金色に輝くお菓子な話
文章の練習。何が書きたかったのかわからない。
そこは、闇に沈む一つの部屋だった。
いつもは闇に沈むこの部屋は、今日は珍しく、ゆらゆらと赤い光がうごめいていた。
赤い火は地面へと流れ、波打ち、その動作を繰り返している。まるで生きているような錯覚すら覚える。
そして、その火が持ち上げるような形で、大きな黒い釜が熱せられていた。
火が、あまりにも高温なため、火に直接触れる部分は赤く、危険な色に染まっている。焦げ臭い臭いも気になった。
そんな釜の隣に、階段のついた、高い台が無造作におかれていた。
その黒い頂上に、不意に白いふわふわとしたものがゆれた。
フリフリの白いレースに、小さな花の飾りを散らし、大きく膨らんだスカート。
ウエディングドレスを思わせるような、純白の、絹の洋服。
そして、今にも足のかかとで踏んでしまいそうなくらい長い金髪を、耳元で一つにむすんだ小柄な少女−−リンゼは釜の中に入った長い銀色の棒を、汗を流しつつ、必死にかきまわしていた。
リンゼが動くたび、ふわふわのスカートと、金色の髪の毛がゆれる。
突然、リンゼは棒をかき回していた手ピタリと止め、その空色の瞳で釜の中を見下ろした。
ピンク色のその液体からは、痛いくらい熱い湯気が立ち上り、マグマのように、泡ができては、また消えていった。もし間違って落ちてしまったら、間違いなくリンゼの命はないだろう。
「……できた」
今にも消えてしまいそうな小さな声だった。
リンゼは釜の中身から目をはなし、黒い床に目をうつした。
一瞬無意味に息を止め、少し膝をまげて、台から一気に飛び降りた。
二つにむすんだ髪の毛が、蝶のようにひらひら空中を舞い、ふりふりの洋服がレースの波をつくり、リンゼを飲み込んだ。
音もなく床に着地すると、リンゼは床に置いてあった黒いバケツを手にもった。
中の銀色の液体が、円をえがいている。
リンゼはそれを両手にもつと、今だに燃え動く火に一気にかけた。
肉が焼けるようなすさまじい音と、異常なくらいの白い水蒸気が、闇の部屋を白く染めた。そして、リンゼの姿をも隠してしまった。
やがて、水蒸気は消え、また部屋は闇に飲み込まれた。赤い火が消えたぶん、余計に暗く、ほとんど何も見えない状態だった。
いつのまにか、リンゼは台の上に、銀色の等身大のスプーンを抱え、釜を覗きこんでいた。すっかり、あの熱い湯気は消え、ひんやりとした空気が顔にかかった。
リンゼは台に膝をつき、ゆっくりとスプーンをおろし、ピンクの表面を突いた。
少し突いたところが、三日月みたいな形にへこんだ。
ちゃんと、固まっている。
「やった! 成功した!」
リンゼはその場でガッツポーズをとると、スプーンでピンク色の固体をすくった。
スプーン一杯、ピンク色に染まると、そろり、そろりと引き寄せた。
「こんなに作らなくてもよかったかなぁ……」
ポツリとつぶやき、スプーンの中の固体を手にすくい、口にした。
口のなかが、綿のようなザラザラした感触でいっぱいになり、同時に言葉には表せないくらいの甘さがリンゼを襲った。
それでもリンゼは満足そうに頬を赤らめた。幸せに満ちた顔で、フリルのスカートのポケットに手を入れた。
「大成功! これでもう、あいつは逃げられないわ!」
リンゼがポケットから手を抜くと、手には透明な袋と、赤くて長いリボンが握られていた。
リンゼはそれらを口にくわえ、ピンクの固体を両手いっぱいにとり、こねはじめた。ベタベタした感触が、やがてサラサラとした肌ざわりに変わっていった。
だんだんと、形が整ってきて、なにやらハートの形に仕上がった。
それを口にくわえていた袋に、そっといれ、リボンできつくしばった。
リンゼの顔は、幸せの色に染まっている。
「よし!」
と小さく発したあと、リンゼは台から飛び降りた。
細い足を素早く回転させ、壁の小さな出っ張りに、手をかけた。
それを引くと、馬車がはしるよりな音とともに、部屋に光が差し込んだ。
リンゼは閉めるのも忘れ、あわてて急ぐように部屋を出ていった。
光は、まだ大量にピンクの固体が入っている鎌を照らしている。 甘い匂いが、その部屋を支配していた。