第14話 あの子が嫉妬しているらしい
夕香が登校していると後ろから誰かが走って来る音が聞こえた。
「おはよう夕香!」
「……おはよう。朝練は?」
「今日は休みなんだよ」
「そう」
「今日も夕香は可愛いな」
「な、何よ急に……」
「顔が真っ赤だけど照れてる?」
「照れてない!」
「でも……」
「それ以上言ったらぶっとばすわよ」
「怖……」
学校に着くと修也が誰かを見つけた。
「悪い!先行っててくれ」
「えっ?」
修也が走った方向を見ると、そこには飛鳥がいた。
「……」
「おはよう夕香!」
美紀が声をかける。
「……」
「夕香?」
「あっおはよう」
「何見て……」
美紀が修也と飛鳥が楽しそうに喋っているのを見て察する。
「夕香……一つ言っておくと六皇子君は悪くないよ。友達でいることを選んだのは夕香でしょ?」
「そうだけど……他の人を好きになっていいとは言ってないわよ……」
「何か言った?」
「何でもない」
夕香が不機嫌そうに教室に向かう。
「ま、待ってよ!」
美紀が慌てて夕香を追いかけた。
昼休みになり、夕香は修也と一緒に食べる予定だったが、キャプテンになったことで生徒会の会議に出席しなければいけないため断られた。
「……」
夕香が不機嫌そうに頬を膨らませている。
「夕香~。私が一緒に食べてあげるからさ、機嫌直してよ~」
「機嫌悪くないけど?」
「そんなに頬膨らませてるのに悪くないわけないでしょ!」
美紀が夕香の顔を掴む。
「んんんん~(離して~)」
「夕香って修也のこと好きなの?」
「わからない……でもマネージャーと楽しそうに喋ってるのを見るのは腹立つ……」
「好きじゃん」
「これって好きなのかな?」
「さぁ?私は夕香じゃないからわからない。その子が六皇子君が好きとは限らないし」
「そうだけど……」
「でも好きだったらどうする?」
「……!」
それを聞いて夕香の心がズキンと鳴った気がした。
「はぁ……こうなると分かっていたらキャプテンにならなかったのに……」
会議が終わり、修也は夕香と食べられずショックを受けていた。
(食堂でも行くか)
食堂に行くと券売機の前に飛鳥がいた。
「飛鳥ちゃん」
「ろ、六皇子先輩!」
「飛鳥ちゃんも食堂でご飯食べるんだ。毎日ここで食べてるの?」
「い、いえ……今日はお母さんが用事でお弁当がなかったので……」
「そうなんだ。よかったら一緒に食べようよ」
「いいんですか?」
「今日会議だったせいで一人なんだよね」
「そういえば今日は生徒会の会議でしたね」
「飛鳥ちゃんは何頼んだの?」
「私はコロッケ定食です」
「それ美味しそう。俺もそれにしようっと」
修也はコロッケ定食の食券を買った。
「いただきま~す」
修也は美味しそうにコロッケにかぶりつく。
「このコロッケ美味いな」
「そうですね」
「ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「何でしょうか?」
「飛鳥ちゃんはどうしてサッカー部のマネージャーになってくれたの?」
「実は私……何事も不器用で友達ができなったんです。運動もできないし勉強も得意じゃないし……何もできなくて絶望してた時に都大会の決勝を見たんです」
飛鳥は興味本位で都大会決勝を観戦していた。
接戦に興奮して思わず光星学園を応援していたあの日を思い出す。
「あの時に勝ち越されても諦めない先輩がカッコイイと思って……そんな人たちの力になりたいと思って阿久津先生にお願いしたんです」
「そうなんだ。不器用には見えなかったけどね」
「い、いえ!ユニフォームの洗濯もできなかったし……」
「最初は誰だって失敗するよ。失敗しない人なんかいないよ」
「六皇子先輩も失敗したことあるんですか?」
「あるよ。それに俺はサッカー未経験で強豪に入ったから一年の頃はスタメンになったことなかったし」
「そうなんですか……」
「でも正道キャプテンに教えてもらったり自主練したり……必死に努力してやっとスタメンに選ばれたんだ」
「すごいですね」
「俺一人じゃ絶対今みたいになれなかった」
修也は夕香と出会ったあの日を思い出す。
「飛鳥ちゃんがうまくマネージャーできるように俺たち部員もサポートするからさお互い頑張ろうよ」
「は、はい!ありがとうございます!」
修也と別れた飛鳥は再び都大会決勝を思い出す。
延長戦後半残り5分から追いついたあの瞬間を。
(カッコイイと思ったのは六皇子先輩なんですけどね)
優勝し、輝いていて見えた修也の顔が忘れられなかった。