第13話 俺たちの部活にマネージャーが入った
朝練で修也と裕樹がパスの練習をしていた。
「今日の修也ご機嫌だな」
「そう見えるか?」
「浅田と何かあったか?」
「秘密~」
「教えろよ!」
裕樹が修也に向かってシュートするが、トラップで勢いを殺す。
「今シュートした?」
「いいや、パスですが?」
「本当か?」
ホイッスルが鳴り、修也と裕樹が鳴った方向を見ると阿久津が立っていた。
「六皇子と相川!ちょっと来てくれ!」
修也と裕樹が来ると阿久津が話し始めた。
「3年はこの前の都大会で引退した。それは分かっているよな」
「はい」
キャプテンの正道を始めとするレギュラー主要メンバーが都大会終了と同時に引退することになり、修也は寂しさを感じていた。
「そこで六皇子をキャプテン、相川を副キャプテンにしようと思っている」
「俺がキャプテンですか⁉」
「あぁ。この前の大会でお前はチームの動きに連動できていた。周りの動きをよく見ているお前が適任と判断した」
「そうですか……」
「やってみろよ修也!俺もサポートするから!」
裕樹が修也の肩を叩く。
「わかりました。やってみます」
「それはよかった。あともう一つ言っておきたいことがある」
「何ですか?」
「新しくマネージャーが入ることになった。しかも1年だ」
「へぇ……サッカー部にマネージャーなんて珍しいね」
昼休み。夕香が修也の話を聞きながら弁当を食べていた。
「そうなんだよ。マネージャーなんか野球部にしかなかったのに」
「なんで入れることになったの?」
「先生によるとマネージャーになりたいって志願してきたらしい」
「この時期に志願するってことは都大会での活躍を聞いてなりたくなったのかしら?」
「それはわからないけど……」
修也は夕香の弁当箱から玉子焼きを取る。
「ちょっと!それ……」
「美味しい~!夕香の玉子焼き好きなんだよな!」
「だからって勝手に取らないでよ。2個しかないんだから」
「そう言ってもう1個は俺のためでしょ?」
「ぶっとばすわよ」
「それ聞くの久々だな」
放課後。修也はユニフォームに着替えるとグラウンドに移動する。
「今日……暑いなぁ……」
まだ6月なのにこんなに暑いとは……夏に恐ろしさを感じる。
「あ、あの!六皇子先輩ですか?」
振り返るとショートヘアーの可愛い女子生徒が立っていた。
「そうだけど?」
「わ、私……鸛飛鳥って言います。今日からサッカー部のマネージャーになった……」
「君がマネージャーか!よろしくね」
「よ、よろしくお願いします!」
飛鳥がペコリと頭を下げる。
「じゃあ早速部員に紹介するからついてきてくれる?」
「は、はい!」
「こ、鸛飛鳥です。よ、よろしくお願いします!」
「よろしくお願いします!」
修也と裕樹以外の全員が頭を下げる。それに飛鳥がビクッとする。
「お前らそんな大声で言うなよ。びっくりするだろ」
「だって六皇子……じゃなかった、キャプテン!マネージャーだぞ!お世話になるんだから!」
「だからってな……」
「お前ら飛鳥ちゃんに手出したら即退部にするからそのつもりで」
裕樹が親指を自分の首をズバッとする仕草を見せる。
「うっす……」
「いたのかよ。冗談だったのに」
「じゃあ早速飛鳥ちゃんにやってほしいことがあるんだけど」
「は、はい!」
家庭科室では家庭科部が裁縫をしていた。コンクールに向けた作品提出だ。
「痛っ!」
美紀が夕香を見ると親指から血が出ていた。
「夕香が怪我するなんて珍しいね」
「ちょっと集中してなかっただけよ……」
夕香が怪我した親指に絆創膏を貼る。
「もしかしてサッカー部にマネージャーが入ることを気にしてる?」
「なんで知ってるの?」
「裕樹から聞いた」
「美紀って相川と仲良いわね。付き合ってるの?」
「ご想像にお任せしま~す」
否定しないってことはそういうことなのだろうか?
「気にする必要ないんじゃない?六皇子君は夕香に一途だし」
「そうだけど……って気にしてないし!」
「あれれ~?顔真っ赤だよ~?」
「~!トイレ言ってくる!」
「あっ逃げた」
夕香が廊下を歩いているとグラウンドが視界に入る。そこには楽しそうに話す修也と飛鳥がいた。
(なんでだろう……凄くムカつく……)
夕香は見るのを辞め、トイレに向かった。