3 裏切り者がいる
「マスター、全体チャットに新規メッセージがあります」
お、ようやくきたか。メニューを開き全体チャットを確認する。
『みんなチュートリアル終わったー?』
この『kenji0』ってIDの人はケンジ君だな。てか、ほかのメンバー息してるか?全員ニート極めてるやつばっかだから時間通りに来るのか少し心配だな。とりあえず、返信しとこう。
『俺は終わったよー!一旦集合場所決めよっか。他の奴らはまだのんびり質問に答えてる最中でしょ』っと。
『いや、普通におるわ。あんまなめんな』
すると、『Singen_mochi』というユーザーが返信してきた。
『え!?信玄いるやん!生きてたんだお前...』
『勝手に殺すのやめてもろて』
こいつは、初期メンバーの望月信玄で、シンゲンモチというIDを多用している。みんなからもっちーと呼ばれている。
俺がMMO初心者のころに『トワイライト・ワールド』で、操作方法を教えてもらったり、強敵を討伐する手助けをしてもらった色々お世話になった人だ。最近、クランのグループでも話してないなと思ってたけどまさか今日来るなんて...
『盛り上がってるとこ悪いんだけど、私らたまたま合流したからお城?の前まで来れる?三人とも。気づいてるかもだけど、少し違和感があるから早くね』
そう返信してきたのは『n4suno._.soldier』というIDのユーザーだ。
『了解。俺のオフ会30分遅刻更新しないように頑張る』
『なんでマップ機能あるのに迷う前提なの..呆』
この人も初期メンバーの一人で本名が那須野恵梨香で、なすの兵士というユーザーネームを愛用している。クラン内でも珍しい女性枠だからかクランの男どもがこぞって狙っている。面倒見がいいのでなす姉と呼ばれることが多い。
ちなみに、俺含め初期メンは本名バレしているのでお互い、いつしか本名で呼び合うようになったため、俺は恵梨香と呼んでいる。そのせいで、クラメンから白い目で見られている気がするけど...
クラン名がセンゴクになったのも、シンゲンモチのシンゲンをとり武田信玄、俺の名前のマサムネをとり伊達政宗、なすの兵士のなすのをとり那須与一と見立て、センゴクという名前に決定した。それから入ってきたメンバーは武将の名前に寄せてくれたりしている。
とりあえず、言われた通りにマップを開き城がある場所を目指して歩き出す。しかし、恵梨香の言っていた違和感って多分キャラクリがなくて、リアルの自分の顔になってるとかだよな。幸い、この前オフ会したばっかだから顔はわかるけど、どうしたものか...
「その集合時間というのは何時なのでしょうか?」
「ん?あぁ、えっと19時30分だったかな?」
「非常に申し上げにくいのですが、ここから歩いてミレアスの城を目指すとなると推定到着時刻は19時40分ほどとなってしまい...」
「え?うそでしょ」
「さらに、私とマスターの方向感覚を合わせると20時30分を超えると想定できます」
「短くなるどころか長くなってんじゃねぇか...」
そうして、俺は猛ダッシュで目的地へ向かうことにした。
走ること20分ほどしたところで、ようやく遠くに城が見えてきた。そして、お城の前にちょっとした人だかりができているのを発見する。
「おーい!こっちこっちー」
すると、見覚えのある顔がちらほらこちらに手を振ってきている。
「さすがに目の前まできたらどこに行けばいいのかくらいわかるっつーの...」
俺はボソッと独り言のようにそう、呟いた。
「おまたせー。ってこれで全員?」
そこには俺含めて8人しかいなかった。センゴクの人数は20人以上いるはずだし、このゲームを起動する前に呼び掛けたときは13人くらいはリアクションがあったはず。
「私もそれっぽいユーザーネームのやつに個チャ送ってるんだけど、フレンド申請すら通されないんだよね」
普段なら、恵梨香からフレンド申請が来たらみんな喜んで承諾するはずなのに、それはおかしい...
「あと、政宗君は気づいてるかもしれないけど」
「もしかして、リアルの顔のまんまのこと?」
「それもそうだけど、メニューを開いても宿屋に行ってもログアウトする方法がどこにもないんだよ」
「え?」
言われてみればメニューの項目にログアウトがなかった。宿屋は確認してなかったけど、現代のゲームでわざわざセーブとログアウトをそこでさせることはないだろう。
「あと、極めつけは...えいっ」
「痛っ!急になにすんだよ!」
「ほら、痛みを感じたでしょ?」
「あ...」
確かに、たとえフルダイブ型MMOだとはいえ痛みも現実と同じレベルで感じてしまったら、致死量のダメージを喰らったときに精神状態がおかしくなってしまうはずだ。いくら、俺らがゲームがうまいっていっても所詮寄せ集め集団である以上、この問題はゲームの進行上看過できないな。
「だから、私たちはこう結論付けた。私たちは『エレフセリア・アルカディア』の世界に入ってきてしまったと」
非現実的だ。と、言いたいところだが俺が感じていた違和感もプラスするとどうにも説得力のある仮設に成り上がってしまう。ただ、エレアルの世界にしてはまだ少しおかしいような...
「あ、でもさっき図書館で情報収集してた時に、事前情報にはない魔王の情報と、モンスターの最高ランクの伝説種っていうのが新たにあって、こんな面白い情報をわざわざ隠すとは思えないんだよな」
そうだ、出したらさらに盛り上がるような情報を隠す意味はない。だから、エレアルの世界ではないんじゃないか...どこか別の世界に来たというのは同意見だけど。
「マスター、少しよろしいですか?」
すると、チュートリアルの時と同じく眩い光に包まれまたも白い空間に飛ばされていた。
「ちょっとナビさん!今急に俺がどっか消えたらみんな混乱するでしょ?しかも、チュートリアル終わったはずじゃ...」
「ご安心ください。この空間は正確にはマスターの意識のみが存在しているので、元いた場所での時間の進行は起きません」
つまり、ここにいる間は外の世界の時間は止まっているということになるのか。
「で、なんでまたここに俺を飛ばしたの?」
「はい、私もマスターの思考を読み、ご友人方のお話を聞いていく中で疑問点が少々あったため、なにかお力になれればと思い、この空間に呼ばせていただきました」
ありがたいけど、このナビ結構ポンコツだからなぁ。大丈夫かな。
「失礼ですよ」
「あ、そっかこれも聞こえちゃってるのか。ごめん」
「...では、本題に入りますね。マスターは今異世界から召喚されている状態だと思います」
「ん?まてまて、異世界?」
「はい、マスターの記憶を勝手に覗かせていただいたのですが」
「さらっと、常識の範囲外のことしてるな...」
「私がマスターをここに飛ばしたときのように、ゲームを始めた最初のほうで眩しい光に包まれたと思います。それは、私たちの世界では『ワープ』というスキルなどを使用した際に見られる現象です。つまり、何らかの原因でこの世界にワープした。もしくは、させられた、と考えています」
「させられた?」
「はい、私の考えではこれは人為的に引き起こされたと睨んでいます」
「つまり、誰かが俺たちを陥れたってこと?なら、制作会社しかできないと思うけど」
「そう考えるのが自然の摂理ですが、クランメンバーの中にこの一件に深く関わっている人物がいると思われます」
「あいつらの中に?」
先ほどからいろいろと信じられないことが起こっているが、一番それは信じられない話だ。信用度でいえば直近でクランに入ってきたケンジ君もとても信用しているし、俺があまり関わっていない人でも恵梨香や信玄と仲良いはずだから、信用できない人物など一人もいない。
「はい、マスターの世界の詳しいことは私にはわかりかねますが、わざわざゲームを提供している側がそんなことをするメリットがないと思うのと、先ほど図書館にて読んでいた魔王フォビアに関する本の中に不自然に消されていると思われる部分があり、その部分の解析を行った結果、魔王フォビアが過去にそれらしき発言をしていることがわかりました」
「魔王が...?一体なんて書いてあったんだ?」
「魔王フォビアはこのように発言していたそうです。『来る日に、異なる世界の勇者たちを召喚する。異なる世界の協力者が貴様らを混沌へと導くだろう』と」
信じがたいけど、それなら裏切り者がいると考えてもいいのか...?そもそも、魔王がわざわざそんなことをする目的はなんだ。どのみち、一人行動をしたほうがこの世界に適応できるはずだから、基本一人で行動するべきか。いたとして、裏切り者は一体誰なんだ...
「一通り話したところでひとまず現実世界に戻りますか?」
「そうだな。色々疑問が残っているが、一旦戻してくれ」
「かしこまりました。また、何かありましたら呼んでください」
「ああ、よろしく頼む」
すると、目の前が光で包まれ、元の世界に戻ってきた。
「政宗君、急に手で顔覆ってどうしたの?」
「あぁ、なんでもない」
この光にも慣れないと突然変な行動してるやつみたいだから恥ずかしいな。
「そう?てか、これからどうしよっか...」
「とりあえず、俺と恵梨香と信玄で情報収集して、他のみんなは宿屋で待機って形でいいんじゃないかな」
メンバーが信用できないなら一番信用している初期メンだけにはこのことを共有したほうがよさそうだ。動くにもこの二人がいればまず間違いないだろうし。
「私はいいけど信玄君は大丈夫?」
「...まぁいいけど」
「よし、じゃあそれで決定で!各自解散!」
次回から本編の第一章がようやく始まるので乞うご期待!
一話ごとの文章量少し減らそうと思うので、もうちょっと見やすくなると思います...