第2話 俺があの子に絡む理由
「修也行け!」
修也の足元にボールが渡る。修也がドリブルすると二人の選手がブロックに入る。
しかし修也は冷静だった。
視線を一瞬だけ左に送り、フェイントで左サイドに切り込むような動きを見せる。
相手の選手たちはその動きに反応し、体重を左側に傾けるがその瞬間、修也は素早く逆方向へ切り返し、一気に右サイドへ突破を図る。
「マジか」
「あの動き……読めねぇ!」
ゴール前に迫ると、ディフェンダーが最後の壁となって立ちはだかる。
しかし修也は、ディフェンダーが近づく瞬間に足裏でボールをコントロールし、ルーレットターンで相手を抜き去る。
「今だ」
修也はゴールの右寄りに鋭いシュートを放つ!
ボールはキーパーの指先をかすめてネットを揺らした。
「修也!凄ぇじゃん!」
チームメイトの相川裕樹が修也に近づく。
「あの動きは真似できねぇよ!」
「裕樹。ナイスパス」
「六皇子く~ん!」
校舎から女子生徒たちが手を振っている。
修也が手を振り返すとキャ~と歓喜の声が上がる。
「いいなぁ~修也はあんなにモテモテで……羨ましいよ」
「そうか?」
「ってかこの前も告白されなかったけ?付き合ったのか?」
「ううん。断ったよ」
「えっ⁉なんで?」
「それは……」
「全員集合!」
顧問の声が響く。そしてグラウンドの中央にサッカー部のメンバーが揃う。
顧問の阿久津隆盛がメンバーを見つめている。
「お前らもわかっていると思うがもうすぐ都大会が始まる。そこで早速初戦のスタメンを発表する」
(都大会のスタメン……)
修也は胸をドキドキさせる。
「スタメンはさっきの練習試合をもとに決めた。まずはFWだ」
FWは修也のポジションだ。修也はゴクリと唾を飲み込む。
「FWはツートップ。大桑正道、六皇子修也」
よし!修也が静かにガッツポーズをする。
(選ばれた!遂に都大会のスタメンに!)
「―メンバーは以上だ。解散!」
「はい!」
修也はウォータークーラーに移動し、冷たい水を飲む。
「修也!都大会のスタメン選ばれてよかったな!」
振り向くとキャプテンの正道がいた。
「はい。キャプテンの指導のおかげです」
「よせよ。お前の努力の成果じゃないか」
「そんなことないですよ」
「それにしてもサッカー未経験だったお前が一年でここまで成長するとは……驚きだよ。試合は俺たちで攻めて、ゴールを決めるぞ」
「はい!」
(さて……俺も練習しないと……)
修也がグラウンドに戻ろうとするとベンチが視界に入る。
(そういえばあの時からだったなぁ……夕香に絡むようになったのは……)
一年前。
修也は走り込み練習に疲れ、ウォータークーラーで水を飲んだあとにベンチで休んでいた。
「はぁ……はぁ……サッカーするのにここまでしないといけないのか……」
グ~ッ。お腹の音がなる。
(腹減ったな。コンビニ行くか)
修也が立ち上がり、フラフラしながら歩くと誰かにぶつかった。
「うわっ!」
「キャッ!」
「すみません!前を見てなくて……」
「あれ?六皇子?」
「浅田か。こんな時間まで何残ってるんだ?」
「私、家庭科部だから……そうだ!」
夕香は鞄からクッキーを取り出す。
「これ……今日の部活で作ったクッキー。よかったら食べて」
「……いいのか?」
「うん!練習頑張ってね!」
修也は立ち去る夕香をじっと見続ける。
(浅田ってあんなに可愛かったんだ……)
修也は少し胸がドキドキしていた。
(あの時の夕香凄く可愛かったんだけど今は……)
ぶっ飛ばすよと言う夕香の怖い表情を思い出す。
(付き合ってる噂がなくなったらもとに戻るのか?でもそれじゃあ告白したときに付き合ってくれないよな~)
修也が考えていると誰かが近づいてくる。
「そんなとこで何やってるの?」
「夕香⁉どうしてここに⁉」
「調理実習だから時間かかるの。あんたもいる?」
夕香は鞄からスコーンを取り出す。
「いいのか?」
「まぁ……作りすぎたから」
「俺のこと嫌いなんじゃないの?」
「そうよ。私はあんたのこと大嫌い」
「改めて言われると悲しいんだけど……」
「でも……嫌いなのは皆がいる前で絡んでくるあんたで二人きりの時は……まぁ……嫌いではない……かな……」
「……!そっか……」
「何ニヤニヤしてるのよ」
「何でもない!ありがとう夕香!」
「下の名前で呼ぶな!」
修也は嬉しそうにグラウンドに戻った。
「修也遅いよ~!何してたの?ってかそのスコーン何?」
「……好きな人からのプレゼントだよ」