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娼館


娼館はこの国にとって一つの産業であった。


もともと山間の小さな国で特に産業とするものも無い場所であった。国王一族は女系の血が濃く男児はめったに産まれないという難点があった。男児が産まれればたちまち周りの女たちは新しい国王となるであろうその男児に取り入り政権と財産を手に入れようと躍起になった。中には世界中から美しい娘を集めて国王の気を引こうというものまで現れることになる。

それがこの国が栄える発端だった。


今でも世界中からこの国の娼館へ娘たちが集まる。中には、いやたぶんほとんどの女が貧しさのあまり口減らしにあったか、攫われたかでこの地までやってきているのだ。

きっとユラも攫われたのだろう。この辺りでは見かけない黒髪と黒い目。

故郷に帰りたいと思うのは当然の事か。


だが、何故女中―レーチェと共に、という事にこだわるのか。彼女に懐いているから?何故だかそれだけでは無い様な気がする。


「あら、仕立屋さん。」


考えながら娼館街を歩いていると小さな娼館に勤めるメードが声を掛けてきた。

「こんにちは。ルーシー。」

エプロンに包まれた中年太りのお尻を振りながら仕立屋に話しかける。


「最近、蝶々さんとこにばっかりで、うちには来てくれないって皆、言ってたわよ。」

「あぁ、まとめて注文受けちゃってね。そろそろめどが立ちそうなんで、営業に来たよ。」

軽くウインクをしてみると年甲斐も無く頬を染めて体をくねらせる。


蝶々亭ほど豪奢ではないが、小さな店にしては品のいい室内に女たちが座っている。この国の産業だと言われるだけあって皆整った顔をしている。


「あれ。マージじゃないか…。」


控え室で座って出番を待つ娼婦の仲に数ヶ月前までメードをしていた少女を見つける。少しそばかすの残る頬をした少女が緊張した顔でお客が付くのを待っている。

「メードとして貰われたんだけどね、主人に見込まれて先週デビューしたんだよ…。マージも嫌がってたんだけど、お給料がいいからね…。」

後ろを付いてきていたルーシーがため息混じりに教えてくれる。


仕事の受注は久しぶりだった。自宅にいればお腹は満たされるし、仕事も案外と進んで楽しくなって来て、今まで溜め込んでいたものを流れるようなスピードで作るのが一種の快感になり、受注するのを自然にしなくなっていた。それに自宅はとても居心地がいい。



あの娘がいるからか。



腕の中にいる娼婦が昨日見た女中の顔に見える。本当は似ても似つかない、彼女はもっと繊細で、滑らかで高貴な体をしていた。ただ娼婦の髪は薄い金髪で少しだけ彼女の髪に似ているのかもしれない。


「今日は、えらく熱心な『採寸』ね。」

仕立屋の肩に手を回し微笑んで囁く娼婦。

「久しぶりなんでね…」

「そぅ?女に振られたのかと思ったけど。」

娼婦の言葉にぐぅっと詰まる。

「心ここにあらずって感じだし。そんなに似てるの?その彼女とあたし。」

「女の勘ってのは恐ろしいね。」

上の空だったお詫びに金色の髪に口付ける。と「そこが似てるのね」と言われた。


勘のいいこの娼婦は年齢不詳だが長くこの辺りで働くベテランだ。女心と男心を良く分かってると娼婦仲間からも頼られるいい「お姉さん」である。

「美人だけど、賄いをやってる娘ね…」

流れで人生相談を受けてもらうことになった仕立屋は女中のことについて簡単に説明した。


「本人の問題もあると思うけど?この世の女が皆あたし達みたいなわけじゃないんだし。」

金に執着はなさそうだし、体を売るのに嫌悪感はあるのかもしれないがあの外見をまさか蝶々さんが見過ごすはずは無い。娼婦は無理でも女優やモデルにするなどいろいろ方法はあるだろうに。

なぜか彼女は賄いだった。「あそこから出ることも許されない」と言っていた。

「賄でなければいけない理由があるとか…。」

指をあごに当てて考え込む仕立屋に呆れて服を着始める娼婦。

「誰かに、見られたら困るって事じゃない?」

ひらめいたように目を見開く仕立屋に、娼婦はうんといいドレス作ってよね。とすねて見せた。


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