第6話【探してる】
成績は大切だ。
自分のことを俯瞰して観察ができる。
日常の些細なことにさえ、水準が存在して自分の価値が推し量られている。
でも、それらが可視化されることは無い。
煩わしいと思いながらも気にせずにはいられない。
自分の中でしがらみに束縛されたくないという気持ちを持ちながらも、周りからの評価を気にして生きているのだから矛盾を抱えているなと木原進は思う。
進の交友関係は広いが浅いのが特徴だった。
過干渉をせず、見放すことは無く。
踏み込みすぎず、手放さず。
「薄いな……」と、悪く言えば中途半端だと我ながら思う。
学校が終わり家に帰ると、進はyoutyubeを開いて動画を見ていた。
韓国人の元プロゲーマーで、日本を拠点にして活躍するストリーマー『Ricker』のファンだった。
リッカーの見どころは圧倒的なゲームセンスと、攻撃的な戦い方が魅力だった。
敵を捕らえるエイムの良さ、チャンスを見つけたら飛び込んでいく肝の座り方、不利だと思えば即座に退いてくる割り切りの良さなど、自分ではできないことを実現していく。
そんな彼は進にとってのヒーローのようだった。
母国語だけでなく、日本語もペラペラで話せることがカッコいい。
たまに見せるおちゃめな失敗もかわいらしい。
見ていて飽きない存在だった。
「はぁ~やっぱリッカーさんはマジで上手ぇ~。うわっ! 今のエイム神すぎやばっ!」
動画は毎日見ていた。
その撃ち方、戦い方を真似して『BL』をずっと続けていた。
「で、今このタイミングだったらリッカーさんは前に出てー、高台取ってー、ワンピック! そうだよね! リッカーさんならそうするよね!」
リッカーの動きなら予想をできるようになっていた。
それだけたくさん彼を見ていた。
そして次第に気づいていった。
彼だけが特別なのではないと。
「チームのみんなのフォーカスが合っていたのが大きかった。あとはアナリストのメタ読みが早くて助かりました」と、初めての世界大会で三位を取った時にリッカーは言っていた。
チームメイトは皆優秀なプレイヤーで、防御攻撃共にスキのない戦い方だった。
全員で戦い、全員で動き、全員で考える。
そんな姿が羨ましいと感じていた。
「チームで戦えるのいいなぁ……、でも学校の人たちじゃあな……」
だからチームを探そうと思い、学校の『Eスポーツ部』に入ったのだが、ゲームジャンルが合わなかったり、ランクが同じでなかったりと色々理由があって、今はあまり活動に参加していない。
たまに土日の日に人数合わせで参加するなど、ちょこちょこ顔出しをするくらいに抑えている。
ネットの中から探そうとも思ったが、
「サポ! ヒール回ってねえぞ! あとチャカ抜けオラァ!」
「ニンジャが粘着してくるからヒールできねえんだよ!」
「おいタンクが進まなきゃ何も始まらねえだろ!」
もともと治安の悪いゲームのため少し気が引けた。
そういえば、と進は最近の出来事を思い出した。
「あの暴言サポさんからのフレ申請来てたんだったなぁ……」
とりあえず申請は受けておいたが、放置したままにしていた。
あれから二日経つが、今どうしているのだろう。そう考えながら、PCを立ち上げてゲームを起動する。
PCは表面がガラス製で出来ており、グラフィックボードやら冷却ファンやらがぎらぎらと輝く最近のものだった。起動音に合わせて箱の中のLEDライトが綺麗に輝きだすと仄かにテンションが上がる。まるで懐中時計のスケルトンを見て楽しむかのような気持ちだ。
ゲームを起動すると画面にフレンドがログインしているか、オフラインかの判別ができる場所がある。件の暴言サポートはログインをしていないようだったが、メッセージが届いていた。
「あれ、メール届いてる……え、なにこれ」
メッセージには、「お疲れ様です。先日ランクで一緒になったアカリです。ウォーカーさんめっちゃ強かったからぜひまた遊びたいです。もしお時間あれば今度はグループ通話しながら一緒に遊びませんか?』
「ゲームやってる時も思ったけど、トキシックなくせに仲間と話すときは優しかったり文面丁寧とか終わってんだろ。サイコパスかよ」
得体のしれない恐怖を感じた。
暴言を吐いて性格が悪く、捻じ曲がっている奴なら笑顔で石を投げつけて非難しても誰も文句は言わないだろう。たちが悪いのは半ば常識人の面持ちを持っているところだ。
そうこうしているとアカリのログインが確認できた。
そしてチームプレイの招待が届いた。
「……ヤベー奴だったら、即フレンド切るか」
そう考えて、招待を受け取った。
この作品の他、前日譚として作った文庫本1冊分の作品『サラシナデイズ』も公開中です。
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