第9話【入団試験2】
ウォーカーとリッカーとアカリの三人はランクマッチを回す事にした。
ランクはウォーカーとアカリがダイヤで、リッカーはマスターだった。
「あれ? リッカーさんはタンクでやるんですか?」
リッカーは世界的なプロプレイヤーで、ベストスコアは世界大会三位。元々専門は火力役だった。
特に『ニンジャ』を使った奇襲と『ガンマン』の継続ダメージ戦法が得意なプレイヤーだ。DPSのランクはマスターの中の最上位五〇〇人が得られる『ナンバーズ』という階級に分類されていたはずだ。
「そうだよー。今回の大会は元プロはメインロールを使えないんだよねェ」
「フリダンの人も理解が早くて困ったもんだ。知らないままだったらリッカーの圧勝だったのに、多分ゼンさんが言ったんだろうな『このままじゃゲームにならないからハンデ入れましょう』って」
「まぁそれでもタンクができるのは良かった。オレのサポートはゴールドだからねェ」
「サポートのクセに自我が強すぎるんだよ」
五対五でキルが起こりにくいロール制システムがあるゲームの特質上、そのロールの専門家同士のぶつかり合いが起きるとゲーム理解度が実力差に直結しやすい。
中でもリッカーは世界大会に出場した経験もある、文字通り最高峰のプレイヤーだ。
それだと盛り上がりに欠けるという事で、大会運営側が制限をかけたのだった。
それでも専門ロール以外でマスターを取れているということは恐ろしい。
「お、そろったねェ」
人が集まり、マッチが開始される。
それぞれキャラクターピックが完了した。
ウォーカーはいつものように『ガンマン』を選んだ。
リボルバーを使い、単発火力が高いのが特徴だ。
スキルは緊急回避をする『デッドハード』と、即着爆発の『グレネード』。
アカリは以前と同じ『フロッガー』を選んだ。
リッカーは重装甲の巨漢の姿をした『アームズ』。
スキルはタンク特有の『シールド』と、右手の篭手装甲から射撃を行う『ハンズフリー』、最後に敵から受ける物理ダメージが一定時間現象する『オーバーアーム』。
攻守ともにスキのないキャラを選択した。
マップは『ロンドン』。
市街地戦のマップであり、高い建物に囲まれたこのマップはサイドからの打ち合いが少なく、家の窓やベランダなどの足場になる個所を取って射線を広げるのがセオリーだ。
妙に入り組んでいないマップの特質上、均衡が崩れにくい反面、崩されるとチームが壊滅しやすいのが特徴的な場所だ。
と、ウォーカーが説明を受けるのは試合が終わってからの話だ。
このマップでのルールは『プッシュ』。三つのチェックポイントを経由し護送車を目的地まで搬送するルールになっている。
それぞれ一回ずつ攻守を交代して全体の進捗率で勝敗が決する。今回はウォーカー達が先行だ。
「じゃあ初手からブースト行く?」
「やっちゃおう! 思いっきりやっちゃおう!」
「ウォーカーくんもついて来て。リッカーのファイトは早いからね」
最初の難所はリスポーン地点から前方七〇メートルの直進コース。
途中バスや車、噴水といった遮蔽物があるにはあるが、防衛側の陣取りが完了してからのスタートになる。射線組みが完了しているところに突入するところから始まるため、やや責めるのが難しいところがある。
ゲートが開いて試合が開始された。
(うわ、弾幕厚いな~)
敵側のキャラの多くは射撃特化のものが多く、弾幕を張ってダメージを稼ごうとしている。
高台を取って一方的に撃てる状況を楽しんでいる様子だったが、リッカーはそんなことで止まる男ではなかった。
「じゃあまずは高台をやろうかなァ?」
「おーけい」とアカリが軽く返事をして、攻撃が始まった。
リッカーは高台から撃ってくる敵の目の前にシールドを展開させると、射線を一本に絞り込む。
この時、地上では陣地付近の噴水を遮蔽にしながら撃ってくる敵のタンクと目が合う。
これではカバーができないと、高台を抑えていた敵のサポートとDPSが高台を放置して支援に駆けつけるが、それこそリッカーの思うつぼだった。
敵のタンクを無視して踵を返すリッカーは孤立していたDPSに接近戦を申し込む。
「『ガンマン』瀕死! 『ガンマン』瀕死!」
敵のサポートはDPSが死なないようにと回復を送り、支援を続ける。
置いてけぼりを食らった敵のタンクはチームが瓦解しないようにと自陣を離れて接近してくる、四方八方で銃声が鳴り響き乱戦が始まった。
射線入り乱れる中でも、両チームの押し合いはほぼ互角。
やり切れない状況が続いていく。
始めに限界が来たのはリッカーだった。
シールドのスキルを使って陣地へのアタックをしたリッカーのHPは削られ、半分を切っていた。
「リッカー一旦バック。ダメージもらいすぎてる」
ここで一度引き返す。
アカリの『エンジェルビート』の回復とスピード支援が高速で入れ替わりながらチームは退却を始める。
攻撃側が陣地に向かうまでの直進は防衛側にとって『的』だ。
だがそれは有利なポジションに陣取られていた場合の話であって、全員が地面にいるのであればおおよそイーブン。
そして敵はまんまとその地形に誘い込まれた。
「お~ファンサービスが希望かなァ?」
リッカーを追ってきた敵のDPSの一枚がフォーカスをもらって潰された。
「スピードスピード! ラッシュ行こう!」
「あと五秒でリキャスト終わる。行くよスリー、ツー、ワン、GO!」
リッカーのコールが聞こえた瞬間、アカリの『エンジェルビート』がスピード支援を強化させて発動をする。
退きながら被弾しないようヒールを回していたおかげでチームは戦闘準備万端の状態で再度陣地へのアタックを敢行する。
今度はやや手前側にシールドを張って、DPSの射撃の射線を切ると、噴水の近くでヒールを回す敵のサポートに勝負を仕掛ける。
そうはさせないと敵タンクが自身の体を使って守ろうとするが、便乗するように流れてきたウォーカーは一発、二発とヘッドショットを決めてフリーでサポートを一枚落とした。
続いてサポートのもう一枚を狙おうとするが、こいつはタンクの後ろにぴったりと張り付いて中々狙いが定まらない。
そこに飛び込んでいくのはアカリだった。
タンクのことなど意にも介さず、壁をスルスルと走っていくと、サポートの直上から四発のバースト射撃を始める。
さすがにウォーカーとアカリからの連撃では耐えることができず、サポートは死に、少ししてからタンクも死んで、第一チェクポイントの制圧が完了した。
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