第8話 俺たちは苦戦を強いられる
「……では各自全力を出し切れ!」
「はい!」
光星学園のスタメンがサッカーコートに向かう。
(いよいよか……)
決勝の相手は臼井高校。
前年度都大会準優勝校……2年連続決勝で試合することになった。
去年の都大会では自分はスタメンどころかベンチメンバーにも選ばれず、悔しい想いをした。それから努力した結果、この場に立つことができている。
(夕香も見てるのかな?)
修也が観客席の方を見る。人が多く、夕香を見つけるのは難しいだろう。
「ほらほら!六皇子君見てるよ!手振りなさいよ!」
「嫌よ!」
観客席で夕香は修也を見つめる。多分こちらに気づいていないだろう。
(あんたなら大丈夫。頑張って……)
そして、ホイッスルが鳴り、試合が始まった。
光星学園のキックオフで試合が始まる。
裕樹がボールを受け、素早く周囲を確認しながらパスを出す。
序盤から臼井高校のプレッシャーは強く、中盤でのボールの奪い合いが激しく展開される。
「くそっ、やっぱり簡単には崩せないな……」
臼井高校の選手たちは組織的なプレスで光星学園の攻撃の芽を摘もうとしていた。
しかし、エースストライカーの六皇子修也はそのプレッシャーにも臆さなかった。
彼の目は冷静にゴールへの道筋を探している。
「キャプテン!」
修也の声に反応し、正道が最前線で駆け上がる。
サイドを駆け抜けた修也に合わせ、裕樹がふわりとしたロングパスを送った。
修也が抜け出し、絶好のチャンスを迎える。
「いける……!」
しかし、臼井高校のDFが素早く寄せ、修也の前に立ちはだかった。
これ以上の突破は難しい。だが、修也は焦らない。
冷静にボールをキープしながら、逆サイドへ視線を送る。
「裕樹、頼む!」
修也はノールックで後方の裕樹へと絶妙な落としパスを出す。
裕樹はそれを受け、迷わずミドルシュートを放った。
「ドンッ!」
鋭いシュートがゴールに向かって一直線に飛ぶ。
臼井高校のGKが懸命に手を伸ばすも、指先をかすめてボールはゴールネットを揺らした。
「ゴーーール!」
競技場が歓声に包まれる。光星学園、ついに先制!
「やったぞ!」
修也と裕樹が駆け寄り、拳を突き合わせる。正道も満足そうに頷きながらチームメイトとハイタッチを交わした。
「まだ試合は終わってない!気を抜くな!」
臼井高校のキックオフで試合再開。
臼井高校のキャプテンであり、司令塔のMF・藤堂隼人がボールを拾い上げた。
彼の鋭い目が光星学園の守備陣を見据える。
「面白いな……でも、ここからが本番だぞ」
藤堂はスピーディーにゲームを再開し、臼井高校のエースストライカー・橘龍馬にスルーパスを通す。
橘は俊足を活かし、光星学園のDFを振り切りながらペナルティエリアへと突進した。
「まずい!止めろ!」
光星学園のDF、田島が必死に対応するも、橘は巧みなフェイントでかわし、右足を振り抜く。
「ズバンッ!」
強烈なシュートがゴールへ飛ぶ。
光星学園のGK・榊が飛びつくも、わずかに指先をかすめてボールはゴールネットを揺らした。
観客席が再び大きくどよめく。
臼井高校の選手たちが歓喜し、藤堂と橘がハイタッチを交わした。
「さあ、ここからが勝負だな……」
試合は振り出しに戻った。勝利の行方は、まだ誰にも分からない。
光星学園はすぐさま反撃を開始した。
裕樹が中盤でボールを持ち、相手のプレスを巧みにかわしながら前線へパスを送る。正道が胸トラップでボールを収めた。
「修也、抜けろ!」
正道は巧みにディフェンダーを背負いながら、修也へスルーパスを放つ。
修也が反応し、全力で走る。
しかし、そこに立ちはだかったのは臼井高校のDF・城ヶ崎亮だった。
「ここは通させない!」
城ヶ崎は見事な読みでパスコースを遮断し、スライディングでボールをカットする。即座に藤堂へ繋ぎ、臼井高校がカウンターに出る。
「橘、行け!」
藤堂のスルーパスを受けた橘が一気にトップスピードに乗る。
光星学園のDF陣が対応するが、橘は巧みなドリブルで間をすり抜け、再びシュートチャンスを迎えた。
「今度こそ逆転だ!」
橘が豪快にシュートを放つ。しかし、今度はGK榊が鋭い反応を見せた。
「させるか!」
榊の好セーブにより、ボールは弾かれ、光星学園は窮地を脱する。競技場が大きく沸く中、試合はますますヒートアップし、前半が終了した。