第27.5話【ヒトリゴト】
試合が終わるとメンバーが全員グループチャットから退出していった。
それを見届けるとアカリは自分も退出をする。集まってもらっている側の人間が真っ先に抜けていくというのは、個人的に心象が良くない気がするからだ。
「さてと……」と手を天井に向けて軽く伸びをしてやると、ずっと同じ姿勢をしていたものだから背中や肩から軽快な音が聞こえて体の内側で響く。あまり健康上よろしくない。時折立つなり歩くなりして、緊張を解してやるのがいいだろう。
ゲーム画面のカーソルを操作すると、リプレイ機能を使った。
このゲームでは試合の内容を動画のように再生することができる上に、神視点となって周囲を見回したり味方の視点に飛ぶことができる機能が存在する。これを利用して昨日から一人、反省会を行っていたのだった。
チームメイトは同じクランの知り合い同士とはいえ、このゲームで試合を目指し一緒に戦うのは初めてだった。
思う所を口出しすることは簡単だが、まずはチームメイトの特性を理解することが先決だと思っていた。
だからこの二日間はすぐに反省会を設けることはなく、様子見に徹することにしたのだった。
(えーっと。リッカーは反省とか必要ないくらい暴れているから良いとして、俺はちょくちょくラッシュの時にDPSより前に出すぎることがあるな。カバーで来てくれたタイミングで削られてるから下がろうとしてウォーカーくんを一人残しちゃってる……ここは事前に掛け声入れて一緒に入れるように変えよう。メイの方はもともと注意して見てるから声掛けできてたな。前に出なくなってエイムに集中できてスタッツも良くなってる)
「にしてもやっぱウォーカーくんは良い目してんな~。さすが俺。見る目あるわ~」
ウォーカーからの提案でメイの前線を下げることになったが、実はアカリも同じことを考えていた。
「メイはエイムあるけど凸り癖があるからな、最悪エイムで片づけるって選択肢を取りにいっちゃうのはバーテックスの頃から変わんねぇな……」
(……こっちで細かく指示出せばなんとかなるかと思ったけど、逆にパンクしてたみたいだなありゃ。臨機応変にするより、決まった戦術で戦う方が丸かったぽいな。ちょうどやり方変えようかって提案しようと思ったタイミングでウォーカーくんが言ってくれたから助かったな。あのメンタルの状態で俺が提案しても聞いてくれるか微妙だったし、マジ感謝だよウォーカーくん)
とは言え、あまり推奨したくはなかった。
「つってもな〜〜〜〜、前線二人になったらリッカーとウォーカーくん辛くなっちゃうかもだったからなぁ。まぁ、思ったよりウォーカーくん頑張ってるからなんとか出来てるし、リッカーは関係なく暴れまくってるしこのままでも良いんかな〜〜〜〜どうかな〜〜〜〜……まぁ、出来てるならこのままでいっか」
結論としてメイを後衛組と合わせて戦うことで現状は対応して行くこととした。ダメならまた試していく精神だ。
「あ、こいつ必要ないところでスキル吐いてリロードしてやがる。今度注意しとこ」
ところでアカリがこうして記録を見漁っているのはもう一つ理由がある。それはエイリアンズの広報活動の一つで、入団した新入りに送るプレゼントの用意があるからだ。
「おぉ、すっげ。めっちゃ良いエイムしてんじゃんウォーカーくん。素材がいっぱいあるのはありがてぇ〜編集問題無さそうだなこりゃ」
いわゆる『モンタージュ』の作成をしていたのだ。
モンタージュとは複数の異なるカット組み合わせる技法のことだ。
もとは映画用語のようだが、詰まるところ色んなシーンをつなぎ合わせて編集することを指す。ゲームの文化では敵を倒しているシーンや凄ワザや名場面などをまとめて、映像効果をかけて、イカした曲をBGMに見て楽しむことが目的だ。
プロゲーミングチームはメンバーの紹介や大会参加の広報などでよく用いる。プロゲーミングチームではないが、広報に力を入れているエイリアンズも同様の理由で行っていた。
新人入隊の際にモンタージュを作るのは六人目から始まったことだ。きっかけは純粋に腕が立つプレイヤーだったから何かしらの形で作品にしたかったことと、当時動画のネタ作りが思い浮かばなかった際にアカリが気分転換に作っていたことが起因している。
作ってツブヤイターに公開してみたところ意外と反応が良く、五時間くらいかけて作った一〇分弱の動画よりも再生数が伸びた時には、下唇を吸い込んで何とも言えない表情になったものだ。
それ以来、恒例行事のように新人加入の際には紹介を兼ねて作り、プレゼントをしている。
ある種、アカリなりの感謝の気持でもあった。
「前に野良であった時のもあるし、これなら最速三日くらいで仕上げできる。といいな」
幸いウォーカーもプレイスキルのあるメンバーだったため素材の収集には困らなかった。
こうして動画を見ていくと色々なことが見えてくる。
エイムのフリック癖や、左上側のエイムを苦手としてること、体力状況と押し引き判断についてなど、プレイの傾向が色濃く出ている。
将棋なら振り飛車と居飛車のように。麻雀なら門前か鳴きのように。FPSというゲームジャンルも同様に、人の性格や癖はプレイに影響を与え、戦略が異なることはよくある。
だからこそチームの連携は難しいと言える。なぜなら違う評価基準をもつ人々の集まりだからだ。
例えば『平原の中、敵に撃たれた』という状況があったとして、
一、撃ち返す
二、走って距離をとる
三、近くの遮蔽に隠れる
など、パッと思いつくだけでも三通り出てくる。
詳細な状況がさらに加算されれば回答に偏りは出てくるだろうが、根本的な判断は個々人の中にすでに確立されているものだ。
だが、ウォーカーは違った。
彼はまるで個性がないかのようだった。
「うん? あ、そう動くのか」
今見ている動画以外にも、アカリは入団する以前のウォーカーの動画を見ていた。欲しいと思っていた火力役を任せられるか、エイリアンズのメンバーと集団で動くことのできる人物かをもとに見定めていた。
結果的に、自分と同じように理論をもとに動くタイプの人物だと判定したのだが、ここ最近のウォーカーの戦い方はアカリの予想から少し外れていた。
(……なんていうか意外だな)
普段は隙のない淡々と自分の役割を果たすだけの職人気質なプレイをしているのだが、時折、苛烈で、過激で、猛烈な攻撃性が垣間見える。かと思えば突然消極的になって防御に徹して一歩引いたような戦い方になることもあるのだ。
最初は偶然だったと思っていたが、
(ウォーカーくんの性格を考えて見てみると、これは行かないだろうってところで突っ込んだりしてる……と思ったらこっちではやってないのか……えぇ、どういうこと?)




