第9話 俺たちは諦めない
前半終了のホイッスルが鳴る。選手たちは汗を拭いながらベンチへと戻ってきた。
「はぁ……はぁ……やっぱり手強いな、臼井は……」
裕樹が肩で息をしながらベンチに座る。
「橘のスピードが想像以上だ。もっと早く潰さないと後半やられるぞ」
田島が冷静に状況を分析する。
「守備の連携がちょっと乱れてるな。俺たちがもっと上手く間を詰めないと」
正道が周囲を見渡しながら言った。
修也はペットボトルの水を口に含みながら、ふと観客席の方を見上げる。
(夕香、ちゃんと見てるかな……)
そんな修也の様子に気づいた裕樹が、肘で小突いてくる。
「おいおい、試合中に気を取られるなよ?」
「別に……気を取られてねぇよ」
阿久津が戦術ボードを手にしながら選手たちの前に立った。
「前半はよく戦ったが、臼井高校のプレッシャーは想定以上だった。後半はよりコンパクトに守備を固め、速攻を狙っていく。修也、お前の突破力を最大限に活かすぞ」
「了解です!」
「田島、橘にはもっとタイトにつけ。簡単に前を向かせるな」
「任せてください」
「そして、相川。お前のキープ力と展開力が鍵になる。後半はより前線へのサポートを厚くしろ」
「わかりました!」
「……では各自、全力を出し切れ!」
「はい!」
後半開始直後、光星学園は勢いよく攻めに出る。
修也がドリブルで持ち込み、正道とワンツーパスを交わしながら前線へ。
しかし、臼井高校の守備陣は冷静だった。
「ここからが本番だぜ!」
臼井高校のDF、椎名隼人が素早くスライディングタックルを仕掛け、ボールを奪う。
そのままボールは臼井高校のMF、本郷圭に渡った。
本郷は一瞬の隙を突き、前線にいる橘にロングパスを送る。
橘はスピードに乗りながら光星学園のディフェンスを抜き去る。
「まずい!」
正道が必死に戻るが、橘の足は速い。
「決めるぞ!」
橘はペナルティエリアに入り、思い切り右足を振り抜いた。
「ズドンッ!」
強烈なシュートがゴールネットを揺らす。
後半開始早々、臼井高校が勝ち越しに成功した。
「クソッ……!」
修也は悔しげに拳を握った。
光星学園のキックオフで試合が再開。正道が円陣を組み直し、チームに檄を飛ばす。
「まだ時間はある!俺たちのサッカーを貫けば、必ず追いつける!」
それに裕樹も続く。
「焦るな!相手は走り回ってる分、終盤にバテるはずだ。冷静に攻めよう!」
光星学園は徐々にペースを取り戻し、再びボールを支配し始める。相川が中盤で巧みにボールを回し、リズムを作る。
「右サイド空いてるぞ!」
裕樹がサイドバックの望月圭太にパスを送る。
望月はすかさず駆け上がり、クロスを上げる。
「キャプテン!」
正道が高く跳び、ヘディングでゴールを狙う。
「バシュッ!」
強烈なシュートがゴールネットを揺らした。
「ゴーーール!!」
スタジアムに歓声が響き渡る。
「よっしゃあ!」
修也と裕樹が正道に駆け寄る。
「ナイスシュートです!キャプテン!」
ベンチも総立ちで歓声を上げる。試合は振り出しに戻った。
「ここからが本当の勝負だな……」
修也は気を引き締め、再びピッチに目を向けた。
試合時間は残り10分。
両チームとも疲労が見え始めるが、勝負を決めるために懸命に走り続ける。
臼井高校はカウンターを狙ってきた。ボールは藤堂に渡る。
藤堂はボールを巧みに操りながら中央突破を試みる。
「止める!」
田島が藤堂の進行を阻もうとする。
しかし、藤堂は巧みなステップでこれをかわし、橘へパスを送る。
「まずい……!」
橘は一瞬の隙を突いてシュートを放つ。
「頼む、止めてくれ……!」
榊が必死に飛びつく——が、
「バシュッ!!」
無情にもボールはゴールネットを揺らした。
「ゴール……!」
臼井高校が再び勝ち越しに成功した。
光星学園の選手たちは悔しそうにピッチを見つめる。しかし、まだ試合は終わっていない。
「まだ時間はある……!もう一度、追いつくぞ!」
修也は仲間たちに声をかけ、反撃の準備を整えた。
試合時間は残り3分。光星学園は最後の猛攻を仕掛ける。
「全員前へ!」
正道が叫び、光星学園の選手たちは一気に攻め上がる。
裕樹が中央でボールを持ち、修也へスルーパスを送る。
修也はゴール前でボールを受けるが、椎名が体を寄せてくる。
「ここで負けられない……!」
修也は強引にドリブルで突破し、角度のない位置からシュートを放った——。
「バシュッ!!」
「うおおおお!」
スタジアムが沸き上がる。ボールはGKの指先をかすめ、ゴールネットを揺らした。
「ゴーーール!!!」
試合終了間際、光星学園が土壇場で同点に追いついた!
「やったぞ!」
修也は仲間たちと喜びを分かち合う。
ベンチの選手も歓声を上げ、会場は興奮に包まれた。
「これで延長戦だ……!」