#3 見回り-前編-
「さあついてきなさい」
「何で俺がこんな仕事を・・・」
「文句は言わない」
デーモンデリーター資格所得者歴代最年少記録を持つ俺こと小笠慎耶はめんどくさい仕事を頼まれた。俺はデーモンデリーターだが国からのスカウトも企業からのスカウトもすべて蹴っている。
・・・・つまり自営業みたいなものだ。
何処からもスカウトされていないからお金など全く入ってこないのだが、アストレイ社だけは別だ。俺もあの会社だけの頼みは断れない。そしてその仕事は
「こいつ突っ走ってばっかいるから、見てあげてくれない?」
「強制ですか?」
「勿論。君も解るだろう?飛び級で研修員期間がなかった君といえども・・・研修員は一人で仕事に出させると危険だからつき添いの熟練DDがつく。その付添ぐらい何度もやったことあるだろう?」
「俺が断れないのをいいことに・・・俺の両手が収まる程度付き添いをしてきましたよ」
そう。俺がアストレイ社に借りがある。だから俺はこの会社の頼みを断ることは不可能なのだ。そしてそのせいで今こいつのパートナーをやらされている。
「なにぼさっとしてんのよ」
「ああ。悪い」
と言ってもまだこいつは研修中。そして俺がこいつのサポート兼評価をして教官様に提出しろだとよ。まったく名前も知らんやつをいきなりパートナーにしたアストレイ社を恨む。
「本当にあんた私の名前知らなかったの?」
「ああ」
「席が後ろだったんだよ?」
「それでも希庄亜美という名前は初めて知った」
「あんたねぇ・・・」
「別に興味なかったんだからしょうがないだろ?」
興味がない・・・ふーん。自信過剰じゃないけどこれでも私可愛い部類だと思ってたのに。ちょっと傷つく。
「じゃ、じゃあどんなのなら興味あるのよ」
ならどんな人なら好みなんだろう。べ、別に私があいつの興味なんて知っても意味ないんだけど・・・
「興味・・・・何のことだ?お前は俺が何に興味があるって言いたいんだ?」
私の言葉の意味を理解していない!!
本当に男なの?異性に対する興味ゼロ!?
「・・・・いい。なんでもない。なんでもないわ」
「ったく・・・ホントに良くわかんねぇ奴だな」
「それはあんたの事よ!!」
傍から見たら到底することはないと思われる会話を二時間ぐらい街中で続けて結局何も見つからないまま時間だけが過ぎ去った。そしてこんな日がずっと続き・・・
「よし。今日でお前らも研修員として3か月がたった。デーモンデリーターの仕事も少しぐらいわかったと思うが・・・・」
「全然わかりません!!」
全ての研修員達が口を合わせて言う。勿論みんな思っていることは一緒だろう。
「悪魔化した人々と戦うことが全くありません!!」
「私なんて悪魔化した人々全部こいつがやっつけちゃうんですよ!?」
「んん?俺の事か?」
「あんた以外誰よ!!」
「しっかしだなぁ・・・デーモンデリーターのたいていの仕事はこんなものだ。そんなに
頻繁に民間人が悪魔化されては困る。それともお前達は人々が悪魔化して自分達のイライラ解消に使いたいのか?」
呆れた教官は頭をかきながらごもっともな意見を言う。だが、この話何度も私は聞いた。
「違います!!私は人々を助けたって実感をわきたくて・・・」
私の話は教官のだるそうな返答で止められた。
「わかったわかった。なんなら他の仕事して来い」
「他の仕事?」
別の研修員が首をかしげる。正直私も思っていたことだ。
「ああ。デーモンデリーターは別に悪魔を倒すだけではない。モンスター化した生物を倒すのもまた仕事の一つだ。METベルトに近い集落は良くモンスター化した生物がいて困っているそうだ。そのお手伝いに行って来い。保険という訳でおもり役のDDは評価とかも忘れずに」
「だるっ・・・」
「あんたは少し黙ってなさい」
亜美は後ろで欠伸をかいてやる気ゼロの少年に肘鉄砲をくらわす。
だが、案外腹筋が固くて何も効いていなかった。
「なんだ?」
「・・・少しはやる気を出してください」
「俺はいつも真面目だぞ」
「嘘つけ」
「そこ黙ってろ」
「わりぃ」「すいません」
なんで私まで怒られるのよ!!
「では、9時までには戻ってくるように。あと、場所は富士樹海周辺だ。よろしく!!」
どう考えても俺から見たら上がめんどくさい仕事を俺だけでなくこいつらにも押しつけたとしか思えない。だが、そんな仕事でも研修員達は喜んでいた。
「あの~小笠?何してんの?」
「後ろに乗れ」
「え?」
「聞こえなかったのか?富士樹海まで行くんだろ?だったら俺のバイクに乗れ。その方が安上がりだろ?」
「う、うん。わかった」
慎耶に言われるがままに、亜美はバイクの後ろに乗る。
「バイクの免許持ってたんだ・・・」
「覚醒中なら空も飛べるが、明らかニュースになるだろ?だからバイクで移動した方が面倒なことが起きなくていい」
覚醒中・・・本人いわく悪魔化しているときらしい。
生まれた時から悪魔の事を悪魔付と呼ぶ。そしてたいていの赤ちゃんはその場で殺されるのだが、彼は悪魔付なのに顔が普通の赤ちゃんで背中に翼が生えていたりと不気味すぎてゴミ捨て場に捨てられていたらしい。
そこをアストレイ社の社長に拾われて・・・それ以来アストレイ社には頭が上がらないらしい。逆らえないと解っているからか解らないがアストレイ社の社長もスカウトしない。
「あ、そう。でも、ありがとう」
「別に。二人で行った方が手間かからないだろう?」
うん。取りあえず三カ月こいつといて解ったこと。
性格が尋常じゃないほど素直じゃない。褒めるとすぐ「俺はそんな奴じゃない」とかお礼を言うと何か理由をつけて「そういうつもりじゃない」とか・・・ネガティブ発言ばっかりする。それでも悪い奴じゃない。後はひねくれてるとかかな?
「ここか・・・」
あらゆるものを寄せ付けない特殊なオーラを放つ富士樹海。
寄せ付ける者は負のオーラを放つ自殺志願者。
だが、そんな負のオーラを放つ者を寄せ付ける富士樹海の近くにも集落と呼ばれるものがある。
「お、お待ちしておりました」
「ん?あんたは・・・」
「はいはーい。私達デーモンデリーターの者です」
「そうかそうか。いつもアストレイ社の小笠さんにはお世話になっていまして。いつも本当にありがとうございます。では今日も見周りの方よろしくお願いします」
そう言うと集落代表さんとおもわれるおじいさんが見回りしてほしいところに線がついている、ここ周辺の地図を渡してきた。
「じゃあ行ってきます!!」
「お元気で~」
元気に手を振ってくれるおじいさん。デーモンデリーターは一般大衆から殺人犯。人殺し。犯罪者予備軍などと罵られているが、感謝する人もいるのね。
「また一週間に一回の見回りか・・・本当にめんどくさいからお前らにも仕事回してきたな」
「どういうこと?」
「ああいう集落ではデーモンデリーターを個人的に雇うか企業を雇うかどっちかなんだよ。国が如何こうしてくれるわけじゃないし・・・富士樹海周辺は日本でも有数のMET発光地で富士山の近くに発光所があるんだ。」
発光所・・・METベルト地帯から湧き出るMETを電気エネルギーに変える発電施設のことだ。
富士山周辺は世界有数のMETベルト地帯であり、関東地区の電気代は格安である。
「そこでMETを供給しているんだけど、有数地だけにモンスター化する生物も少なくない。そこで富士樹海周辺の集落はアストレイ社を雇っているんだ。そこで一週間に一度担当のデーモンデリーターが見回りに来るんだ」
「へぇ・・・で、さっきの小笠さんってあんたの事だよね?よほど感謝しているよ、あのおじいさん」
「これ以上の追及は断固拒否する」
「・・・照れてるんだ」
「・・・照れてなんかない。それにアストレイ社のくそじじいからの頼みごとだったから仕方なくやったことだ。感謝される筋合いなんかない」
・・・またこれだよ。もう少し素直になりなさい。とでもいいたい。
「・・・しっかし・・・」
あれから一時間がたった。だがいまだにモンスターには出食わしていない。
「なんでモンスター出てこないのよ。出てきたら駆除してやるのに!!」
「お前なんかができるか」
「なんでそんなこと言いきれるの?」
「お前が見習いだからだ」
「五月蠅いわね。これでも戦闘実技はAよ」
自分の成績を自身満々に自慢し胸を張る。張る胸はそんなにない。
「Aなのは自分の胸だけだろう。まったく張る胸もないのにどうして自身満々に・・・そしてどうやったらそんな自身が出てくるのだろう?」
「失礼な!!これで・・・・」
胸の大きさがAとか言ったこともないのに胸の大きさを指摘された亜美は今一度自分の胸を見る。
はい。すいません。彼は間違ったことを言っていません。
「やっぱAです。はい」
「なにがAなんだ?デリーターランクならお前は見習いだからCだろ?」
デリーターランク。意味はデーモンデリーターのランク付けである。
ちなみに私は見習いだから一番下のC。小笠はかなりレベルの高いデリーターとは聞いていたけどどれくらいかは知らない。
「はい?・・・・それもしかして受け狙い?」
「受け狙い?何の受けを狙うんだ?」
もう彼の言いたいことは私には理解できません。ギブアップです。
「もういいです。はい。何でもないです」
「ホントに希庄亜美という人物は変だな」
「あんたにだけは言われたくない!!」
私・・・なんでこんな意味の解らない会話しているんだろう?
ちょっとだけ生まれたことに後悔する。
でもデーモンデリーターになったことはあまり後悔していない。せめて後悔してるのはこいつと出会ったことぐらい。
「なんだ?俺の顔に変なのついているのか?」
「別に・・・」
「ん?意味のわからない女だな」
「あんたにだけは絶対言われたくない」
「それと富士樹海はよく雨ですべるから気をつけろよ」
「うん」
珍しい。私を心配してくれたのかな?こいつに限ってどうか解らないけどそうだったら嬉しいな。
「うわっ!!」
マジですか・・・言ってるそばから滑ってる私って・・・
そしてゴロゴロと下へと転がっていく。
「大丈夫か?」
「いたたたた。うん。何とか平気」
普通の人だったら多分相当やばかった高さだと思う。さすがMETによって強化されているだけある。
「こっちまでこれそうか?これなかったら俺が行くけど」
「大丈夫っつ。いたたたた」
何も大丈夫じゃありませんでした。はい。思いっきり腰打ってます。
「大丈夫じゃねえだろ。ったく。そっちまで行くから待ってろ」
そう言ってなんだかんだで心配をしてくれる小笠だったが、私は今、目の前の現実に目を背けたかった。
「な、なんなのよいったい・・・」
「うがあああああ!!」
イノシシのようだが明らか3メートルはあろうかとい巨体に象牙のような犬歯。
明らか既にイノシシではない。モンスターだ。
「こ、これがモンスター・・・」
「ぐぎゃあああああああ!!」
その時、私は戦慄を覚えた。