お隣は狂人さん
大学──
食堂にて。
「何見てんだよ」
「ニュース」
こちらにスマートフォンの画面を見せつけてくる。
「へぇ......って、昼飯食ってるときにそんなニュース見せんなよ」
「東京都〇〇区のマンションにて、男性の左手の薬指を発見。」
「聞いてる?」
「はは、それじゃ続き読み上げるぞ。一人暮らしをしていた女性が通報、指の持ち主は前の居住者である好女葛尾(29)だと判明。犯人はいまだわからず、そして好女葛尾氏も生死不明──だそうだ」
「最後まで言ったな」
「ははw」
「意地悪め。なら俺も話してやる。お前みたいな意地の悪い話ではなく、幸せな話だ」
「なんだ?春でも来たのか?」
「ふふ、最近隣に柳田えぼしさんって人が引っ越してきたんだけど、よく作りすぎちゃったおかずとかをおすそ分けしにきてくれるんだよ。」
「前はよく食べてくれる人がいたんだけど──
そのときの癖でつい──
作りすぎてしまいまして」
「それで?」
「これがなんと美人なお姉さんでさ。歳はたぶん二十代後半ぐらいの人で、妖艶というか艶っぽいというか。そしておそらく未亡人。
それに──胸も尻もデカい。どうだ!」
「どうだ、と言われても」
「素直に羨ましがれよ」
「写真とかないの?」
「そこまで親密じゃない、ただのお隣さんって感じ。しかしあれは魔性だね。おれが心優しい童貞でよかった」
「へたれだもんな」
「紳士と言え」
「おかずってどんなの?」
「からあげとか、ハンバーグとか、とんかつとか、肉を甘辛く煮詰めたやつとか」
「......へぇ」
「しかし、なんというか──」
「なんだ?」
「褒められた腕でもない、というか」
「不味いってことか?」
「不味いってほどじゃない、けど──」
「不味いんじゃないか」
「お前はさぁ、その毒吐く口をなんとかしなさいよ」
「正直者と言え」
「きっと振られちまったのはそのせいなんじゃないかな?」
「お前も大概じゃないか」
「不味いんじゃない。ただ、何の肉かわからないんだよな。
からあげ食った時も、ハンバーグ食った時も、とんかつ食った時も、肉を甘辛く煮詰めた、正式名称がわからないやつも、たぶんおんなじ肉使ってるんだと思うんだけどさ」
「どんな味なんだ?」
「たんぱくな味で脂身は少ないけど、ちょっと酸っぱい」
「......お前、引っ越したほうがいいぜ」
「なんだよ突然」
「とりあえず、そのもらってるおかずは口にしないほうが身のためだな」
「おい!羨ましいんだろ」
東京都〇〇区のマンションの一室にて発見された好女葛尾さん(30)の左手の薬指が発見された事件で警察は千葉県〇〇市に住む柳田えぼし(26)を殺人の容疑で逮捕した。柳田容疑者は警察の調べに対し、最初こそ黙秘を貫いていたが、床下の収納から押収されたクーラーボックスの話を持ちかけると容疑を認めた。
クーラーボックスの中には好女氏と思われる遺体が入っていたが、その遺体は明らかに足りない部分があったという。柳田容疑者は残りの遺体について「近隣の方々におすそ分けしました」と供述した。
調べによると、柳田容疑者は好女氏の遺体をあろうことか──
俺はそのあと、引っ越しをし、スマホも変えて、大学もやめた。
誰だってそうするだろう。隣に座っていた奴が人の味を知っている狂人だとわかれば。
誰だって。




