第66話【VSペロリスト16 エゴイズム】
一週間前、スクリムの一周目が終わった時の作戦会議をしていた時のことだ。バズコードに集まったエイリアンズのメンバーは次週に控えて、対策を練っていた。
「ラッシュ構成なのにダイブですか?」
ウォーカーは理解が追いついていなかった。
「そうそう。一応今シーズンのメタで構成考えてみたけど、ペロリストさんとこの人達には勝率悪かったからね。どうしたものかとずーっと考えて、ずーーっと頭こねくり回してた」
そこでアカリは毎試合記録を見直して、負けた敗因をチーム毎にまとめていた。
それこそ、スクリムが始まってからずっと。
陣形、スキル管理、HP差、平均火力、キャラ相性、ウェーブ負けの原因、勝った要因、シチュエーション毎のチームの動きと判断基準、ボイスチャット内のコールの内容など。
「でわかったんだけど、ペロリストはチームの連携がクソです」
それらをまとめた上で、アカリは簡潔にそう述べた。
「あっははは! 言うねェ」
「ど直球ね」
「マジでシンプルな悪口じゃん」
バズコードの画面にはアカリのデスクトップが映されていた。そこには前回の時と比べて、ごちゃごちゃと、しかし一定の規則をもとに並べられたショートカットURLが見えていた。
他にも説明に上がっている資料もデスクトップ上に保存されていた。すぐに取り出して見返したり、説明したりするために、そうしているのだろう。
合理性の中に美学を持ち込まないところがアカリらしいと思った。
「まず、負けてる理由を簡潔に説明するとポイントは二つ。バジリコさんのスナイパーが強すぎてキル取られたところから瓦解すること。チーム全体の考え方がセオリーからちょっと外れてるから動きが読みにくいこと。いや、マジで。あのタンクとか意味わからん行動多すぎて変なところでピック取られるのキツすぎる」
少しイラつきの混じったような話し方をしながら、アプリの共有画面機能を使って全員に動画を見せる。それはゲームの試合の動画で、先日までのカスタムの録画映像だった。
そこにメモ帳機能を追加して、画面上にペンのカーソルが現れる。動作の確認のため適当に丸をくるくると描いて、納得がいくとすぐに消した。
「じゃあ動画で見ていきます。わからないところがあったらすぐに言ってね。わかったフリをしてたら怒ります」
「はい質問!」
「メイさんどうぞ?」
「こういうのは元プロのリッカーに教えてもらうほうがいいんじゃないの? 元プロでもないアカリが説明で大丈夫なわけぇ?」
「ごもっとも。じゃあリッカー、ペロリストの皆さんに勝つにはどうすれば良いと思う?」
「ん? みんなで全部頭を撃てばいいんじゃないかなァ?」
「というわけだ。諦めろ」
恒例というかいつものようにメイとアカリの小競り合いがあったが、リッカーという一人の最強の前ではマッチの火のようだった。
では改めて、元プロでもないアカリに対して、リッカーがIGLを任せようとしたのか。
それは『言語化』の壁だったと、この日ウォーカーは理解した。
「まずスキルなしの平の状態なら俺たちは基本的に負けない。これは自信を持っていい。問題なのは向こうの仕掛けが強いことだ」
画面に映るペロリストの後衛組をくるくると線で囲んで、強調させる。そして前衛と仕分けるために直線を一本書き足して、分断させて見せた。
「HPの多いパラディンが一枚で基本的に前を抑えて、ホワイトウィングとバジュラの単発高火力に当たって死ぬのが多いわけだ」
試合を思い返してみると、キルログの多くがその二キャラによるものだった。DPSかサポートのどちらかが一人落とされて、そこからじりじりとダメージトレードが成立しなくなっていく。あるいはバジリコによって二人キルされて一気に瓦解するケースが多かった。
前で勝負をするのはパラディンのみ。
対してエイリアンズが正面勝負で負けることもあるのは何故か?
「基本的に前でダメージを受けるのはパラディンだけで、あとの四枚が後ろでダメージをもらわないように隠れてる。だからタンクは一人でサポート二枚からのヒールを受けられるから死ぬケースはまず無い。そんでもって一撃必殺のスナイパーがいるから、防御と攻撃が一環してるんだ」
エイリアンズの前衛はタンクが一人、DPSが一人、サポートが一人、の計三枚で正面勝負をする。範囲ヒールを使えるフロッガーを前線付近に配置することで、サポート一枚がチームメンバー二枚をヒールし続けるため前線を維持しやすくなっている。
だが、フロッガーは範囲ヒールできる分、もともとのヒール量が少ない。
固まって動いてるとパラディンのハンマーに巻き込まれて全員ダメージもらうため、近づきすぎては行けないのだ。
だからこそアカリはダイブキャラをしようと言ってきたのだと、ウォーカーは理解した。
……とはいえ、最初にラッシュ構成を主軸にやると言っていたわりに、アカリはすぐに作戦の変更を提案してくるのは中々の無茶ぶりだと思った。
「で、ダイブするってことはリッカーもダイブタンクに変更する予定ですか?」
「いや。リッカーは基本的にベタ足やらせるよ。だってリッカーのダイブタンクは早すぎて絶対みんなついて行けないと思うから」
ダイブ構成をする際は体力の高いタンクが敵の後衛をかく乱させて、そこにDPSが参加しキルを発生させる戦い方だ。だが、移動系スキルを使うタンクがいないとなると……
「そしたらDPS一枚で勝負ですか? さすがにちょっと無謀なんじゃ……」
「大丈夫。俺が一緒に行く」
当然のごとくアカリは言った。
「やり方としては前からガンマンの出張でサイド取りに行く時とかと一緒。スピブで移動してヒールを回しながらピックを狙う。絡みに来たら退き撃ちに切り替えてる」
そして今回の構成においてキーとなるのはニンジャだった。
「それをニンジャの移動スキルで撹乱しながら、フロッガーと一緒に動き続けて殺し回るってだけ。特に本命はバジリコさんのホワイトウィングだな。まともにADSできないくらい絡みに行きたいところ。ホワイトウィングがいなくなれば動きは大分楽になる。あとは浮いてるやつを各個撃破していくだけ。失敗しそうなら思いっきり逃げてやろう。ま、できるかどうかは試してみないとだけどね」
ケラケラと楽しそうにアカリは語る。
「いつものアカリなら『練習してできないことは本番でもできるわけがない』って言うんじゃない?」
ネコプライドは疑問に思っていた。
エイリアンズの中でも古株であるリッカーとネコプライドはウォーカーよりもアカリのことを理解しているようだが、こういった事前準備のないものは珍しいらしい。
「大丈夫。できる。ウォーカーなら任せられる」
当然のことのように、アカリはさらっと言ってのけた。
それがどこかとても嬉しかった。
「プロシーンとか見てるならだいたいの動き方はわかるでしょ? だってこれ、リッカーが得意だった戦い方なんだから」




