弟の誕生に翻弄されたシャイン
手紙の部分をPCに合わせて書いているとスマホでは読みにくいようで修正しました。
手紙の部分は『』を使いました。
マーカス国は女性の地位がまだ低く女性は学校にも通えない国だった。
当然女性は爵位も継ぐことはできず、娘しかいない家は入り婿に爵位を渡すしか家の存続はできない。
アーバン伯爵夫妻は男の子が欲しくて、この時代に推奨されている産み分け方法を色々と試してはいたが、残念なことに女の子一人しか授からなかった。
アーバン夫妻はその一人娘をたいそう可愛がった。
まだ弟が生まれる可能性もあったし、女の子は何をやっていても可愛い。
が、一人娘のシャインが可愛いと言っていられるのもシャインが10歳までだった。
アーバン夫妻が目を逸らしていた現実に目を向け始め、シャインに婿を迎えねばアーバン家が途絶えてしまう。男の子が生まれるかもしれない夢はもう見ていられないと気がついた。
家が途絶えてしまうとシャインは平民になってしまうので、慌てて優秀な婿を探し始めた。
その甲斐あってかシャインが12歳の頃、一つ年上で学業の成績も優秀で、同じ伯爵家の三男というアーバン家にとってこの上もないほどいい婚約者、デェリーが見つかった。
王家の許しも得て晴れて婚約が整ったのはシャインが13歳になって少ししてからだった。
アーバン夫妻はこれで安泰とホッと胸をなでおろした。
気が緩んだのが良かったのか、あれ程頑張っていたのにシャイン以外授からなかったのに、ぽこりとアーバン夫人が妊娠した。
アーバン夫妻は「いや、まさか・・・」と呟きながら夫人が安定期に入るまで子が出きたことを話さずにいた。
夫人のお腹がぽっこりしてきた頃、アーバン夫妻も妊娠は事実だと受け止め、シャインに「お前に弟か妹ができる」と告げた。
この時シャインは弟妹ができたら自分の身がどうなるか想像も付いていなかった。
無邪気に「おめでとうございます」と両親に伝え、シャインは心から喜んでいた。
そして父に「弟が生まれたらデェリーとの婚約を解消しなければならない」と言われて「どうして?」と頭を傾げた。
「弟が生まれたらアーバン家を継ぐのは弟になるからだ」と説明されて「そんな・・・」とその場に泣き崩れ落ちた。
理解してからのシャインはそれは可哀想だった。
シャインはデェリーを好きになっていて、二人の結婚式を夢に見るほどだったからだった。
アーバン伯爵はデェリーの父親に面会して、妻が妊娠したこと、男の子が生まれたらその子が跡継ぎになることを伝えた。
デェリーの父親は「約束が違う」と腹を立てて文句を並べ立てたが、生まれてくる子が男の子ならアーバン家の跡継ぎになることは法律で決められたことなので致し方なかった。
アーバン伯爵はシャインとデェリーの婚約撤回の書類にサインして、男の子が生まれたらすぐさま王家に届け出るという内々の約束をした。
子が生まれるまでにデェリーの婿入り先を探すことも許可した。
どこをどう巡ったのか、両親から何も聞かされていないシャインがデェリーが婿入り先を探していると知ってしまった。
それを知ってしまったシャインの嘆きようは身につまされるほどのもので、アーバン夫妻はシャインに申し訳ないと思いつつも、元気な男の子が生まれることを唯ひたすらに願っていた。
シャインからすっぽりと感情が抜けきったようになってしまった事を執事のトーマスは気にしていたが、夫人に陣痛が来て長い長い時間が経って生まれてきたのが男の子だったことに、トーマスも大喜びしてしまった。
デェリーは男の子が生まれたと知るやいなや、シャインと会話もせず王家に婚約撤回届を提出して受理を急がせた。
ここでもシャイン一人が置いてけぼりになって、弟の誕生を喜ぶこともできず、デェリーとは別れの言葉もなく終止符が打たれ、部屋に閉じこもってしまった。
アーバン夫妻は息子のチャーリーの誕生に大わらわでシャインのことなど気にも掛けていなかった。
シャインの事に気づかされたのはトーマスが「シャインお嬢様がチャーリー坊ちゃまが誕生されてから一度も部屋からお出になっていません」と聞かされたからだった。
その言葉でアーバン夫妻の浮かれた気分が通常へと戻った。
アーバン伯爵はシャインの婚約が解消されているのか確認を取ったら、チャーリーが生まれたその日に婚約は解消されていて、シャインには誰も何も告げていないことが解った。
この時シャイン15歳。来年成人で、この国の女性の婚期は15〜18歳だった。
アーバン夫妻はシャインに部屋から出てきて顔を見せて欲しいと願ったが、シャインは両親のことをもう信じることができなかったので、返事もせず部屋に閉じこもっていた。
アーバン伯爵はシャインの嫁ぎ先を必死で探したが国内では見つけることができず、外国へも嫁ぎ先を探し求めた。
マーカス国から三つ国を挟んだ向こうの国、ローエン国に婚約破棄された一つ年下の侯爵家の嫡男を見つけることができた。
婚約破棄の内容は女性側に好きな男ができて行方をくらませたというもので、シャインにどうするか尋ねると「言葉も通じる国なので、嫁ぎます」と短く答えた。
それからのシャインの行動は早かった。
二度ほど手紙のやり取りをして、相手が17歳になってから結婚する約束を取り付け、それまでは国に馴染むために遠いローエン国へ早々に一人、出立することになった。
シャインはアーバン夫妻からローエン国の婚姻届にサインを貰って、簡単に別れを告げ、その別れの場で初めて弟の姿を見たとアーバン夫妻に告げた。
そして「二度と会うことはないのでしょうね」と一言残してシャインは旅立っていった。
シャインは馬車を何台も何台も乗り継いで婚約者が待つローエン国にたどり着いた。シャインは16歳半ばになっていた。
婚約者はエルメスタ・マコービッチ侯爵家嫡男で、見た目は爽やかだけれどどこか頼りなげな雰囲気のある人だった。
シャインはエルメスタを受け入れ、エルメスタもシャインを受け入れた。
マコービッチ家の離れにシャインの部屋は用意されていて、結婚まではこの離れで生活することになった。
「結婚してから暫くは二人だけでこの離れで生活しよう」とエルメスタに言われ、現実味のある夢としてシャインはその未来を思い描けるようになった。
この国のことを何も知らないシャインにマコービッチ家が家庭教師を付けてくれて、些細な差を色々とうめていった。
エルメスタとの関係も良く、マコービッチ夫妻にもそこそこ可愛がられた。
マコービッチ夫人に社交に連れ出され顔繋ぎもできて、結婚まであと半年という頃には、離れでお茶会を主催するまでになっていた。
仲の良い女友達もでき、国への郷愁もなくシャインはそれなりに楽しく幸せに暮らしていた。
結婚まで後三ヶ月という時になってエルメスタの元の婚約者がマコービッチ家を訪ねてきた。
「婚約破棄をしたことは間違いだった。生活ができない。縒りを戻したい」と言い出した。
シャインはその場でエルメスタが断ってくれるものと思っていたのに、エルメスタは思案気な顔になって返答を先延ばしした。
シャインはエルメスタといっしょになる夢が潰えたと思った。
エルメスタは長く婚約していた元婚約者に心を残していたらしく、元婚約者とやり直せるならやり直したいと言った。
シャインは何も言えずただ黙っていた。
マコービッチ侯爵に「年は少し上になるんだが」と紹介されたのはトレリー・アーデリー侯爵だった。年齢は28。妻が三人目の子供を生むと同時に亡くなってしまって、妻であり母になってくれる人を探しているとのことだった。
この時シャインはまだ17歳。「母になれるか解りませんが」と一応会うことにした。
アーデリー侯爵は大きくて精悍でパワフルな人だった。
正直、エルメスタよりよほど好きになれる相手だった。
けれど、アーデリー侯爵は妻だけではなくて母にもなれる人を探しているので私では若すぎるのではないかと難色を示した。
子供を交えて一度会うことになったがシャインは弟もひと目見ただけで、幼子を全く知らなかった。
子供にどう手を差し伸べていいのか解らないまま一度目の子供との対面は終わってしまった。
これでは二度と会ってもらえないだろうと思っていたが、アーデリー侯爵は二度目、三度目の機会をすぐに与えてくれた。
そのおかげで子供たちとも少しずつ打ち解けることができるようになった。
アーデリー侯爵は大人の懐の深さを見せてくれ、元々好みであったこともあってシャインは自分から「妻にしてください」と申し出た。
アーデリー侯爵は逡巡した後「ならば嫁いできてもらおう」と言ってくれて結婚が決まった。
マコービッチ家を引き払い、アーデリー家へと居を移したその3日後、エルメスタの元婚約者が捨ててきた男の子供を妊娠していることが発覚した。
マコービッチ侯爵とエルメスタから戻ってくるようにシャインに連絡が来たが、シャインはもうエルメスタを信じられないし、アーデリー侯爵の方が好きだったのでお断りした。
暫くすると社交界でシャインのあらぬ噂が流れたが、女友達も噂を打ち消してくれたこと、実情を知る人も多かったので瞬く間に噂は消えていった。
アーデリー侯爵家の喪が明けて半年が経ち、明日入籍となった日、アーバン伯爵から手紙が届いた。
弟のチャーリーが事故で死んだと。
アーバン家を継ぐ者が私しかいないので帰ってくるようにとのことだった。
シャインは弟が死んだことには驚いたけれど「馬鹿らしい」と一蹴したが一応、夫となるアーデリー侯爵に手紙を見せることにした。
シャインは不安に身を震わせながらアーデリー侯爵の返答を待った。
「シャインはどうしたいのかな?」
「私はアーデリー侯爵と結婚したいです」
アーデリー侯爵は破顔して「ならばこの手紙は後三日ほど遅れて届いたことにしようか」と言ってくれた。
凄く、凄く、嬉しかった。
シャインが18歳。
真っ白で光沢のある美しいドレスに身を包んでアーデリー侯爵家へと嫁入りした。
素敵な初夜を過ごし、シャインは幸せを噛み締めた。
その翌日、アーバン伯爵夫妻へと手紙を書いた。
『アーバン伯爵夫妻様へ
この度縁あってローエン国のトレリー・アーデリー侯爵という方と結婚いたしました。
残念なことにマコービッチ家との縁は結ばれることはありませんでした。
弟が亡くなったことはとても残念だと思いますが、私は今とても幸せです。
私が結婚した翌日にアーバン伯爵からチャーリーが亡くなったとお手紙をいただきました。
残念なことに嫁いだ後のお手紙なため、私には対応のしようがありません。
アーバン夫妻にとって大切なチャーリーを失ったことは言葉にもできないことでしょう。
遠い此の地で御冥福をお祈り申し上げます。
シャイン・アーデリー』
その後、アーバン夫妻からシャインが生んだ子の一人を養子に貰いたいという手紙が何通も来ることになるが、シャインもアーデリー侯爵も相手にしなかった。
遠い国の小さな伯爵家に価値は見いだせなかったのだ。
シャインはアーデリー侯爵との間に2人の子を儲けた。
アーデリー家は笑い声が絶えない侯爵家として名を馳せた。