6 現世に帰る方法
同時刻、プロティフ草原にて。
「ご報告です。レッカ隊長!目撃情報のあった、冒険者狩りが倒れています!」
「何?倒れているだと?」
ありえない...ここには冒険者になったばかりのものが集う場所だ。たまたま、強者と接敵したのか?
いや、だとしたら速度にステータスを振っている冒険者狩りが倒されるわけがない。わざわざ、戦わずに全力で逃げるはずだ。
「隊長...何かわかりましたか?」
「...外傷がない。しかも、顔の周りがヌメヌメしている」
ますます妙だ。この草原にはよくスライムが出るが、スライムに倒される例は、子供がちょっかいをかけて窒息死させられる以外に聞いたことがない。
この死に方ではまるでスライムに倒された後ではないか。
「一旦、この死体を持って帰れ」
「はっ!!」
興味深い...ぜひこいつを倒した者に会ってみたいものだな。
一方、都市ミレアスにて。
「はっ、ハックションッ!!!」
...今絶対誰かに噂されたな。多分、宿に残ってるやつらだろうな。
てか、結局何も情報集められなかったな。絶対なんか言われるなこれ。しゃあない、とりあえず合流して適当にごまかして今日は寝よう。色々起きすぎて疲れた。
そして、俺は宿屋に向かい集合時間になるまで二人の到着を待った。時間が過ぎていき、気がつくと集合時間を越えていた。そのため、少しウトウトしていると遠くから聞き覚えのある声が聞こえてきたため、出迎えに行った。
「お前ら遅いって!」
「あれ、もしかして時間通りに着いてた?」
「あ、当たり前でしょ」
「マサムネ君が時間通りに来れるって偉いね!」
皮肉たっぷりのカウンターに思わず空を仰いでしまった。二人が目を合わせたあとに、こちらを見てニコニコと不気味な笑みを浮かべている。さっきの冒険者狩りより怖く見えるのは何故だろう。
「じゃあ本題に入るけど...」
「あ、まず、僕からいい?」
普段、自分から進んで発言をするイメージのない、信玄がそう言った。
「なんかあった?」
「まずこの世界の冒険者達から色々と聞き込みしてわかったことがある」
「ほうほう」
「それは、この世界には僕ら以外にも転移してきた奴らがいるってことだ」
俺はとても衝撃を受けた。が、逆にとらえるとやはり、ここが異世界だってことを裏付ける証拠とも受けとれるな。
「そして、そいつらは僕らみたいにチームを作って魔物や魔族を討伐しているらしい。確か、名前が『星屑騎士団』とかいってたっけな」
「じゃあそのチームとコンタクトをとってみたほうがいいのかな?」
「それがそう簡単な話でもないっぽくて...」
「何かあんの?」
「この町の住民や冒険者に聞いた感じ、いろいろ悪いこともやってるぽくて、今関わるとろくなことになんなそう」
なるほどな。今こちらの情報が不足している限り不用意に近づくのは危ないか。
「でも、なぜ悪いことやってんのにチームを解散させられたりしないんだ?」
「そこなんだけど、いわゆる僕ら異世界人はユニークスキルを基本二つ持っているらしくて、ここだと一つ持ってるだけで相当珍しいらしいんだとよ。実力は置いといて」
だから、国とかも強く出れないってわけか。少なくとも、モンスターを倒したりはしてると思うしな。
「そーいえば、マサムネ君とシンゲン君のユニークスキルってなんだったの?」
「僕は『星雲』と『天の声』だね」
「え、私も『天の声』あるよ?てことは...」
「もちろん、俺も持ってるな」
つまり、俺らは1枠確定でナビってことか。俺らと違う方法で異世界転移してきたやつらはどうか知らないけど、実質ユニーク一個持ちって感じっぽそう。
「ちなみに、私のもう一つは『大樹』だよ」
「俺は『図鑑』ってやつだね」
「『図鑑』?全く想像できないスキルだね」
「まぁ、今後のお楽しみってことで」
普通じゃモンスターをテイムすることできないと思うし、召喚してるとこ見させたらこの二人めっちゃ羨ましがるだろうなぁ。
「話それたけど、恵梨香はなんかわかったことあった?」
「ふっふっふ...よくぞ聞いてくれた。私は大発見をしてしまったよ...」
俺らは固唾を飲み込み、恵梨香のほうをじっと見つめた。
「それは、現世に帰る方法だよ」
「まじ!?」
「うん、あくまで私の推測も交えてだけどね」
「どうすれば帰れるの!」
信玄が食い気味に恵梨香に聞いた。それもそのはずだ、信玄はもともといた世界で自分に夢であるゲームプログラマーになっていたはずだ。最初出会った頃も、夢があるってずっと言ってたしそりゃ必死になるのもわかる。
「まぁそう焦んないで。まず、私は図書館に行って色々書物を見たり、司書さんに質問したりして、この世界のどこかにゲーム名と同じ、『エレフセリア・アルカディア』という理想郷があるということを知ったの」
「それと現世に帰れることは何の関係があるんだ?」
「それがね、魔王もさっき言った星屑騎士団もその場所を探しているらしいんだ」
確かにそれは怪しい。ゲーム名と一緒なだけあるから一応そこが一番の有力候補になるか。
「じゃあ、そこを目指してみんなで出発しよう」
「いや、それは難しいと思う。私たちが来る前までに『エレフセリア・アルカディア』が見つかってないんじゃ私たちがどれだけ探したって少なくとも20年は掛かると思う。しかも、まだ内通者が誰かわかってない状況で動くと、相手はこっちの世界に慣れているはずだから人数差はあれど絶対不利になる」
「でも...」
「俺も、恵梨香の意見に賛成だ。内通者がいるなんて信じられないけど、ただでさえ死ぬ可能性が今までより高いから常に最悪を想定して動くべきだと思う」
「...わかったよ」
「ま、俺は会社行きたくないしここにいたままでいいけど」
「私も、現世に帰ってもニートするだけだしね」
「でも、信玄の夢のために俺らは全力で協力するよ」
「もちろん私もできることなら何でもする!」
「お前ら...!そんなこと言えるまで成長したんだな...」
そう言って信玄は目を隠していた。俺らは目を合わせて思わず笑ってしまった。普段の信玄からは想像できないギャップでなんだか面白くなってしまった。
「とりあえず、今日は寝るか」
「そうだね!明日から頑張らないとだしね」
「マサムネもなす姉も改めてありがとう。じゃあ、おやすみ」
「うん、おやすみー」
「おやすみー...」
寝る前の挨拶をして二人は部屋に戻っていった。俺は少し今の話を整理したいと思って少し立ち止まっていた。あれ?何か忘れているような。
「おい!そこの兄ちゃん!」
すると、宿屋の受付のおっちゃんが話しかけてきた。
「え、どうかしましたか?」
「あんた、部屋の予約とってないだろ」
「あ、忘れてた...」
「よかったな、最後の一部屋空いてるぜ」
「あぶねえ...じゃあその部屋で!」
「一人部屋じゃなくて二人部屋だから、一泊3万ゴールドな」
「うそでしょ、全財産なんですけど」
「泊まるも、泊まんないも自由だけど野宿は危ないぜぇ?」
「...っく、じゃあその部屋...」
「すみませんー!私がこの人の分も払うんで、そこに泊めてください!」
全財産を払おうかと思っていた時、後ろの方から女性の声が聞こえ振り返ると、そこには図書館で手が触れ合った女性がいた。てか、いまなんて言った?
「それなら文句ねぇよ。部屋は階段上って右奥にあるから」
「わかりましたー!」
なにが起こっているのか分からないまま謎の女性に手を引っ張られて部屋まで連れて来れられてしまった。これからあらぬ疑いかけられたりしないよね...?