第5話 私はあいつの好きな人を知った
「そのままの意味よ。私はあんたなんか大っ嫌い。二度と話しかけないで」
そう告げてから夕香は修也と話していない。
休み時間や昼休みも二人の目が合うことや話すことはなかった。
放課後に夕香が家庭科室に向かっていると目の前に麗奈がいた。
「あんたたち本当に別れたんだね」
「別れたって……付き合ってないって信じたんじゃないの?」
「メールなんかで信用するわけないでしょ。後からいくらでも言えるんだから」
「……」
「じゃあもう六皇子君に絡まないでね。私が彼を支えるから」
「あっそ」
夕香はそのまま家庭科室に向かう。それを麗奈は嬉しそうに見つめていた。
「はぁ……はぁ……」
修也は練習が疲れてベンチに座っていた。
(夕香……なんであんなことを……俺何か嫌われるようなことしたのか?)
「六皇子君!」
修也は声がした方を向く。
(もしかして夕香⁉)
しかし、声をかけたのは夕香ではなく麗奈だった。
「えっと……」
「いきなり声をかけてごめんね。私は朝比奈麗奈。六皇子君のファンなの!」
「そ、そうなんだ」
「これ私の手作りカップケーキ。よかったら食べて!」
「ありがとう……」
「じゃあね!」
麗奈が去ると、修也はカップケーキが入った袋を見つめる。
(いつもなら夕香が何か持って来てくれるのになぁ……)
翌日。休み時間になると教室に麗奈がやってきた。
「六皇子君いる?」
「えっと……朝比奈さん?」
「麗奈でいいよ。今日、放課後空いてる?」
「空いてるけど……」
「もうすぐテストでしょ?六皇子君成績良いから教えてほしいなぁ~」
「わかった。じゃあ図書室で勉強しようか?」
「やった~!楽しみにしてるね!」
麗奈が夕香をチラッと見る。夕香と目が合うと微笑みながら教室を去った。
するとクラスメイトたちが修也に近づく。
「六皇子羨ましいぞ!学年一の美女って言われている朝比奈さんと勉強なんて!」
「いつからそんな関係になったんだ⁉」
「別に仲良くないよ。昨日カップケーキを貰っただけで……」
「マジか⁉朝比奈さんの手料理を⁉」
「羨ましい~‼」
男子たちが叫んでいるのを夕香は黙って聞いていた。
放課後、修也が図書室に行くと麗奈がいた。
「あっ!六皇子君!」
「ごめん。ホームルームが長くなっちゃって」
「いいよ全然!それより数学でわからないところがあるんだけど……」
「わかった。じゃあ教科書とノートを広げて」
修也と麗奈の勉強会が始まった。
「これ、お願いします」
夕香は借りていた本を図書委員に返却した。
(早く帰って勉強しよう)
夕香が図書室を出ようとすると麗奈の声が聞こえた。
「ところで六皇子君って好きな人いるの?」
「えっ……?急にどうしたの?」
「なんとなく気になっただけ」
(馬鹿馬鹿しい……帰ろう)
夕香が帰ろうとした瞬間、修也は口を開いた。
「いるよ」
「へ~!誰なの?」
夕香は気になったのか足を止めた。
「その人はさ……優しくて……いつも俺のこと応援してくれて……ジュースとかを持ってきてくれてさ。笑ったら顔が可愛くてさ……」
それを聞いた麗奈の手が震え始めた。
「へぇ……それってもしかして……浅田夕香って人?」
「……うん」
すると麗奈が突然、勉強道具を机から落とした。
「麗奈?」
「ふざけないで!あんな女のどこがいいのよ!」
「落ち着け!急にどうしたんだよ!」
「あんな女と六皇子君が釣り合うわけないじゃない!だからあの女と六皇子君の関係を切らせたのに!」
「それ……どういうことだ?」
「だから!あの女と六皇子君が関わっていたら六皇子君の価値が低くなるじゃない!関わるなら学年一の美女である私が……」
「そうか……よくわかった」
修也は自分の勉強道具を鞄に直し始めた。
「ちょっと!何帰ろうとしてるのよ!」
「人の価値を勝手に決めるような人とこれ以上一緒に居たくない。さようなら」
修也が鞄を持ち、立ち上がると夕香と目が合った。
「夕香。一緒に帰ろう」
修也は夕香の手を掴むと、一緒に図書室を出た。
「……」
「……」
一緒の道を歩いているが、二人は黙ったままだ。
「あのさ……」
修也が口を開く。
「さっきの話聞いてた?」
「……あんたが麗奈を振ったところからなら」
「そっか……嫌なことを聞かせてしまったな。その……気づけなくてごめん」
「別に。あんたのこと嫌いなのは事実だから」
夕香は麗奈の発言を思い出す。
(そうよ。私と六皇子は釣り合わない。付き合ったらきっと周りから非難される。だから私はあんたを嫌い続ける。これ以上あんたに迷惑をかけたくないから……)