もうすぐ二月が来る
【固定】
始めまして、三軒長屋 与太郎です。
ゆっくりと物語の中の世界を、楽しんで頂けると幸いです。
今年の一月も、あと三時間で終わり。
そんな時に、私はいったい何をしているのか。
宛もなく文字を綴り、頭を悩ませては、消して、また綴るを繰り返す。
――好きなことだから楽しい。
果たしてそれで良いのだろうか。
微々たる収入こそあれど、所詮は無名の小説家。
自らの設けた締切に追われ、机の上も酷く汚れてしまった。
それでも、今は缶コーヒーひとつ、片付ける気が起きない。
この机の上に置かれた殴り書きのためのペン。
合間に食べたミックスナッツのカス。
それさえも、すべてはつい先ほど書き上げた作品の一部だと思えば、愛おしくさえ感じる。
出来ればこのまま眠ってしまいたいのだが、妙に覚醒した脳みそがそれを許さない。
酒か……。
私は冷蔵庫から缶ビールをふたつ取り出す。
誰かと乾杯する訳ではない。
ただ、二杯目を取りに行くのが面倒くさいだけだ。
なんとなく、利き手に持っている方を選び、もうひとつは夜風に当てておく。
北風が鋭く寒い夜。
本来であれば、鍋やら、おでんなんかが食べたいが、今の私に、コンロと向き合う気力は無い。
食べかけのミックスナッツに、この間お土産で貰った『ゆず豆くん』という名の謎のお菓子。
アラレのような、おかきのような……それでも、袋に書かれた絶妙なキャラクターが、左手に酒瓶を持っているからして、きっと酒に合うのであろう。
プルタグの隙間に指をねじ込む。
疲れた私を労う音が響く。
指先についたビールを服の端っこで拭い、改めて持ち直す。
アルミ缶の口から、私の唇を誘うように冷気が漏れ出す。
作業に没頭してろくに水分を取っていなかったからか、いつもより喉が鳴る。
ひと口……痛快な冷たさが脳天を貫く。
弾けた炭酸の泡が、口内にしがみつき、さらに小さく、さらに小さく弾けていく。
ふた口……ここでやっと、ビールの味ってやつが舌を刺激する。
苦味とはよく言ったもので、喉の奥へと消え去った後も、存分に余韻を愉しませてくれる。
悩みなんてものが馬鹿馬鹿しくなる。
何かを好きになって、何かに向き合って、何かをやり遂げて、そして喉を潤す。
人生なんて簡単だなとすら思う。
私はきっと、明日の昼には二日酔いに魘されている。
それはもう、揺るぎない真実に近しい。
こんなにも素敵な夜が、缶ビール二本で終わるわけがない。
今宵は私の我儘に、どっぷりと付き合ってもらう。
冷凍庫に、いつ買ったかも分からない餃子があったな……なんて思い出してみる。
どのタイミングで芋焼酎に切り替えるかを真剣に熟考するが、結論として、やはり今夜はビールで突っ切ろうと覚悟を決める。
無名であるという事実は、いつだって重たい。
だが今夜に限って言えば、その重さに名前が付いていないことが、少しだけ救いであったりもする。
そうやって時間が過ぎて、
もうすぐ二月が来る。
【固定】
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