第15話 あの子がお見舞いに来てくれた
ホームルームが始まり、担任が出席を確認する。
「え~と……今日は六皇子が体調不良で休みと」
夕香が修也の席を見る。そこにはいつも話しかけて来る修也の姿がなかった。
(休みなんて珍しい)
今日は静かに過ごせそうだ。前ならそう思っていただろう。
(なんで私寂しがっているのよ……)
修也の席から目が離せない。授業が始まってもチラチラと見てしまう。
遅れて来るんじゃないかと期待してしまう自分がいる。
(私……あいつのこと好きなのかな?)
修也のことを考えてドキドキしている自分に戸惑っていた。
放課後になり、夕香は下校の準備をする。
(部活休みだしテストも近いから勉強しようっと)
教室を出ようとすると襟を誰かに掴まれる。掴んだのは美紀だった。
「夕香。今日六皇子君休みで授業集中できていなかったよね?」
「そ、そんなことないわよ」
「そんなに心配なら行ってみたら?」
「どこに?」
「決まってるじゃない!六皇子君のお家よ」
「はぁ⁉」
夕香は美紀の提案に驚いてしまった。
「そ、そんなこと言っても家知らないし……」
「大丈夫!裕樹から住所教えてもらったから!」
美紀から修也の家の住所が書かれたメモを渡される。
「好きな人がお見舞いに来てくれたら六皇子君も元気になるって!行ってあげな!」
(来ちゃった……)
夕香の目の前には『六皇子』と書かれた一軒家がある。
(とっと済ませて帰ろう)
夕香がインターホンを押す。
『はい?』
女の人の声がする。母親だろうか?
「六皇……修也君のクラスメイトの浅田夕香です。修也君のお見舞いに……」
『あらあなたが!ちょっと待ってて!』
するとドアから母親らしき女性が出てくる。
「あなたが夕香ちゃんね!修也から聞いてるわよ!」
「ど、どうも……修也のお母さんですか?」
「えぇ!修也の母の六皇子明美よ。よろしくね!」
「よろしくお願いします」
「ささ上がって!」
「お邪魔します……」
「二階に修也の部屋があるから入って待ってくれる?すぐにお茶とお菓子持って行くから」
「いえ!顔見たらすぐ出るので」
「いいのよ!あの子夕香ちゃんに会おうと無理して行こうとしたんだからそばに居てあげて」
すぐ帰るつもりだったがそう言われると断りにくい。
「わ、わかりました」
夕香が二階に上がり、ドアを開けると修也が眠っていた。
(寝てる……)
夕香は寝てる修也に近づく。
(寝顔……ちょっと可愛い……)
「うん?」
修也が目覚め、夕香がドキッとする。
「夕香?」
「あ、体調大丈夫?」
「夕香に会って今元気になった」
修也が起き上がる。
「もう少し寝てなさいよ」
「いや本当に大丈夫……」
そう言いながらも動きがフラフラしている。
「ちょっとどこが大丈夫なのよ」
夕香が修也を寝かそうとすると修也が抱きついた。
「えっ?」
「夕香……好きだ……」
夕香の頬が赤くなる。
「ち、ちょっと……六皇子……」
「夕香……」
修也は火照った顔で夕香を見上げる。
「俺と結婚してほしい……」
「!!!!!」
夕香の顔が更に赤くなる。
「俺じゃダメか……?」
「ダ、ダメっていうか……」
夕香が続きを言おうとするとドアが開く。
「夕香ちゃんお待たせ!ごめんね!お茶の準備に時間が……」
明美は修也と夕香を見て察する。
「ごめんね……取り込み中みたいで……」
「ち、違います!」
夕香が必死に否定する。
「こ、これは六皇子がその……」
「いいのいいの。若い内にイチャイチャしておいたほうがいいし」
明美はお茶とお菓子が載ったお盆を置き、部屋を出ようとする。
「修也!そういうことするなら避妊を忘れないでね」
「だから違います~~~~~!」
あの後必死に説明して何とか明美の勘違いを正した。
「そういうことだったのね。申し訳ないわ」
「いえ……わかってもらえたなら……」
「修也ね。夕香ちゃんの話ばっかりするのよ」
「そうなんですか?」
「凄く優しくて可愛いってうるさくて……よほどあなたのことが好きなのね」
「……」
「夕香ちゃん。息子のことよろしくね」
「え?」
「修也ってちょっとしつこいところがあるけど夕香ちゃんを本当に大切にしてるみたいだから」
「……はい」
「うん?」
修也が目を覚ますと部屋は真っ暗になっていた。
(熱下がってるな……)
修也がおでこに手を当てると熱さがなくなっていた。
「母さんお腹空いた」
修也がキッチンにやってくると明美は包丁でネギを切っていた。
「体調大丈夫?」
「うん」
「ならよかった。あと言いたいことがあるんだけど」
「何?」
「いきなり夕香ちゃんを襲ったらダメじゃない。女の子にも準備があるんだからね」
「夕香?」
そういえば夕香が来てくれた気がする。
心配してくれて……寝かせようとしてくれて……抱きついて……
(……全部思い出した)
修也は恥ずかしすぎて手で顔を隠す。
(俺めちゃくちゃ夕香に恥ずかしいことしてる!ってかプロポーズしてるし!)
「あぁぁぁぁぁ!俺を殺してくれぇぇぇぇぇ!」
修也の悲鳴が家中に響いた。