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あなたに読まれたい  作者: 三軒長屋 与太郎


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5/6

もうすぐ二月が来る


【固定】

始めまして、三軒長屋サンゲンナガヤ 与太郎ヨタロウです。

ゆっくりと物語の中の世界を、楽しんで頂けると幸いです。


 今年の一月も、あと三時間で終わり。

そんな時に、私はいったい何をしているのか。

宛もなく文字を綴り、頭を悩ませては、消して、また綴るを繰り返す。

――好きなことだから楽しい。

果たしてそれで良いのだろうか。

微々たる収入こそあれど、所詮は無名の小説家。

自らの設けた締切に追われ、机の上も酷く汚れてしまった。

それでも、今は缶コーヒーひとつ、片付ける気が起きない。

この机の上に置かれた殴り書きのためのペン。

合間に食べたミックスナッツのカス。

それさえも、すべてはつい先ほど書き上げた作品の一部だと思えば、愛おしくさえ感じる。

出来ればこのまま眠ってしまいたいのだが、妙に覚醒した脳みそがそれを許さない。


 酒か……。

私は冷蔵庫から缶ビールをふたつ取り出す。

誰かと乾杯する訳ではない。

ただ、二杯目を取りに行くのが面倒くさいだけだ。

なんとなく、利き手に持っている方を選び、もうひとつは夜風に当てておく。

北風が鋭く寒い夜。

本来であれば、鍋やら、おでんなんかが食べたいが、今の私に、コンロと向き合う気力は無い。

食べかけのミックスナッツに、この間お土産で貰った『ゆず豆くん』という名の謎のお菓子。

アラレのような、おかきのような……それでも、袋に書かれた絶妙なキャラクターが、左手に酒瓶を持っているからして、きっと酒に合うのであろう。


 プルタグの隙間に指をねじ込む。

疲れた私を労う音が響く。

指先についたビールを服の端っこで拭い、改めて持ち直す。

アルミ缶の口から、私の唇を誘うように冷気が漏れ出す。

作業に没頭してろくに水分を取っていなかったからか、いつもより喉が鳴る。

ひと口……痛快な冷たさが脳天を貫く。

弾けた炭酸の泡が、口内にしがみつき、さらに小さく、さらに小さく弾けていく。

ふた口……ここでやっと、ビールの味ってやつが舌を刺激する。

苦味とはよく言ったもので、喉の奥へと消え去った後も、存分に余韻を愉しませてくれる。

悩みなんてものが馬鹿馬鹿しくなる。

何かを好きになって、何かに向き合って、何かをやり遂げて、そして喉を潤す。

人生なんて簡単だなとすら思う。


 私はきっと、明日の昼には二日酔いに魘されている。

それはもう、揺るぎない真実に近しい。

こんなにも素敵な夜が、缶ビール二本で終わるわけがない。

今宵は私の我儘に、どっぷりと付き合ってもらう。

冷凍庫に、いつ買ったかも分からない餃子があったな……なんて思い出してみる。

どのタイミングで芋焼酎に切り替えるかを真剣に熟考するが、結論として、やはり今夜はビールで突っ切ろうと覚悟を決める。

無名であるという事実は、いつだって重たい。

だが今夜に限って言えば、その重さに名前が付いていないことが、少しだけ救いであったりもする。


そうやって時間が過ぎて、

もうすぐ二月が来る。


【固定】

お読み頂きありがとうございました。 

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是非続きもお楽しみ下さい。

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