一章~眼~
翌日 めずらしく朝早く起きた俺は、いつもの半分以下のスピードでゆっくりと登校していた。
いつもはダッシュで駆け抜けている通学路も こうやっていると案外新しい発見があるもんだなぁ…とかおもっていると 俺はいつの間にか学校に着いていた。
俺らが通っている「第弐拾六契約者育成学園」通称26は そのストレートすぎる名前のとおり契約者を育成するだけのために造られた学校だ。だからって 普通の学校とまるで違うわけじゃない。午前中は一般過程として数学とか理科とかいたって健全な授業を受ける。だが こっからが普通じゃない。午後になると契約者各々の属性に合わせた授業を受ける。火なら火 水なら水というふうに集まって互いの力を日々切磋琢磨しているわけだ。俺はというと 属性を持っているわけじゃないから、ひたすら剣術の授業を受けるというなんともいえないAFTERNOONを送っている…がとうの剣術はY=1/100Xぐらいの傾きでしか上達しない。
「はぁ…」
まったく無意味なため息をこぼしていると、午前の授業が終わっていた。いつのまに?
一人格技館への廊下をとぼとぼと歩いている俺の後頭部に ハイタッチ的な平手打ちが飛んできた。
「やっほー かみヤン」満面の笑みを浮かべたアホがそこにいた。
「あのな寺内、級友にいきなり平手打ちをかますやつが何処にいるんだ?」
この級友寺内 幕は俺の数少ない友人の一人であり、水の精霊との契約者だ。‘水の精霊‘と特筆して固有名詞を書かないのは こいつが‘一般的な精霊‘との契約者だからだ。どこぞの貧乳みたいに 固有名詞がつくような精霊と契約者のほうがレアケースだ。
「つーか 何でお前がここにいんだ?」
平手打ちのお礼をしつつ、ふと想ったことを疑問符をつけて聞いてみる。
「今日は、うちらも剣術の授業をうけんだ。なんでも 崩壊的に下手なやつらがおおいらしくてにゃぁ~」
「ん? てことは美怜もいんのか?」解りっきた事を聞いてしまった俺がバカだった。
「にゃ~? かみヤンは美鈴ちゃんにくびったけなのかにぁ?」
「アホか。こないだの鉄槌の御礼でもしようかと思ってな。」
「夫婦喧嘩はよくないでs」
拳でアホの口をふさいだ俺は、また一人格技館へ向かった。
いつもの人数の三倍ぐらいの生徒で埋め尽くされている格技館には 必然ながら美怜もいたが、あんなことを言われた後じゃ話しかける気にもなれないので 俺は端の方に行き教師の到着を待つことにした。
少しして 教師がやってきていきなり いいか? いきなりだぞ?
「今日は、水属性の生徒さんもいらっしゃることなので 模擬戦でもしましょうか。」
えぇ!マジで? ついてねぇなぁ などの声が生徒全体から上がる。当然俺の口からも出たが逆らえるような相手じゃないため、素直に従うしかない。
極端に人数比があるせいか水属性のやつらの2/3ぐらいの生徒はすでに観戦するき200%展開中だ。
「はぁ…」いったい俺は一日に何回ため息をつけばいいのか誰か教えてくれ。
「愉快なまでに現実逃避してないで、さっさと戦う用意をしたらどうなの?」
ヴッ…この声は 後ろを見るとやはりそこにいたのは美怜だった。
「あなた様が俺みたいな中の下に何のようですか?」
純粋に疑問符をつけて聞くと 美怜は「何いってんのこいつ?」といわんばかりにもともと大きな目を大きく見開いてパチクリさせていると、呼吸するみたいに当たり前って感じの口調でこういった。
「何って、模擬戦するに決まってんじゃない。」
ん?俺の聞き間違いか?俺と戦うっつたかこいつ?
「何でこんだけいる生徒の中で俺なんだ? 俺とお前とじゃ実力差ありすぎだろ!」
驚き半分憤り俺に美怜は悪戯が親にばれた子供みたいに
「いやさ よく知ってるやつのほうが気兼ねなくボコボコにできるじゃん?」
なんていいやがった。 こいつ俺をボコボコにする前提かよ。あぁそうですか。久々にイラっときたぞこのやろう。弱者の弱者なりの強がりを見せてやるよ。
「いいぜ。ただし俺は全力で行くぞ」
「おっ 戦るきになったのね?」
なになに美怜さんやるんですか?おっ美怜がやんのか?などと野次が飛んだとおもったら2/3が3/3になった観客を戦わせるのが仕事なはずな教師まで 美怜が戦うことに楽しんでいるようだ。
あぁもう!どいつもこいつも美怜 美怜って! やってやる 全力で だ
「先手どうぞ 来なさい 軽くあしらってあげるから。」
一々イラっと来るやつだ…
「いくぞぉ!」
俺は剣をイメージする。そうすると左手に両刃の西洋風な剣が握られる。それを左からなぎ払うように切り付ける。 美怜が不敵な笑みを浮かべると、剣が触れる寸前美怜を守るように床から水が噴出す。
「うぐっ―--」
水圧に耐え切れなかった俺の腕は体ごと後ろに吹っ飛ばされる。何とか受身を取り追撃に備えようとしたときには すでに美怜が腰から細身の剣を抜いていた。
「いきなり くたばれぇ!」
「うおっ!?」
なんとも間抜けな声を出しつつも辛うじて攻撃を防ぐ。受け止めたサーベルごと力押しで美怜を吹っ飛ばすが 華麗なまでに着地を決められる。
「ならっ!」
逆に追撃を仕掛けようとする。が なんとも出オチ さっきの水でバランスを失ったついでに勢いを失った俺に美怜は突きを繰り出してくる。 それを何とか剣の広い面で流し、バックステップで何とか間合いを取る。
「間合いを取ったって こんなことも出来んのよ!」
美怜はサーベルに水をムチのようにまとわせ 俺に叩きつけてくる。
「マジかよ」
よけようにも こんな広範囲な攻撃は避けきれん。
「ならっ!」
俺は剣と全身を使ってそのムチを受け止める。
「ふっ!とべぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
-----そのとおりだった。 予想をはるかに上回る威力のムチに吹っ飛ばされた俺は壁に激突する。
いってえぇ。何とか両足でたつ。
「ハァ…ハァ…クソッ」
後一発でも食らえば俺は確実に気絶する。
「十八番で止めを刺してあげる!」
ドンッ!という音とともに床に広がっていた水が中に浮き 数十という野球ボールぐらいの水冷弾になる。
「落ちろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
美怜のその合図で水冷弾が一直線に俺の方に向かってくる。
----なぜだろう 動きがスロー再生のように事細かに見える。どうすればいいか解る!
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
俺が取った行動はいたって単純 直進しか出来ないものを避けるなら、こっちも一直線に駆け抜ける!
耳の近くを水冷弾がかすめいやな音がする。頬をかすめ鮮血が飛ぶ。それでも俺は突き進む。
一発もあたらないことに驚いているのか美怜は焦った顔をしている。
「おらぁぁぁぁ!」
剣を振付ける。それに反応し美怜は水の盾を作ろうとする。
----だが それさえも見えていた
俺は剣を逆手に持ち直し、美怜の側面をすべるように回り込む。
お互いに背を向けた状態でいた。唯一の違いは俺が美怜の首筋に刃を当てていることだ。
周りの生徒はあごがはずれそうな勢いで口をあけていた。
「ハァ…ハァ…これが…俺の……全力だ。」
「ハァ… わっ…私は全力じゃなかった!」
「はいはい」
俺は左手に握っていた剣を消す。それとほぼ同時に周りから水が引いていく。
マジであれ浅見?あいつあんなに強かったけ? 美怜さんが…っだいじょうぶですか?
生徒から驚きの声が上がる。まぁ 当たり前だろう。美怜は学年で指折り三本に入るぐらいの実力者なのに俺が勝っちゃたからな。
美怜は…もういない。そんだけ悔しかったんだろうな。 それより‘アレ‘はなんだったんだ?まぁ、そのうち解るか。
俺は優越感に浸りながら、ぐっしょりとかいた汗を手で拭っていた。
でも やっぱりこの時点の俺も この未来は考えていなかった。
どうも鵺です。いきなり主人公君に戦ってもらいました。しかもまさかのこの結果w今後アドバイスお願いします。
また最後になってしまいましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました!