第12話 あの子からの返事
「俺……夕香のことが好きだ」
修也が真っ直ぐな目で伝える。
「俺と付き合ってほしい」
「……」
「……やっぱりダメか?」
「えっと……」
夕香は去年の麗奈の言葉を思い出す。
『あんな女と六皇子君が釣り合うわけないじゃない!』
麗奈の言葉は正しい。そう思い夕香は口を開いた。
「私とあんたじゃ釣り合わないでしょ」
「釣り合う釣り合わないって周りが勝手に思っていることだろ」
「でも……」
「もし夕香のことを悪く言う奴が現れたら俺がそいつに怒ってやる!」
「……!」
「あっごめん!付き合う前提で話しちゃって」
「……今日は返事を言えない」
「……そうか」
「だから……少し待ってほしい」
「……!わかった」
「ただいま~」
夕香が家に帰ると陽菜が出迎える。
「おかえり!お姉ちゃん今日デートだったの?」
「なんで?」
「だってお姉ちゃんが珍しくワンピース着ていたから」
「違うわよ。友達からサッカー部の応援に誘われただけ」
「な~んだ」
「ちょっと疲れたから休ませて」
「は~い」
夕香は部屋に入ると、力が抜けたように寝転がった。
「私はどうしたいんだろう?」
修也と付き合うのか。今の関係を維持するのか。気づいたら夕香は眠ってしまっていた。
月曜日になり、夕香が登校するとグラウンドで修也が練習していた。
(あんな朝早くからよく練習できるわね)
見続けていると修也が夕香の視線に気づき、手を振った。
本来の夕香なら絶対無視していたが恥ずかしそうに手を振り返した。
「おい修也!練習サボるなよ!」
「裕樹……聞いてくれ」
「なんだよ」
「夕香が……俺に手を振ってくれた……」
「マジか。あの鉄壁の女王が遂に修也に心を開いたのか⁉」
「鉄壁の女王って何?」
「浅田がずっとお前を避けていたからそれを見た男子がつけた異名だよ」
「それ聞いたら俺がしつこい奴扱いされてる気がする……」
修也が教室に入るとすぐに夕香を見つけ、挨拶する。
「おはよう夕香!」
「……おはよう」
夕香の挨拶を聞き、クラスメイトがざわつく。
「おい……聞いたか?」
「聞いた聞いた。あの鉄壁の女王が六皇子に挨拶するなんて……」
「あの二人に何があったんだ?」
昼休み。夕香は美紀と一緒に弁当を食べていた。
「ねぇ……六皇子君と食べなくてよかったの?」
「ちょっと話したいことがあって」
「どうしたの?」
「私と六皇子って釣り合うと思う?」
「……えっ⁉告白されたの?」
「うん……」
「そうなんだ!……でも釣り合うとか言われても何とも言えないよ。そんなの考えたことないし」
「そっか……」
「私はお似合いだと思うよ。いつくっつくんだろうってドキドキしてたから」
「……」
「でもあくまでもこれは私の意見。六皇子君と付き合うかは夕香が決めることだよ。じゃあトイレ行ってくる」
美紀が立ち上がり、教室を出る。夕香は美紀の言葉を決めて決意を固めた。
「今日の練習はここまで!」
「ありがとうございました!」
修也がタオルで汗を拭き、バッグを持つ。
「修也!一緒に帰ろうぜ!」
「あぁ……ごめんやっぱり無理。じゃあな!」
「お、おい!」
裕樹が呼び止めるが修也は走り去ってしまった。
「夕香!まだ残ってたのか?」
「……あんたを待ってた」
「おいおい。暑いから一言かけてくれれば」
「あんたが頑張ってるところを久しぶりに見たかったから……」
「それは嬉しいな。一緒に帰ろう!」
「で?俺の練習見ててどうだった?」
「まぁ……いいんじゃない?」
「なんだよそれ」
「どうって言われてもわからないじゃない。サッカー詳しくないから」
「それもそうか」
修也と夕香が黙ってしまい、気まずい時間が続く。
「その……この前の告白のことなんだけど……」
「お、おう……」
「やっぱり私はあんたと付き合えない」
修也は立ち止まる。
「そうか……」
表情が沈む。夕香が自分と付き合えないと言うなら仕方がない。潔く諦め――
「その……もう一度友達になってくれる?」
「えっ?」
修也は思わず夕香の顔を見る。
「ちょっと今は付き合う勇気がないから……」
「今まで友達じゃなかったの?」
「私はクラスメイトって認識だったから……」
「マジか~。それはそれでショック……」
「やっぱりこんな返事はダメかな?」
「いいよ!じゃあ改めて友達で!」
「うん」
修也と夕香は途中の道で別れることになった。
「じゃあ俺こっちだから。またな」
「う、うん」
修也は駅の方向へ歩き始めた。
「あ、あの!」
夕香が呼び止める。
「どうした?」
「またね……し、し、し……六皇子」
「お、おう!」
夕香は恥ずかしそうに帰っていく。
(何言おうとしたんだろう?まぁいいや)