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マーベリックの短編集

小さな約束、大きな仕事

駒込にはM1911A1(コルト)を持った何でも屋がいる。


彼は金さえ払えば町内会のゴミ掃除から社会のゴミ掃除まで何でもする。


その何でも屋を人はこう呼ぶ。幽霊ゴーストと。






深夜の駒込は恐怖すら覚える静けさに包まれていた。異様な静けさが支配した路地裏を一人の少女が駆け抜ける。


そして、その後ろを筋骨隆々としたスーツに、サングラスを身につけた見るからに怪しい男が追う。


絵に描いたような追跡劇が平和なこの東京の街で行われているのである。


「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」


乱れる呼吸。揺れ乱れる漆黒の長髪。針に穿たれるような横腹の痛みを歯を噛みしめ彼女はこらえる。


彼女の体力も限界に近い。その一方、男は鉄面皮のまま走り続ける。ウサギを追いかける猟犬のように。


一ブロック先の路地を少女は右に曲がった。だが、彼女は気づいてしまった。


「行き止まり?」


赤レンガのビルが道を塞いでいる。もうこれ以上逃げることなど出来ない。


息を整え、彼女は迫りくる追っ手と現実に直面した。男は逃げ道を塞ぐようにじりじりとその距離を縮めていく。


「手間を取らすな」


うめくような声で男が少女に言った。


「何故私を?」


彼女は持てる限りの勇気を総動員して男に問うた。


「答える義務は無い。お前はここで死ぬからな」


そう言った直後、男は懐から何かを抜き出す。黒光りした鋼。消音器サイレンサーを付けたオートマチックのハンドガン、ベレッタM92Fだ。


冷たい銃口が彼女の小さな体に向けられた。万事休す。としか言えない状況だ。しかし、彼女は最期の一瞬まで目を離さずにいた。


一つの命が終わろうとしている現場。そこにーーー


「何してんの?」


声の持ち主は年端いかない少年だった。スポーツを嗜んでいるような体躯を持ち、その肉体を学校の制服とエプロンで覆っている。しかし、それより特徴的なのはその眼差しだった。優しそうだが何処か鋭い目つきをしている。


「死にたくないなら失せな、坊主」


と男が少年に威嚇の銃口を向ける。だが少年は顔色一つ変えずに答える。


「嫌だ」


「逃げてください!!あなたは関係ないのですから!!」


自分のために犠牲者を出したくない。その一心で少女は言う。


「坊主・・・これをおもちゃか何かだと思っているようだが違うぞ。これは・・・」


「ベレッタM92F。イタリアのハンドガンだろ?弾種は9ミリ軍用パラペラム弾で装弾数は15。だっけ?」


少年は一般人の理解を遙かに越える羅列を簡単に言ってのける。


「詳しいな。だが・・・」


男のは引き金に指を掛けた。


刹那、路地に閃光が走った。乾いた銃声が狭い路地にこだまする。


「何・・・?」


男の手には強いショックがほとばしっていた。ハンマーで手を殴られた。そんなショックが感触として露わとなっている。そしてリーダーは気づく。自分が銃を握っていた右手からハンドガンが消えていることを。


ガチャリ。と後方で音がする。その音をにつられ男は後方を確認した。


そこには、さっきまで握られていたベレッタが落ちていた。そして、男達は前に振り返る。


「だが、どうした?」


少年の手には白い煙を吐く何かが握られていた。


「何だと・・・」


男の顔は驚愕の色で一杯だ。なぜなら、少年の手には一丁のハンドガンが握られていたからだ。


「コルトM1911A1・・・まさか!!」


男は恐怖で顔を引きつらす。


「紹介遅れたね。カフェのバイトの神崎昴留かんざきすばるって言うんだ」


「まさか・・・」


その名を聞いた途端に男は顔面を蒼白にした。


「まだ続けたい?延長料金は高いぞ」


からかうような口調だった。そして笑顔で言う。


「その命だ」


それが「延長料金」だった。その金額を聞いた途端、男は走り去った。意味深な単語を残して。


幽霊ゴースト・・」


男の立場は一転。だっとの如くその場を去ったのであった。


昴留と名乗った少年はため息を浅くつき、少女に歩み寄る。しかし、少女は安堵の色を見せず逆に怯えている。そして落ちているベレッタに飛びついた。


「こ・・・来ないで!!」


少女は震える手でM92Fを少年に構える。


「何だよ?俺は君に・・・」


「あなたは何者?」


だが少年は歩みを止めなかった。そして言った。


「俺はかわいい女子の味方。都会の何でも屋だ。理由は知らないけど、役に立つぞ」


「・・・本当に?」


「あぁ。誓うさ」


「私を守ってくれます?」


「勿論だ。可愛い子は誰でもOKだ」


まばゆい笑顔だった。誰もがこの笑顔に嘘はないと思えるようで彼は答える。


「よかった・・・」


彼女はその言葉を残し緊張という名の糸が切れた人形のようにその場に倒れ込もうとした。だが、昴留はその小さな体を優しく受け止めた。


「お疲れさん」


そう彼女の耳元に呟いた。




小鳥のさえずりの心地がよい朝だった。カーテンからの木漏れ日が彼女に優しいまどろみから起こす。


香しいコーヒーと朝食の匂いが彼女の鼻腔をくすぐった。上体を起こし辺りを見回す。


白い壁に少ない家具。生活するのには困らないが何処か寂しい1LDk部屋だった。


「お、目が覚めたな」


起きた気配を察した少年が彼女の場所へ来る。


「どうだ?目覚めは?」


「はい・・・おかげさまで」


「わかった。じゃ、朝飯にしよう」


そう言って少年は彼女を食卓の席へと案内する。


朝食はトーストにベーコンエッグ、そしてコーヒーという実に簡素かつ食欲をそそる一品だった。


「いただきます」


彼女は食事にありつく。食べる様子からして相当お腹を空かしていたようだった。


「ところでさ、君の名前聞いてなかったね。名前は?」


少女は口をもぐつかせているがコーヒーで口の中にある物を押し流し昴留の問いに答える。


「ジェネリカです。ジェネリカ・ラングエイムです」


「へぇ。外国人ね・・・で、何処の国?」


「イスペギア王国です」


「イスペギアって最近、クーデターで王と王妃が殺されたあの国か?たしか首謀者は王の兄だっけ?」


ジェネリカは頷くだけだった。


イスペギア王国とは北欧にある王国で未だに王政が行われている数少ない国家の一つである。主に貿易業で国益を出している裕福な小国である。


「で、怖いこと思い出させるかもしれないけど・・・昨日のあいつは何者だ?」


「彼は・・・王国の諜報部員です」


「そうか。で、君が何でそんな奴に追われてるんだ?」


「それは・・・」


ジェネリカは言葉を詰まらす。しかし答えた。


「それは私が・・・イスペギア王国の王位継承者だからです」


そして、彼女は話し始めた。


自分のおかれている状況や刺客を送った犯人の目星のことを。


同じく、昴留も自分のことを話した。


自分は、何でも屋と呼ばれる商売をしていて、金次第でどんなに汚い仕事でもするということを。


「つまりは、君の叔父さんが次の王様になるのにジェネリカが邪魔でしょうがない。それで君を」


「はい。私の両親は・・・彼に・・・」


ジェネリカの黒くつぶらな瞳から涙があふれ出す。きっとつらい思いをしたのであろう。


「わかった。君をおじさんから俺が絶対守ってみせるから。安心しろって」


「ありがとう・・・」


「でもな、依頼料が掛かるんだよな・・・ボディガードを雇うのにはな」


「お金なら・・・」


「金は良い。ただ、報酬はな・・・君が良い女王になるって事で良いな」


目映い笑顔を昴留は浮かべ答えた。


とことんまでに女の子に甘い性格を彼は持っている。


「はい。私、なります」


「なら、契約成立だ。君を俺はどんな悪人からでも守る」


彼女はその言葉を聞いて安心とうれしい笑顔を浮かべた。


「ありがとうございます。スバルさん」


「礼には及ばないぞ。それよりジェネリカ。シャワー浴びたらどうだ?」


昨日、汗だくになって逃げてきたジェネリカを気遣って昴留は提案をした。


「良いですか?」


「もちろん。日本は水道代高くないから」


「なら、お言葉に甘えて」


彼女はそう言い残して風呂場へと向かった。


ベッドルーム兼リビングに残された彼は虚空をにらんでいる。睨むこと十秒、彼は悪どい表情を浮かべ言葉を漏らす


「ふふふふ・・・見せてもらおうか・・・欧州美女の風呂姿というものを」


ジェネリカは知らなかった。駒込一の何でも屋は史上最強の変態であることを。


新宿の同業者も変態であるように駒込に居を構える彼もまた変態である。


シャワーの音が聞こえ始めた。作戦開始の合図だ。差し足、抜き足、忍び足で脱衣所に接近そして侵入。


プラスチックの板越しに見える彼女のなまやしげな四肢をおぼろげだが昴留はその眼に焼き付ける。


「や・・・ばい。こりゃ」


ふくよかなバストに引き締まったウェストとヒップ。これほど男の欲望をくすぐるボディを持った少女と二人きりならば、覗かずして何が男よ。と思い、彼はドアノブに手をかけた。


「こ・・・この状況は!!」


彼はふと・・・あることを思い出す。


さる漫画を読み、女子風呂に覗きをかけた二人組のパイロットのことを。そして、彼らの行く末を・・・


昴留は煩悩を振り払うために首を激しく振った。


「俺は・・・あいつらとは違う」


理性と名が付けられた心のストッパーが彼の背徳行為を止めたのであった。



十数分の時が経った。



ジェネリカは自分の丈より大きい昴留のTシャツをワンピースのように来て風呂場から出てきた。


「ありがとう。生き返りました」


にこりと、可愛らしい笑顔を昴留に向けた。


「お・・・そりゃよかったな」


ジェネリカはふと窓の外を見る。彼女の視界に20メートルほど向こうに満開を迎えたソメイヨシノの桜並木が入った。


「桜ですか?」


美しく咲いた花。ソメイヨシノの花をジェネリカは食い入るような目で見ていた。


「好きなのか?」


「その・・・お母様が好きな花なので・・・」


無き母の事を思い出したのであろう。言葉が詰まって昴留には聞こえた。


「で、ジェネリカは好きなのか?ソメイヨシノ?」


「へ?」


「俺は君のお母さんの事は聞いちゃ無い。俺はジェネリカが好きかどうか聞いてるんだ」


「それは・・・」


ジェネリカは短い沈黙を作り出した。窓から目を離し、ジェネリカは昴留の顔を向き答えた。


「好きです。桜」


その答えを聞いた昴留は笑顔で彼女に言う。


「そうそう。自分の意見言わなきゃさ。他の国とも話せないだろう?だからさ、きちんと自己主張しろよな」


「はい」


彼の言葉にジェネリカは頷いた。


「あの、スバルさん」


「何?」


ジェネリカは首筋に手を伸ばし、がさごそと首の後ろで手を踊らす。っそして、何かを服の中から取り出した。


獅子の刻印が施されたペンダントだった。イスペギア王国の国旗は剣と盾を持った獅子が描かれている。


「これ何?」


「王家のペンダントです。王位継承者に代々受け継がれる物です。これを預かってください」


「何で?」


「もし、私が叔父に捕まってもこれが無ければ彼は王にはなれません。

もし彼が王になったらイスペギアは・・・」


その先の言葉が出なかった。自分の権力のために平気で自分の兄を殺せる彼が王政を握ったら最悪な事になるとくんだ彼女はその未来がたまらなく怖かった。言葉にならないほど。


「わかった。俺が持っておくよ」


彼は白銀に輝くペンダントを手のひらに乗せた。まだそれには、彼女の温もりが残っている。昴留それを握りしめポケットにしまう。


昴留はふと思い出す。


今日って午前のシフトだったな。


「そうだ。俺、仕事があるから、少し外に行ってくる。絶対に外に出るなよ」


「あ・・・はい」


そう言い残し、コートを羽織って昴留は部屋から出ていったのであった。




スーパーの袋を下げた昴留は自室のある廊下を歩いて違和感を感じた。


「この匂い・・・まさか!!」


鼻を突く嫌な臭い。その臭いが彼の焦燥を煽った。自分の家の前に着いた彼は、腰にコートの裏に隠し持っているコルトを用意。ドアを蹴破った。


けたたましい音を立て開いたドア。その向こうにあった物。それはさっきまでジェネリカがいた無人の部屋だった。


テーブルや、テレビの位置が露骨に動いている。これらの事実で争った形跡が見られる。そして何より彼の足下に落ちていた物が彼に確信を持たせた。


「スモークグレネード・・・」


拾い上げたグリーンの缶。それは、室内などで使う手榴弾の一種で、投擲した後、煙がでるという物だ。言うなら発煙筒だ。


さっきの臭いはこの煙からだった。


そう。ジェネリカは拉致されたのだ。あの工作員に。


自己に対する苛立ちで力一杯に壁を殴り付けた。


俺のミスだ・・・!!ジェネリカから離れなければこんな事に!!


そんな最中、室内に電話のベルが鳴り響く。彼は靴のまま部屋に入り電話に出た。


「もしもし」


「神崎昴留か?」


昨日の工作員の声だった。


「あぁ」


「ジェネリカ王女は預かった。ペンダントを持って今晩10時に東京湾の8番埠頭の倉庫に来い。さもなくば娘の命は無いと思え」


「わかった。で、彼女は無事か?」


「あぁ。元気だ」


「代われ」


「わかった」と一言男は言い、数秒後、彼女が電話口に出た。


「スバルさん、来ないでください!!もし、あなたがペンダントを渡したら・・・叔父の独裁が始まります!!私より国民を」


「うるせぇ!!このクソアマ!!」


背後からの罵声とともに電話は切れた。


彼は人生の中で大きな選択を迫られた。一人の女か、何百万人の国民か・・・


「決まってんだろ?」


そう言って、彼は部屋から出ていった。




約束の時間が訪れた。


東京湾の8番埠頭の倉庫前。昴留は約束の時間通りに到着した。


そこには、MP5で武装した6人の男たちとその後ろに白いスーツを着た小太りの中年男性とジェネリカがいた。


「来たな、神崎昴留。もといゴースト」


小太りの男、たぶん彼女の叔父が言った。


「ペンダントはある!!ジェネリカを離してやってくれ」


昴留はよく通る声で言った。


「そうか。では死ね!!」


手を挙げ処刑を宣言する。しかし、開いている腕をジェネリカは掴み訴えかけた。


「やめてください!!私が邪魔なら、私を殺せばいいじゃないですか!?何故、スバルさんを・・・きゃっ」


パシン、と平手打ちの乾いた音がした。ジェネリカは叔父にはたかれ頬を押さえる。


「うるさい!!小娘が。第四九代目国王の私に指図するのか!?」


その光景を10メートル先で、見ていた昴留は冷たい殺意の目線を射た。


「では死ね」


処刑命令が下る。6人の処刑人が殺意の銃口を昴留に向ける。


手が降りおろされる瞬間より速く昴留は動いた。


クイックドロー。西部劇の早撃ちを彷彿させるようにベルトにねじ込んであるM1911A1(コルトガバメント)を抜き、構え。撃った。


鈍い反動を肩で受け止め、次、また次の目標へと的確に四五口径の弾丸をたたき込む。


一連の動作は、瞬きよりも速いと言っても過言ではなかった。


叔父が手を振り終える頃には、彼の兵隊は皆足を押さえ、地面に倒れ込んでいる。


「遅いな・・・俺の九つの頃より遅いぞ、おっさんがた」


「ちぃ」


叔父はジェネリカの腕を左手で引き自分の目の前に立たす。そして、その右手にはエングローブの施されたリボルバー、シングル・アクション・アーミーが握られていた。狼狽した彼の顔は醜く歪んでいた。


「来るな!!この娘の頭を吹き飛ばすぞ!!」


ガバメントを構えた昴留はジェネリカの叔父の姿ををあきれた目で見ていた。


「おっさん。あんたの目当てはこのペンダントだろ?」


そう言ってポケットから王家のペンダントを取り出す。そして彼に見せた。


「やめてください!!私はどうなっても良い。国民を守ってください!!スバルさん!!」


「ひひひ・・・これは見物だ。国か、女か。で、君はどっちを取るのだね?」


悪辣で醜悪な笑みを叔父は浮かべた。しかし昴留は真理を答えるかのようにその問いの解を言った。


「決まってんだろ?」


そういってペンダントを叔父に投げ渡す。


「スバルさん・・・」


ペンダントが放物線軌道をとって飛んでいる。


刹那。


「どっちもだ」


昴留は引き金を引き絞る。


速燃性火薬は弾頭を打ち出す。


音速に近い鉛の飛翔体が大気を切り裂く。


そして弾丸は叔父のペンダントを受け取ろうと差し出した手を貫き肩に突き刺さった。


「走れ、ジェネリカ!!」


手に負った傷で苦しむ叔父の隙を見計らって彼女は、落ちたペンダントを拾い上げ、そのまま昴留の元へ走りだす。


そしてジェネリカは昴留の胸に飛び込んだ。


「もう大丈夫だ」


彼の言葉にジェネリカの瞳は涙を浮かべていた。悲しい涙ではない。嬉しい涙を。


「ありがとう。スバル」


カチャリ。


背後で撃鉄の下りる音を昴留は聞き取れた。


「はぁ・・・ひぃ・・・ひぃ・・・ひひひひ。死ねクソガキ共!!」


この照準ならば二人を貫通し両者とも地獄に落とせる。それにコルトM1911A1は7発。もう弾切れだ。と叔父は確信し引き金に指をかけた。


「ばーか。たぬきの浅知恵なんかお見通しだぞ」


ジェネリカを抱きしめる手を緩めずに昴留は引き金を引き絞った。


「なっ!!」


彼の放った弾丸は叔父の持っていたシングル・アクション・アーミーを弾き飛ばした。


「バカな・・・お前の銃は弾切れでは・・・」


「は?俺はあらかじめ薬室に弾を入れてたんだ。ようは八発入ってたんだこいつには」


自動拳銃の構造上、マガジンから弾丸を薬室と呼ばれる場所に装填する

必要がある。その構造を利用して、彼は薬室にあらかじめ弾丸を入れていたのであった。


「じゃな。ま、あと10分もすりゃ警察も来る。そん時が楽しみだな」


そう言い残し昴留はジェネリカと共にその場から去ったのであった。




二週間後・・・


ジェネリカは事件の三日後にイスペギア王国に帰った。彼女の叔父も一緒に帰り、後に裁判に掛けられるそうだ。


でも、今でも時々思い出す。


ジェネリカの笑顔を。





気だるい朝。する事もなく昴留はテレビをつけた。彼はは気づくどの局も同じニュースを流していることに。


そして適当に選んだチャンネルで止めそのニュースを見ることにした。


若い女子アナが緊張の色を見せながら美しい城の前でマイクを握り今の状況を報道している。


「本日ここ、イスペギア王国で第四九代目女王の戴冠式が今行われています」


戴冠式、それは新たな王の誕生の儀式である。それが今、あの国で行われている。二週間前に助けた少女の王国で。


「あ!!ジェネリカ王女です!!」


盛大な鼓笛隊の演奏で彼女は現れた。純白のドレスを身に纏った少女。

昴留のよく知る彼女、ジェネリカだ。


しかし今日の彼女はどこか違う。


二週間前はあどけない表情を残していたジェネリカだが、今日の彼女の顔つきは凛としていた。


ジェネリカはその表情のまま、ローマ法王から白銀の冠を授けられる。


この瞬間、昴留の知っているジェネリカは死んだ。


そして新しく「女王」としてのジェネリカが誕生した。


とか、そんな事を思い昴留はその光景を見守っている。


沸き上がる歓声と拍手。


この小さな少女にこの国は背負われる。だが、彼女はそれを覚悟している。


「これより、ジェネリカ女王のスピーチが始まります」


マイクの置いてある机にジェネリカは画面の向こうで深く呼吸し、話し始めた。


「みなさん、こんにちは。本日、私はこの場を借りて誓いをたてたいと思います」


ジェネリカは語を区切る。短い沈黙。そして彼女は口を開いた。


「良い女王になります。スバルさん。私・・・絶対になります。見ていてください。そして遠くから見守ってください」


満面の笑顔で彼女は言った。何万キロも離れた土地にいる昴留に。


当の昴留は微笑んでいた。


「俺ってホントにバカだ・・・」


小さくつぶやいた。


女王でも王女でもどっちでも良い。アイツはジェネリカ。


俺の家の近所で変なおっさんに追い回されていた女の子。


自分より他人の幸せを尊重できる、優しい女の子。


そして・・・俺の大切な依頼人だ。



<完>



最近、シティーハンターを全巻読破したマーベリックです。


シティーハンター読んだら無性に書きたくなってやってしまいました!!


やっぱりシティーハンターって凄いなって思います。


あの絵……週刊誌であのクォリティですよ!!


そして……あの主人公りょうちゃん!!もっこりしてても、かっこいい!!男の憧れですよね!?


とか何とかで書いた一作です。お楽しみいただけましたか?


あと本職のしょねそらは来年の投稿になると思います。


以上、マーベリックでした。


ちなみに駒込は池袋の近くの町で、ソメイヨシノ発祥の地とも呼ばれているマーベリックの地元です。

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― 新着の感想 ―
[一言] はじめまして 天城 時雨といいます タイトルに惹かれて読ませていただきました スバルくん、かっこいいですね! 少年なのに大人びた口調と大人に劣らない強さ、なのに変態、ってところが最高でした…
[良い点] 非常に丁寧な描写で面白かったです。 かなりスリリングでいいですね。 [一言] こちらの小説にコメントして頂きありがとうございます。 あなたの小説も楽しませて頂きます。  本当にありがとうご…
[良い点] アクションシーンのスピード感や、武器のリアルさは本当にいつもすごいと思います。 [気になる点] なし [一言] ハードボイルドですね。スバル君、例の二人組を教訓に覗きをしなかったのはエライ…
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