」
すこし小さく震える声で慎耶は言った。でも亜美には聞こえないほどの声で。
「何か言った?」
「・・・・ど、どういたしまして」
「・・・・・素直に言えるじゃん」
バイパスをニケツバイクで走り去る二人の光景は微笑ましかった。
そして時間がオーバーしていて二人が怒られたのは別のお話・・・・




