セキュリティ対策
俺がほぼ株式の全財産を投入している○○商事に大規模なランサムウェアー攻撃があったというニュースが流れた。顧客の名簿がごっそり持って行かれたという。
この先、どれほどの被害が出るかもしれない。
すでに○○商事は朝方の上げから一転して下げに転じ始めた。
俺はあわててパソコンを立ち上げ、証券会社にログインしようとしたが、これができない。
パスワードを入れても「お客様はパスキーを設定されていません」と出るだけだった。
電話で問い合わそうと思っても、ものすごく混んでいて繋がらない。
焦ること三十分。ようやく係員につながるとパスキーの作り方を説明してくれるという。
「パスキーは6ケタ入れるらしいが,俺のPINキーは4ケタでエラーが出るのだ」と言うと、新たにPINの設定を教えてくれるという。
ウィンドウズの形式を聞かれ、設定画面からようやくPINの設定にたどり着いたが、こんどはマイクロソフトがパスワードを要求してくる。
非常に悪い予感がした。
ウィンドウズもアップルも、パスワードを作って、次に同じパスワードを入力しても「パスワードが違います」と言って拒絶されるのだ。
その度に新たなパスワードを作り直しても、次の機会ではまたパスワードが違うと言われてしまう。
案の定、今回もパスワードエラーが出た。
これでは証券会社の案内の人もお手上げで、まずはパソコンを買った店などで相談して欲しいということだった。
この国は安全のためという名目になると、次々に国民に不便を強いるが誰も文句を言えない。
二重認証だ。パスキーだ。それでもだめなら別の手段だと言っているうちに、経済はまた一段と冷え込むだろう。
どうしようもなく○○商事の株式の画面を眺めていると、下がること下がること。含み益はとっくに消え去り、さらに下落をしていく。
翌日も○○商事は下落をし続け、ついには……。
テレビでは社長の記者会見が行われ、頭を下げていたが、それは流出した顧客のカード番号や免許証などについての話だった。
「我が社は絶対に犯人の要求になど応じません!」
と、その意気やよし。
だが株価は創業以来の安値を付けた。
「犯人には悪事によって一切儲けさせることはありません」
と社長は断言していたが、たぶん犯人は空売りをかけていて、とっくに大儲けをしていることだろう。
「顧客が損失した分は、すべて我が社が補填します」
社長は強い口調で締めくくったが、俺は人生のはかなさを身にしみて感じただけだった。
おしまい
おしまい




