第7話 俺はあの子に勇気をもらった
とある日。『東京競技場』ではサッカーの都大会準決勝第2試合が行われていた。
対戦は前年度都大会優勝校の光星学園と東京都ベスト4の日没高校。
現在、試合は1-1。後半も残りわずかになっていた。
修也は、汗を拭いながらピッチを見渡す。相手DFは厳しくマークを続け、なかなか思うように動けない。それでも修也の目は闘志に燃えていた。
「修也、ラストチャンスだ!」
中央でMFの裕樹が、力強く声をかけた。修也は小さくうなずき、瞬時に動き出す。
サイドでボールを受けたのは、正道。
経験豊富な彼の視線は、相手DFのわずかな隙を逃さなかった。
「修也、走れ!」
正道が放ったクロスボールは、絶妙な弧を描きながらゴール前へ。
修也は相手DFを振り切り、飛び込む。
その瞬間、日没高校のGKが素早く前に出る。しかし、修也は冷静だった。
「もらった!」
彼は左足でトラップし、ワンタッチで右足に持ち替えると、わずかなスペースを見つけてシュートを放った。
ボールはGKの伸ばした指先をかすめ、ゴールネットを揺らす。
「ゴーーール!」
歓声が競技場を包み込む。
「やったな、修也!」
裕樹が駆け寄り、喜びを爆発させる。正道も拳を突き上げながら駆け寄った。
「お前たち!よくやってくれた!」
阿久津は控室のサッカー部員に激励の言葉をかけた。
「特に六皇子!お前の最後のシュートは非常に素晴らしかった!」
「キャプテンのおかげですよ。俺を信じてゴール前にパスしてくれたから」
「お前ならできると思ったからな」
正道が水筒の水を飲みながら修也に近づく。
「だが……今日の俺たちじゃ都大会優勝はできない。そう感じた」
「大桑の言う通りだ。前半のミスが多すぎた。大桑が守備、六皇子が攻撃に徹したからよかったものの決勝ではそういうわけにはいかない」
「ですね……俺のレベルがまだ低いことを痛感しました」
裕樹がタオルで汗を拭きながら答える。
「決勝までは残り二週間ある。各自トレーニングを怠らないように」
「はい!」
修也が電車で帰路についていると着信音が鳴る。
スマホを見るとメッセージが表示されていた。
『勝った?』
送り主は夕香だった。
『勝ったよ。決勝も絶対勝つから応援よろしくな!』
『わかった。サッカー部を応援する』
『俺も応援してくれると嬉しいんだけど……』
『がんばー』
『軽くない?』
修也がクスッと笑っているとまたメッセージが届く。
『あんたならいけるでしょ』
そのメッセージは緊張していた修也の心を和らいだ。
『ありがとう!』
二週間後。東京競技場には多くの人が集まっていた。
(すごい人だかり……)
夕香は人混みに少し驚いていた。
「やっほ~夕香!」
夕香が振り向くと美紀が手を振りながら近づいてきた。
「美紀⁉どうしてここに?」
「えへへ……ちょっとね……」
「何よ?教えて」
「それより今日の夕香可愛いね!麦わら帽子に白いワンピース……まるで誰かとデートに行くことを想定したファッションみたいで」
「で、デートじゃなくて都大会優勝祝いよ!」
「別に私はそういうファッションみたいだねって言っただけだけど~?」
(ぶっとばしたい~!)
夕香はニヤニヤしている美紀を恥ずかしさとイライラが混ざった表情で見つめる。
「早く行こうよ!席取られちゃう!」
「あっ!ちょっと!」
夕香は入っていく美紀を慌てて追いかけた。
控室で修也は高まる心臓の鼓動を抑えるために深呼吸していた。
(大丈夫……俺なら大丈夫……)
すると誰かに背中を軽く叩かれる。
「緊張してるのか?」
「キャプテン……」
「俺たちなら大丈夫だ。二週間練習を頑張ったじゃないか」
「そうですね」
「勝利にこだわるな。都大会決勝という貴重なステージを全力で楽しめ」
「……!はい!」
控室にスタッフが入ってくる。
「光星学園の皆さんは入場の準備をお願いします!」
「行くぞ」
「はい!」