第2話【チーム連携が大切なゲーム】
暴言タンクVS暴言サポートの戦いが幕を開けた。
『ベータ・リンクス(通称BL)』は盾役一人、火力役二人、支援役二人の計五人で戦うゲームである。
勝利条件やルールがいくつかある。
今回は陣地占領戦ルールのゲームだった。
ハードポイントは陣地を占領すると自チームのスコアが加算され続け、占領ポイントが一〇〇%になるとラウンドを獲得。
先に二回ラウンドを先取したチームの勝利となる。
マップは基本的に左右対称の形となっており、とりわけどちらが有利かという偏りもなく、純粋なぶつかり合いが要求されるルールだ。
次にキャラクターについて、『BL』はそれぞれのロールには一〇種ほどのキャラクターがおり、それぞれ固有のスキルや武器を持つ
ウォーカーこと木原進はDPS役を好んでやっており、その役割は相手チームへダメージを与えキルを稼ぐことにある。チームの華であり、人気のロールだ。
「関係ない。俺は俺のやることをすればいいんだ、面倒ごとに巻き込まれるのはごめんだ」
そう自分に言い聞かせた。
『ハロ~! こんにちは? どうもチャットバトルしてたサポートですよろしくお願いします!』
陽気な声でゲーム内ボイスチャットが流れてきた。
『あれ、日本語で大丈夫すかここ?』
釣られるようにチームメンバー達もVCを入れていた。
『大丈夫です』『よろしくお願いします』と、小さな声で応えている。
いや、普通はこんなものだろう。
この暴言サポートの声がずば抜けて良く通っているのだ。
『すんません。敵のタンクさっき同じ試合でトロールされたもんで、ちょっとバトってました』
低すぎず、不快に思うほど高くなく、芯の通った聞きやすい男の声が謎の親しみやすさを覚えさせる。
こんな優しそうなイメージをさせる話し方と声なのに、暴言をチャットに打ち込むのだから、人間とは怖いものだとウォーカーは思っていた。
『多分あいつ今めちゃめちゃ怒ってるんで、俺たち後衛にめちゃくちゃ絡んでくると思います。それが見えたら集中して、ボコボコにしてもらえるとありがたいっす』
開始前のカウントがゼロになり、戦闘が始まった。
マップ中央にある占領エリア目掛けてチームが前進を始めていく。
最初にエリアについたのはウォーカー達のチームだった。
少し遅れて敵チームが辿り着く。
早速エリアを占領すると、味方のタンクはエリアのやや前方敵陣側の方で勝負を始めた。
このゲームの特徴はリソースのサイクルにある。
①タンクが前線を張り勝負する場所を決める。
②DPSがダメージを加えて敵のキルを狙い全体の攻撃力や回復力を下げる。
⓷傷ついた味方をサポートが回復する
という、美しい循環で完成されている。
そのため、他のFPSゲームと比べるとゲームの展開スピードが極めて遅い。
そして一人当たりが敵に与えるゲームの影響力が小さかった。
ウォーカーの知る中で最もチーム連携の必要なゲームだった。
タンクは互いに同じキャラを使っていた。
身長二メートル強、重量感満載の大柄な騎士の『パラディン』
近距離戦特化のハンマー型武器を持ち、スキルは左手から前方への『巨大な盾』の展開と、正面方向に向けての『突撃』、そして五〇メートル先までハンマーの衝撃波を飛ばす『遠当て』だった。
(勝負は拮抗状態だ。このまま占領しきれればいいけど……)
そんな事を相手が許すはずもなく、仕掛けが始まった。
敵タンクの『突撃』が発動し、陣営を突っ切ってエリアへと向かっていく。
『突撃』は接触した相手を拘束し、大ダメージを与えることができる。
その後二度ほど武器のハンマーを受けるとDPSやサポートなどHPの少ないキャラは即死だ。
そうならないようにチームは自然と回避行動をとる。
だが、意思の疎通ができていないチームだ。
左右に分かれてしまい、チームは分断され、敵がつけいる隙が生まれる。
それに続くように敵のDPSやサポートが流れ込んでくる。
対応するように味方のタンクが一対多を引き受けるが、さすがに回復量が間に合わずやられてしまった。
勝機と見るや否や、敵のタンクはチームに一対一を仕掛けて全滅を狙っていた。
そこで、近くにいたウォーカーが狙われた。
まずいと思い、射線を切りながら移動していく。
摩天楼を意識したこのマップでは、占領エリアの周囲に吹き抜けになっている部分があり、脚を滑らせればマップ外に落ちて環境キルをされる。
(どうする? ぎりぎりまで粘ってからリスポーンしてくるタンクを待つか? いや、すぐに死んでリグループするべきか?)
そうこう悩んでいる間にとうとう追い詰められてしまう。
ハンマーもニ度食らってジリ貧になっているところ、壁を走って飛んでくる一つの影があった。
暴言チャットバトルをしていたサポートだった。
ブオーンという音が鳴ると、タンクの体は宙を舞い、摩天楼から投げ出されていた。
環境キルが発生したのだ。
『一緒に来て。このまま全滅取ろう』
サポート二番を務めるAkariのキャラは音を使い攻撃と支援を行う『フロッガー』。
カエルとエイリアンを足して二で割ったようなデザインのキャラだ。
四連バースト射撃を行う衝撃波の通常攻撃。
スキル一、衝撃波で敵を吹き飛ばす『バーンアウト』。
スキル二、壁面を足場として利用できる『バーティカル』。
スキル三、味方に移動バフと回復バフを切り替えて与える『エンジェルビート』。
一見飛び抜けて強そうなスキル構成に見えるが、武器そのものの火力とレートが低いため一対一性能はやや低い。
味方が戦いやすいようにバフを起点に動き回る、わかりやすいサポートの見本のような存在だ。
『タンク死んだ! サポートが甘えて前出て来てるから叩きに行こう』
アカリのコールに合わせて、ウォーカーはリボルバーの照準を敵に向ける。
二発、三発と攻撃を加えると敵のサポート一番の体力を七割削るがあと一撃が足りず、撤退を許してしまいそうになる。
『ナイス! そのまま前出よう取り切ろう!』
その時、アカリの『エンジェルビート』スキルが移動バフへと切り替わった。
ゲームで操作するキャラに通常移動速度の差は無く、ただ追いかけ回しても距離を詰める事は出来ない。
だが、移動速度のバフが加わることで追い詰める選択肢が生まれた。
(敵タンクの復活まであと三秒間は邪魔されない。十分やり切れる!)
『エンジェルビート』のバフに合わせてウォーカーは前線を押し上げる。
自陣に帰ろうと背中を見せるサポート一番をキルすると、少し遅れてリスポーンしたタンクが『突撃』を敢行してきた。
だが、チームの全員が撤退を始めていく中、一人だけ敵に突撃してくるタンクはただの的同然だった。
『馬鹿がよお。さっきのゲームと一緒じゃねえか』
しまった。と言いたげな動きで盾を張り、自陣に戻ろうとする敵タンクだったが、逃げ帰ろうとするタンクの体を衝撃波が再度吹き飛ばす。
今度は環境キルではない。
前線を上げていたウォーカー達のチームのど真ん中に着地させられたそれの末路は、アマゾン川に投げ込まれた牛にたかるピラニアのようだった。
『タンクタンクタンク!』
アカリのコールで全員の視線が集まる。
巨大な盾があろうが、前方しか守ることはできない。
HPが多かろうが、数字には限りがある。
敵のタンクは瞬時に屠られた。
『ナイスチーム! みんな強いぞ! めっちゃ良い当たり合いだった!』
ウォーカーは瞬時に理解した。
このサポートはただ者ではないと。
Sup2:go uninstall tank 《ゲーム辞めちまえタンク》
とんでもなく暴言厨だった。