7 魅惑の化兎クネーラ
「...あの、ところで誰なんですか?」
「聞くなら、自分から名乗るのが礼儀ってやつですよ?」
「...ごめんなさい」
なんで俺が怒られてるんだ...
遡ること、数分前...
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はぁー、都市ミレアスなら十体の伝説種の情報があるって思ってたんだけど期待外れだったなー。結局、『銀狼の大神リュコス』の情報は得られずじまいかー。
ん?あの宿屋の前にいる人って...
あー!やっぱり!図書館にいた、魔物の匂いがするオスの冒険者さんだ!話しかけにいってみよーっと!
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かくして、現在に至る...
「えっと、俺の名前はマサムネって言います」
「マサムネ君!マサムネ君なら私の名前知ってるはずだよ」
「知ってるはず...?」
そんなことはありえないはずだ。この世界の知り合いなんて限られてるのに、こんな人を知っているわけがない。もしかして、遅れて入ってきた顔見たことないクラメンかな?
「心当たりがないんですけれども」
「んー、そっかぁ。...知りたい?」
「いや、まぁ知りたいです」
「ふっふーん、教えて上げよう!私は十体の伝説種が一体!魅惑の化兎クネーラだぁ!」
「...は?」
なんなんだ、この人。純粋にイカれてんのか?人間の姿をしているのにモンスターなんて馬鹿げた話、誰が信じるんだ?
「あれ、聞こえなかった?コホン、もう一度言ってあげよう。私は十体の伝説種が一体!魅惑の化...」
「いやいや、聞こえた上で聞き返したんですよ。あとなんなんすかそのポーズ」
「いつか、人間に名前を言う時の決めポーズとして暖めておいたんだよ!かっこいいでしょ」
あ、もしかして、混乱系攻撃を使うモンスターにやられたとか?だとしたら早めに治療しないと多分やばいぞ。
「一回宿屋来るんじゃなくて、解毒薬とか飲んだほうがいいっすよ」
「いや、状態異常になってないよ!私が正真正銘の魅惑の化兎クネーラなんだからね!」
なるほど。純粋にイカれてる方だったか。
「その証拠にマサムネ君のスキルがなんとなくだけどわかるよ」
「へぇ、なんだと思いますか?」
「魔物に関するスキルでしょ」
「...当たってる」
「やっぱりー!ちょっと使ってみてよ」
「はぁ...しょうがないなぁ」
「開け」
「おおー!すごい!これで何ができるのー?」
「ここを押すと召喚できたり、出会った魔物の情報見れたりしますよ」
「え、じゃあじゃあ私達のことも書いてる?」
「いや、そもそも十体の伝説種はページ自体がないんすよね」
そういえば、なぜ十体の伝説種のページがないんだ?実は、仲間にできなかったりしたらだるいな。魔王も同じだからそうだとしたらガチで萎える。
「ちぇ、見たら信じてくれると思ったのに」
「...で、何の用ですか?」
「あ、そうそう魔王討伐って興味ある?」
おいおい、新手のマルチ勧誘か?これから高いツボ買わされたりしそうだな。
「僕ら、別の目標があるからきついっすね」
「僕らってことはチームで動いてるんだ?あ、もしかして、最近噂の星屑騎士団?」
「いや、『センゴク』ってチームっす。一応最近...できたばっかなんですけどね」
とりあえず。異世界から来た事は黙っておいて最近結成したチームってことにしとけば面倒ごとにならずに済むだろう。
「よかったぁ。危うく殺...おしおきしないといけないとこだったよ」
「今明らかに物騒なこと言おうとしてたよね...なんかあったんですか?」
「私の仲間たちを一方的に倒したりしてるのが許せないんだ。もちろん、弱肉強食は魔物なら痛いほどわかるけど、あいつらは殺しを楽しんでる。そんなの、許しちゃいけない」
クネーラはそう言って静かに拳を握りしめていた。もしこの人が本物の伝説種なら気持ちはわかる。俺だってクラメンがFPSで死体撃ちされてるのみるだけでイライラするんだから、種族の頂点に立つクネーラが怒るのは至極当然だ。まだ完全に信じてはないけど。
「あ、私の話はどうでもいいんだよ!それより魔王討伐を手伝うってやっぱり厳しいかな...?」
「俺自身は魔王を倒したいんですけど、抱えてる問題が多くてですね」
「内通者がいること?」
「!?どうしてそれを...」
「やっぱり。チームっていうくらいだからここにほぼ全員泊まってることは予想できた。それで、微かにだけどさっき魔族の匂いがしたからかな。しかも、マサムネ君たちは知らないかもだけど、どこかのチームにスパイを紛れ込ませるのは魔王フォビアの常套手段なんだ」
この人の言っている事をすべて信じるのなら、やはり内通者がいるのか...
「あ、でももしあなたが...」
「まず敬語やめよっか」
「あ、はい...で、本当に君がクネーラなら俺らの中にいる内通者なんてボコボコにできるんじゃないの?」
「それはそうだけど、マサムネ君たちがいると人質に取られかねないし、その内通者も魔族の匂いをほぼ残してないとこを見ると、結構な手練れだと思うからいい勝負になる気がする」
「伝説種と互角の奴が俺らの中にいるのか...」
「まぁ、私が伝説種の中でも武闘派ではないからね。でも、マサムネ君とかと比べたら天と地の差があるよ」
レベル1の俺にめちゃくちゃドヤ顔をしてきていて、少しイラっとした。本当にこんな人が本にのっていた伝説種なのだろうか...
「あ、言うの忘れてたけど、明日の朝にはもうここを出たほうがいいよ」
「なんでだ?」
「相手は私のことを見たら一発で私ってわかるし、マサムネ君のスキルは魔物を従えることができるっていう、私が生きてきた中でも見たことがないスキルなの。だから、どんな手段を使ってもマサムネ君を殺しに来ると思う」
幸いにも、俺のスキルは誰にも教えていないため今殺される心配はない。クネーラの言う通りひとまずは、一人行動してみてもいいかもしれないな。
「わかった。明日の朝ここを出て、一人で色々してみてから仲間のとこに戻るか考えるよ」
「よかった!この町をでるまでは私がマサムネ君のボディーガードをしてあげるから安心してね」
「ありがとう。じゃあ、疲れたし寝るわ」
「おやすみー!」
急に異世界に来るわ、自称伝説種のよくわからん女の子来るわ、俺らの中に内通者いるわでイベント多すぎるだろ。明日からのためにしっかりと寝よう。この先どうなるんだろう...