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第六十八話 潜入成功

 翌日、朝食を済ますとシュラを留守番にして役所へ出かけた。

 駅の北口まで戻り北へ歩くと、駿府城址を囲む車を積み重ねたバリケードの様な壁が見える。

 近づくと、壁は駿府城址を囲む県道に築かれ、ぐるりと駿府城址を囲んでいる。


 壁の中に県庁舎があり、ここが本丸になっているようだ。

 戦国武将今川家の家紋の大きな旗が立っている。丸に二本線のわかりやすい家紋だ。

 駿府城址を囲む壁の外に市役所があり、ここが受付の対応をしている。

 市役所の建物の外にテントがあり、ここに人が集まっている。

 恐らく建物の中は、すでに暑く、暗いので外で受付をしているのだろう。

 ファンタジーのギルドのように感じる。


「あの、店を出したいのですが」


 案内と書いてある机にいる女性に話しかけた。


「では、三番の窓口へ行ってください」


「わかりました」


 一番、二番の討伐隊募集の窓口を通り越して、三番の窓口の前に来た。

 一番、二番の窓口は人が大勢いたが三番には人が一人もいない。

 四番の窓口は、行方不明の家族を探す窓口になっている。

 ここも人が一人も並んでいない。

 恐らく数ヶ月前は沢山の人が並んでいたのだろう。


「すみません、お店の登録をお願いしたいのですが」


「おお、あんたは」


 窓口にいたのは、居酒屋で会った、尾野上さんだった。


「尾野上さんですね。俺は大田です。お店を出したいのですが」


「そうですか。どちらに出されますか」


 尾野上さんは白地図を出した。

 地図は、駿府城のまわりと駅までの道沿が赤く塗ってある。

 俺は店の場所を、指さした。


「ここですか。見ての通り、色が塗っていないところは空き家です。城のまわりから駅の近くに人が多くいます。大田さんの店は、そこから少し離れています。空き家は、まだあります、変更された方がいいと思いますよ」


 尾野上さんは優しい人なのか、丁寧に教えてくれた。


「ありがとうございます。ですが、俺はここが気に入ってしまいました。問題なければここでお願いします」


 あんまり人通りの多いところは、遠慮したいのでその点でも、かえって丁度いい。

 大田大商店のまわりには、赤いところが無いので、近所迷惑もかけなくて済みそうだ。


「そうですか。わかりました」


 尾野上さんは、白地図の俺の店を赤く塗りつぶした。


 ブオオオオォォォォォ


 数台のバイクが猛スピードで、車の壁の間に開いている門をくぐって、中に入っていった。


「あれは?」


 俺は、尾野上さんに聞いて見た。

 この人は、今川家の部隊の中隊長と言っていた。

 いろんな情報を持っているだろう。


「あーあれですか、あれは、伝令ですね。何か起きたのかもしれません。まあ、今日の俺の仕事は、こっちの担当ですから関係ないでしょう」


「そうですか。ところでなぜ、庁舎の中で受け付けをしないのですか」


 俺は大体答えは知っているが、聞いて見た。


「ああ、庁舎の中は、すでに暑い。外の方が、風がある分涼しいのですよ。それに明かりが無いので、中は暗いですからね」


「そ、そうなのですか」


 俺は驚いた振りをする。そして続けた。


「大田大商店では、涼しくする為の物と明かりを商品にしています。これから、夏になります、あると便利ですよ」


「な、なんと、見ることは出来ますか?」


「お店に来ていただければ、お見せ出来ます」


 さりげなく、お店の宣伝をしておいた。

 少し書類を書かされたが、偽名でも何でも登録できるようだ。


「では、登録料をお願いします」


「いくらですか?」


「二万円です。前払いとなります」


 どうやら、売り上げに応じて支払うのでは無く、一店舗いくらと払うようだ。

 まあ税務署も無いのだから、こんな所なのだろうか。

 おかみさんが、お金を数えだした。


「隊長ー!! た、大変です」


 尾野上さんの部下が慌てて走ってきた。


「どうした」


「はい、保井一家から救援要請があり、隊長の隊が救援隊として派遣されることが決まりました」


「何があった」


「はい、保井一家の領地が賊に荒らされ、報復の為五十人の討伐隊を出しましたが全滅。再度百人出しましたが、敗走しました」


「ふむ」


「殿より、百人の部隊を率いて保井一家に協力し殲滅せよと、下知がありました。すぐに準備して下さい」


 すげー、今川家、殿とか言っちゃてるよ。

 言われるの嫌だろうなー。かわいそー。


「わかった。大田さん聞いての通りです。どうですか。荷物運びの働き口がありますが、参加して見ませんか」


「えっ!? 日当はいくらですか」


「日当は四千円、五日間と言うところですかな」


「二万円かー。登録料と相殺できますか?」


「もちろんです」


「わかりました。荷物運び承りました」


 俺は、おかみさんにお金を払ってもらうのに、気が引けていた。

 お金が稼げるのなら丁度いいと思い、引き受けることにした。


「私も行きます」


 すかさず、あずさが言った。


「あはははは、女性は無理です」


 尾野上さんに笑って一蹴された。


「あずきと、はるさんは、留守番を頼む」


「おい、この二人に一人女性職員をつけて、お店まで行くように手配してくれ」


「はっ」


 尾野上さんは出来る人の様だ。

 俺の店に商品を見に行くよう手配してくれた。


「じゃあ、大田さん行きましょうか」


 俺は、尾野上さんに案内されて、車の壁の中に案内された。




「隊長、また、受付なんかやっていたんですか」


「当たり前だ、人手不足なんだ、俺はどこでも働く。それより準備は出来たか」


「はっ、尾野上隊百人、輜重隊五十人そろっています」


 朝一で役所へ行ったのが良かったのか、俺は今川家の荷物持ちの一人に潜り込むことが出来た。

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[一言] バイトと称して今川家の荷物持ちに潜入した木田さん! 果たして。
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